自民党は安倍政権時代に改憲項目を4項目に絞りました。その一つが「9条1、2項を残して自衛隊を明記する」というものですが、朝日新聞では「賛成」が55%、「反対」は34%、「共同通信」では「賛成」が67%、「毎日新聞」では「9条を改正して自衛隊を明記する」ことに「賛成」が58%で、いずれも過半数が賛成しています。
重大なのは、「9条は変えないほうが良い」が多数を占めているケースでも、自民党案に対する賛成が増えていることで、9条1、2項が残されれば戦争放棄の平和憲法は守られる、9条2項の「戦力不保持」規定が残り「自衛隊」と明記するだけであれば「現状と変化はない」と受け止められていることです。
本当にそうなのでしょうか。事実は全く違い、自民党(と維新の会)の9条改憲案には9条2項を残しながら空文化する仕組みが埋め込まれているのです。
しんぶん赤旗に「平和考 9条 空文化トリック 打ち破る世論づくり急務」とする記事が載り、その点を明快に説明しています。
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平和考 9条 空文化トリック 打ち破る世論づくり急務
しんぶん赤旗 2022年6月7日
自民党に続き、日本維新の会も「9条1、2項を残し自衛隊を明記する」内容での9条改憲案を提示しました。自民も維新も、2項の「戦力不保持」を残し、書き込むのは「自衛隊」であり「何も変わらない」と繰り返します。そこには2項を残しながら空文化する仕組みが埋め込まれています。トリックを打ち破る対話、署名の拡大が急務です。(中祖寅一)
自民案賛成なぜ増える
重大なのは、世論調査で「9条は変えないほうが良い」が多数を占めているケースでも、自民党案に対する賛成が増えている状況です。
例えば、今年5月3日付「朝日」が報じた調査(3月中旬~4月下旬実施)では、9条の条文を示したうえで「憲法9条を変えるほうがよいと思いますか。変えないほうがよいと思いますか」との問いに「変えないほうがよい」が59%、「変えるほうがよい」が33%でした。
ところが、自民党改憲4項目の「9条1、2項を残して自衛隊を明記する」という案については「賛成」が55%、「反対」は34%となりました。「共同」では「賛成」が67%で、「毎日」では「9条を改正して自衛隊を明記することに賛成ですか」と尋ねたところ、「賛成」が58%となりました。
ここには、9条2項の「戦力不保持」規定が残り「自衛隊」と明記するだけであれば、「現状と変化はない」との受け止めが表れています。
維新が5月18日に「憲法9条の改正に向けて」と題して「9条1、2項を残し自衛隊を明記する」内容での9条改憲案を発表したのも、この枠組みで改憲論議を促進・加速する動きです。
自民党改憲4項目から |
本当に変わらないのか
では自民党条文イメージ案で本当に何も変わらないのでしょうか。
自民党の自衛隊明記案のポイントは、前条の規定、すなわち「戦力不保持」規定は、「必要な自衛の措置を妨げず」としていることです。「妨げず」とは、否定しないということです。「自衛隊」の権限=「必要な自衛の措置」を2項が制約せず、無制限の海外での武力行使を認めるしかけが組み込まれています。
これまで政府は「専守防衛」の建前から武力行使は「必要最小限度」とする建前をとってきました。ところが自民党条文イメージでは武力行使の「自衛の措置」の要件から「最小限度」の4文字を消し「必要な自衛の措置」としています。
武力行使が「必要最小限度」にとどまるというのはどういうことか。具体的には(1)武力攻撃の発生 (2)他に取るべき適当な手段がない (3)必要最小限度の実力行使にとどめる―
が「武力行使の3要件」とされてきました。このうち「必要最小限度」とは、他国領域内での武力攻撃の禁止など、日本に対する攻撃の「排除」を超えた武力行使は許されないなど、「専守防衛」のもっとも中心的な要件です。
自衛隊の持つ権限を「必要な自衛の措置」とすることで、「必要最小限度」という制約がなくなれば、これまでの自衛隊の在り方は根本的に変わります。
こうして「必要な自衛の措置を妨げない」とは、無制限の海外での武力行使を可能とすることになります。自衛隊は、まさに戦力=軍隊に変貌します。自民党が繰り返す「自衛隊の違憲性の解消」というのはごまかしの理由付けです。
アイデアは日本会議発
「9条1、2項を残して自衛隊を書き込む」案は、2017年5月3日に、安倍晋三首相(当時)が日本会議系集会へのビデオメッセージで突然提起したものです。
このアイデアは、もともと安倍首相のブレーンである日本会議政策委員らの発案によるものでした。
安倍提案の2カ月前、日本会議国会議員懇談会が集会で「憲法上に明文の根拠を持たない自衛隊の存在を、国際法に基づく自衛権を行使する組織として、憲法に位置付ける」と提案。自衛隊を憲法上の存在に格上げし、無制限の自衛権行使を可能とする案でした。
前年の16年秋には、安倍氏のブレーンで日本会議政策委員の伊藤哲夫氏が、自身が代表を務める右派シンクタンク日本政策研究センターの機関誌『明日への選択』2016年9月号で「憲法9条に3項を加え、『但し前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない』といった規定を入れる」と提起していました。前出の日本会議議連案とそっくりの内容です。
さらに同誌11月号では同政策研究センター・研究部長の小坂実氏が「速やかに9条2項を削除するか、あるいは自衛隊を明記した3項を加えて2項を空文化させるべき」だと述べていました。
自衛隊を憲法に書き込み(加憲)、位置付けることの狙いが2項の空文化にあることをあけすけに語っていたのです。