ウクライナ戦争に関しては「米国が一番悪い」ということが一部識者の間で言い古されています。それではバイデンと一心同体となって国民に対して一歩も譲るなと締め付け、督戦しているゼレンスキーについてはどうなのでしょうか。
いまや800万人ともいわれるウクライナ国民が国外に避難し、その多くは貧しく不便な生活に追いやられる中で、成人男子には国外への脱出を禁止し兵士に狩り立てた上で、前線から離脱することを許さずひたすら継戦を厳命するというのは正しいことなのでしょうか。しかもウクライナでは1日平均100人以上が亡くなっているということをゼレンスキー自身が公言しています。
勿論ゼレンスキーを支持する国民もいることでしょうが、その最右翼であるアゾフ大隊がマリウポリの戦闘で、絶対に降伏するなと言われていたにもかかわらず最後に降伏したところをみると全面的には支持はされていないし、そもそもゼレンスキーの命令には無理があります。
元外交官で情報関係にも関与していた孫崎 享氏が、「ゼレンスキーはウクライナ国民にとって最悪の大統領になるのか」という記事を出しました。
併せて植草一秀氏の「いのち犠牲にする戦争やめるのが先」を紹介します。
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日本外交と政治の正体 孫崎 享
ゼレンスキーはウクライナ国民にとって最悪の大統領になるのか
日刊ゲンダイ 2022/06/24
ウクライナ情勢に関する基本構図は明確になった。米国などNATO諸国の武器供与によって、もはやロシア軍がウクライナ全土を支配することはない。他方、米国の提供する武器は防御が主体で、東部で優勢に立ったロシア軍を一掃する武器は与えていない。
西側諸国の武器供与の基本方針は「ロシア軍を勝たせない」「ロシア軍に勝利するだけの兵器は与えない」である。
米国は戦闘の長期化を意図している。長期化させることで、戦争に従事するロシアを疲弊させる。そして、ロシアの脅威を見せつける形をとることで、NATO諸国を米国戦力の下に置く。これで欧州諸国に防衛費拡大をさせる。防衛費拡大をさせれば、その半分は米国兵器を買うことになり、米国軍事産業は潤う。
戦争の長期化で米国軍事産業が潤うことは間違いないが、ウクライナはどうなるのか。
今、800万人以上の人が国外逃亡している。もちろん、十分な居住地や職業はない。底辺の生活を余儀なくされる。
東部での戦闘は激しく、ウクライナ兵は1日100人以上が死んでいる。この数字はベトナム戦争で最も激しい戦闘が行われていた時の米国兵の死者数と同じレベルである。そして戦争の継続でウクライナ国土は疲弊する。世界銀行は今年のウクライナのGDPは40%程度ダウンする、と予測していた。
「ロシア軍を勝たせない」「ロシア軍に勝利するだけの兵器は与えない」という西側の戦略で、ウクライナ国民は徹底的に蹂躙される。
ウクライナがこれから脱する道はあるのかと言えば、ある。①NATOをウクライナに拡大しない ②東部をその地の「自決権」に委ねる──。これらは歴史的、国際条理に基づいて決して無理な条件でない。①は1990年にベーカー国務長官がゴルバチョフ氏らに約束したことである。さらに民族の自決権は国連憲章第1条の目的に謳われた原則である。
ゼレンスキーは「ウクライナ東部の最後の1メートルまでとり戻す」と言っている。しかし、武器を全面的に依存している米国は「ウクライナに負けさせず、勝たせない」程度の武器を与え、戦争の長期化を図っているのである。ウクライナ国民の視点に立てば死者は出す、国土は疲弊するのである。ゼレンスキーはウクライナ国民にとって最悪の大統領となるのではないだろうか。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
いのち犠牲にする戦争やめるのが先
植草一秀の「知られざる真実」 2022年6月24日
ウクライナで戦争が行われていることについて正しい対応は何か。
言うまでもない。戦争をやめること。戦争に敵も味方もない。あるのは滅びだけだ。
これは長崎で被爆され、いのち尽きるまで被爆者の救護に尽力した永井隆博士が遺された言葉。
米国のバイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は戦争を長期化し、戦争を拡大することだけを目指している。共通するのは二人とも我が身を安全な場所に置いていること。
ウクライナは民主主義国家でない。言論を弾圧し、苦役を国民に強制している。
民間放送会社は廃止された。あるのは国営放送一本。
野党は禁止された。政府への反論は許されない。
成人男子は国外に避難することを許されない。国家総動員法が施行されている。
かつての日本と同じ状態だ。
そもそもウクライナ政府は正当な政府でなかった。2014年に暴力革命が勃発した。
2014年2月21日、ウクライナ政府とEUは最終合意に到達した。
大統領選挙を2014年末までに実施することなどを決定し、和解したのである。
ところが、この和解を忌々しく思っていた人物が存在した。米国国務次官補のヴィクトリア・ヌーランド。
ヴィクトリア・ヌーランドはウクライナの極右組織、ネオナチ勢力と結託していた。
ウクライナの政変は2013年11月21日にスタートしている。
ウクライナのヤヌコビッチ大統領がEUとの連携協定署名先送りを決定したことが端緒。
EUとの連携協定がウクライナ国民にプラスにならないことを考慮しての決定だった。
米国はあらかじめ水面下で大規模デモを組織化する準備を進めており、大統領決定と同時に大規模デモが組織された。この平和デモが暴力デモに変質させられた。
その変質を主導したのが米国であると見られている。
米国はウクライナ民族主義者、ネオナチ勢力と結託して平和デモを暴力デモに変質させた。
2013年11月21日から23日にかけて、新たなテレビ局が3局も開局された。
そのひとつに資金支援したのがジョージ・ソロス。
こうしたヌーランドの努力の甲斐もなく、EUはウクライナ政府と和解した。
これが14年2月21日。
その直前にヌーランドとジェフ・パイアット駐ウクライナ米国大使がウクライナ暴力革命後の人事について相談した電話音声がYoutube で暴露された。
このなかでヌーランドが〝Fuck the EU”と叫ぶ場面がある。
ウクライナ政府と冷静な対話をするEUに対する怒りの感情を示したものと見られる。
翌2月22日に流血の惨事が勃発した。デモ隊およびウクライナ警察官29名が何者かによって射殺された。
米国と結託するネオナチ勢力による「偽旗作戦」が遂行されたと見られている。
群衆は暴徒化し、大統領は国外脱出を余儀なくされた。
ウクライナ新政府の樹立は憲法の規定に則って行われたものでない。
非合法政府が樹立されたが、この非合法政府を直ちに承認したのが米国である。
米国の「力による現状変更」強行だった。
非合法政府は2月23日にウクライナ民族社会の設立を決定。
ロシア系住民に対する人権侵害と差別的取り扱いを決定した。
この結果としてクリミアで住民投票によるロシア帰属が決定され、ドンバス2週で内戦が勃発した。その延長線上で今回のウクライナ戦乱が発生した。
最大の原因は東部2州に対して高度の自治権を付与することを決めたミンスク合意がウクライナ政府によって踏みにじられたことにある。
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