宏池会という自民党内派閥はこれまでリベラル派と見做され、実際大平正芳、宮澤喜一、河野洋平、古賀誠らはそんな雰囲気を持っていました。岸田文雄氏もこれまではそうした人脈に属するものと思われていました。
首相になりたての頃は彼から一向にハト派らしい発言が聞けなかったので、まだまだ安倍元首相の掣肘下にあるからで、いずれはリベラルの本領を発揮するだろうと思ったのですが、そんな気配はいまもなく「ただ聞くだけ」そして「ただ言うだけ」の人間で、そもそも「本領」に当たるものが欠落していたのでした(先日たまたまBSの番組を見ていたら、毎日新聞の論説委員だったかの女性が、「岸田首相は『何も芯のない』人間」という趣旨の発言をしていました)。
そうであればこの先もただただ時流に乗って極右路線を突き進むだけなのでしょう。
そのこととは別に、植草一秀氏が、現在岸田首相の下で「構造改革」や「成長戦略」の名で推進されてきた(いる)5つの政策を極めて簡潔かつ明快に批判し、そのすべてを根本から是正することが求められていると断じました。
そして新自由主義経済政策は、格差拡大とあたらしい貧困問題の原因になってきた点からも排除されなくてはならないとするとともに、「資本主義はただひたすら資本の利益追求を第一に位置付けるものなのだから、資本主義に新しいも古いもない。だから資本主義を変質させるのではなく、資本主義を抑制することが求められている」と、いまも尾を引いている岸田氏の「新しい資本主義」問題を明快に整理しました。岸田氏は頭の中を整理して大いに参考にすべきです。
植草氏の記事「資本主義を民主主義に転換する」を紹介します。
併せて「黒田日銀総裁更迭が国民的正義」を紹介します。こちらは「物価と金利は経済にどのような影響を与えるのか」をテーマに論じたもので、物価と金利は企業と家計に対して、それぞれ正反対の影響を与えることを、これまた簡潔明快に説明しています。
アベノミクスの「人為的低金利政策」が、家計に損失を与えて企業に利益を付与する政策であることが良く理解できます。
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資本主義を民主主義に転換する
植草一秀の「知られざる真実」 2022年6月11日
岸田首相が自民党党首選で「分配」問題を提唱した。「新しい資本主義」とも述べた。
しかし、何も変わらない。見かけ倒しとはこのことだ。
2001年の小泉政権発足後、日本を吹き荒れているのが新自由主義の嵐。
新自由主義の目的は資本の利益の極大化。「構造改革」や「成長戦略」などの言葉が用いられてきたが、中身は同じ。いかにして資本の利益を極大化するかである。
生産活動の結果として得られる果実は資本と労働で分け合うことになる。これを「分配」と呼ぶ。
資本が資本の利益を極大化するためには何が必要か。答えは単純明快だ。労働の取り分を減らせばよい。労働分配を減らすこと。これが資本のリターンを高める秘訣になる。
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農業、医療、雇用の自由化。特区創設。そして法人税減税だ。
雇用の自由化とは雇用規制の撤廃。長時間残業を合法化し、非正規労働へのシフトを加速する。残業させ放題労働制度を拡充する。さらに解雇の自由化、最低賃金の廃止などが追求されている。「働き方改革」という名称が使われたが、実態は「働かせ方改悪」だった。
これまで日本の農家が営んできた農業をグローバル大資本が簒奪するための方策が何重にも構築されている。農業だけでない。水産業、林業も同じ。
グローバル資本が収益を上げる対象が限られてきている。そのなかで彼らが目を付けたのが日本の一次産業である。
この施策が推進されることにより、食の安全が脅かされ、食の自給体制が一段と脆弱化する。
憲法が保障する生存権のなかに「食料への十分な権利」が含まれるが、この基本権が侵害される恐れが高まっている。
医療の自由化は医療を公的保険医療と公的保険外医療に二分するもの。
医療の分野に貧富の格差が持ち込まれる。
同時にハゲタカ資本は民間医療保険ビジネスで巨大な利益を追求することになる。
法人税減税はハゲタカ資本が求めたもの。
日本企業の発行株式の3分の1が外国資本保有になっている。
この外国資本は日本で税金を払いたくない。
このことからハゲタカ資本のエージェントに法人税減税推進のロビー活動を取らせてきた。
さらに、ハゲタカ資本は確実に収益化できる分野として公的事業分野に目を付けた。
水道などの公的事業は、1.独占事業であり、2.生活必需品事業である。事業で失敗する可能性がゼロに近い。
独占形態になり、生活必需品である分野は公的管理下に置くことが望ましい。
民間事業の目的は利益追求であり、利潤を獲得する分だけ供給価格は高くなる。
公的事業では経営努力が不足して効率が悪くなることが懸念されるなら、公的事業に対する厳正な監視制度を構築すればよいだけだ。
営利目的の民間企業に独占事業を委ねることの方がはるかに弊害が大きい。
こうしたハゲタカ資本の利益追求優先の政策が展開されてきた。
このすべてを根本から是正することが求められている。
新自由主義経済政策を排除するべきもう一つの理由は、これが格差拡大、あたらしい貧困問題の原因になってきたこと。
資本の利益を追求するのが「資本主義」であるから、「資本主義」を変質させるのではなく、資本主義を抑制することが求められている。
資本主義に新しいも古いもない。資本主義はただひたすら資本の利益追求を第一に位置付けるものなのだ。
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黒田日銀総裁更迭が国民的正義
植草一秀の「知られざる真実」 2022年6月 8日
日本銀行の黒田東彦総裁が6月6日の講演で家計の物価に対する見方について、「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言した。
当然のことながら、発言に対する批判が沸騰。黒田氏は発言撤回に追い込まれた。
6月8日に開かれた衆議院の財務金融委員会で黒田氏は、「表現は全く適切でなかった」と述べ、発言を撤回した。
黒田氏は3日の講演で「家計の値上げ許容度も高まってきているのは、重要な変化と捉えられる。日本の家計が値上げを受け入れている間に、賃金の本格上昇にいかにつなげていけるかが当面のポイントだ。」と意味不明の発言を示した。
そもそも、「日本の家計が値上げを受け入れている」との現状認識が間違っている。家計が値上げを受け入れるわけがない。
「賃金の本格上昇にいかにつなげていけるかが当面のポイント」の発言も、経済のメカニズムをまったく理解していないことを表している。
物価と金利は経済にどのような影響を与えるのか。
この基本を押さえることなく日銀のトップを務めているというのだから驚きだ。
物価と金利は企業と家計に対して、それぞれ正反対の影響を与える。
前提として企業は借金を持ち、家計は貯蓄を保有しているとする。
企業は雇用を抱え、家計は企業からの賃金で生計を立てているとの仮説の上に議論を整理する。
物価上昇を歓迎するのは企業であり、物価上昇は家計に打撃を与える。デフレの時代が続くなか、「適切なインフレが必要」の議論が生じた最大の背景は企業の要請だった。
名目賃金を引き下げるのは難しい。このなかで物価が下落すると物価下落分だけ実質賃金が上昇する。
この負担に企業が耐えるのは大変だ。このことからインフレ誘導が求められた。インフレになると名目賃金を引き下げなくても実質賃金が下がる。これを企業が求めたのである。
しかし、インフレによって実質賃金が下がることは家計にとってマイナスになる。
「家計に損失を与えて企業が利益を得る」ことが「インフレ誘導政策」の根本目的だった。
他方、金利上昇は預金者に恩恵を与える。金利収入が増えるからだ。しかし、金利上昇は借金を抱える企業の利払い負担を増大させる。
したがって、「人為的低金利政策」は、家計に損失を与えて、企業に利益を付与する政策である。
2013年以降の黒田東彦氏の金融政策運営基本に何が置かれてきたか。
金融政策運営の基本に置かれてきたのは、
「インフレ誘導」と「人為的低金利政策」=「ゼロ金利政策」=「マイナス金利政策」だ。
この状況下でウクライナ戦乱が発生し、原油価格が急騰した。
米国は金融引き締め政策を実行し、円安が加速している。日本の物価も明確に上昇に転じている。この物価上昇は家計に損失を与え、企業に利益を付与するもの。
この状況下で家計に損失を与えることについて黒田東彦氏は「日本の家計が値上げを受け入れている」と言い放った。
4月8日に公開された日銀の役員報酬を見ると、黒田総裁の年間報酬は3501万円。
月に100万円の報酬を「100万円しかもらっていない」と発言したのは細田博之衆議院議長。
大資本の利益追求しか頭の中にない、庶民の暮らしの実情も苦しみも知らない者たちがこの国の政治と経済政策を仕切っている。これで国民が浮かばれるわけがない。
主権者は日本の上層部を総入れ替えする権利と手段を持っている。
選挙で為政者を一掃する行動を示すことが求められている。
(後 略)