2022年1月19日水曜日

「 ~ 閉塞の世相に『波風立てない政権』が続く暗澹」(日刊ゲンダイ)

 最近、無差別に人を襲い、自らも死を望む事件が相次いでいます。名古屋の少年も含めて3人とも自分と社会に絶望し、自暴自棄になったのだと思われます。

 この20年、日本は活力を失い重苦しい閉塞感に覆われてきました。20代以下の人の3分の1は「親世代より自分たちは不幸」であるという自覚を持っているということです。若者が希望を持てない社会は異常で、これでは国が良くなる筈がありません。
 2000年初頭、小泉・竹中政権時代に新自由主義が導入され、突如「自己責任論」が調されました。

 2010年代からはアベノミクス10年間続き、「貧富の差が広がり、それが固定され、収入が全く増えなくなりました。まさに「閉塞」の時代が20年以上も続いているのです。
 新自由主義を標榜した小泉・安倍・菅時代を経て、9月にようやく新しい首相が誕生しましたが、何か光明が差したかといえば「否」です。
 17日召集された衆院本会議での所信表明演説では、「賃上げ率の低下傾向が続いているが、このトレンドを一気に反転させる」「国民一人ひとりが豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていく」などと恰好の良い言葉びましたが、ただそれだけのことで、最後まで具体策はまったく述べられませんでした。ここまで無味乾燥で迫力のない施政方針も珍しいといわれています。まさに「空の空なるかな」です。

 岸田政権は「政権維持」自体を至高の目標として、そのためには安倍氏の意向も無視して体制を固めました。それは結構なことだったのですが、その後は強いリーダーシップを発揮するのかと思えばそうではなく、「波風が立たない」ようにひたすら右顧左眄し、党内においてもまた国民からも、出来るだけ批判を浴びないように立ち回っています。
 唯一この閉塞感を破るものとして、岸田氏が当初掲げた「新しい資本主義注目されましたが、岸田氏が一体何を目指しているのか、演説を聞いても最後まで判然としません(五野井郁夫氏)でした。
 これではとても閉塞感打破することなど無理です。
 日刊ゲンダイが「 ~ 閉塞の世相に『波風立てない政権』が続く暗澹」とする記事を出しました。
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なぜやりきれない事件が相次ぐのか  
閉塞の世相に「波風立てない政権」が続く暗澹
                         日刊ゲンダイ 2022/01/18日
                        (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 これも「拡大自殺」だったのか。また無差別に人を襲う事件が起きてしまった。
 名古屋市の私立高2年の少年が、大学入試の会場となっていた東京大学の前で3人を刺した事件はショッキングだ。少年は「東大医学部を目指していたが、成績が上がらず、人を殺して死のうと思った」と供述しているという。
 最近、無差別に人を襲い、自らも死を望む事件が相次いでいる
 昨年10月には、ハロウィーンの夜、20代の男が東京の京王線の車内に火をつけ、次々に乗客に切りつける事件も起きている。男は「死のうと思ったができず、2人以上殺せば死刑になると思った」と話しているそうだ。男は4カ月前、失業していた。
 さらに、昨年12月には、大阪のクリニックが放火され、25人が犠牲となる凄惨な事件があった。火をつけた61歳の無職の男も死亡している。他人を巻き込んで自殺を図った可能性が高い。
 共通するのは、事前に現場を下見するなど周到に準備していたことだ。
 米心理学博士の鈴木丈織氏がこう言う。
「どうやら大阪の事件と京王線の事件の容疑者2人は、社会から孤立し、経済的にも苦しかったようです。名古屋の少年も含めて3人とも自分と社会に絶望し、自暴自棄になったのでしょう」
 ここまで類似した事件がつづくと、もはや個人の問題では片付けられないのではないか。やはり行き詰まった日本社会と関係があるのではないか。
 なにしろ、この20年、日本は活力を失い、重苦しい閉塞感に覆われたままだ。過去20年、GDPの伸びはわずか年率0.7%、実質賃金の伸びは0.09%である。20年間、まったく賃金が上がっていないのだ。地方はさびれ、中小企業は喘いでいる。アメリカと違って「GAFA」といった新興企業も生まれなかった。
 とくに“低成長時代”しか知らない20代以下は、日本社会に希望を持ちづらくなっている。日経新聞の調査によると、「自分の世代は親世代よりも幸せ」と答えたのは31%、「親世代より不幸」は35%だった。若者が希望を持てない社会は異常だ。
 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「“他人を殺して自分も死ぬ”という犯罪が多発するのは、日本に新自由主義が導入されたことも大きいと思う。アベノミクスの10年間で“貧富の格差”が広がり、しかも固定されてしまった。一度転落すると、なかなか這い上がれない。とうとう、若者の間では、生まれた家で人生が決まるという“親ガチャ”という単語まで使われはじめています。しかも“自己責任”を強いられるようになってしまった。生きるのがシンドイ社会になってしまった。これでは、自暴自棄になる人も出てくるでしょう」

頭にあるのは「政権維持」だけ
 20年つづく閉塞感をブチ破り、将来に展望を開くためには、トップが強いリーダーシップを発揮するしかない。しかし、岸田首相に、それがやれるのか。
 17日召集された衆院本会議での施政方針演説を聞いて失望した国民も多いはずだ。
「賃上げ率の低下傾向が続いているが、このトレンドを一気に反転させる」「国民一人ひとりが豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていく」と、耳当たりのいい言葉を並べていたが、最後まで具体策はゼロ。驚きもなく、言葉の羅列でしかなかった。ここまで無味乾燥で迫力のない施政方針も珍しいのではないか。
 本来、社会が行き詰まった時は、田中角栄のような強い実行力を持った人物でないと務まらない。角栄は「列島改造論」をブチ上げ、貧困にあえぐ地方からの変革を目指した。新しい時代をつくることに心血を注いだ。
 ところが、首相に就任したこの3カ月、岸田は強いリーダーシップを発揮するどころか、「波風が立たない」ように、ひたすら右顧左眄してきただけだ。
「『聞く力』と言えば聞こえはいいですが、この間、岸田首相は“政権維持”のために批判を浴びないように立ち回ってきたのが実態です。新型コロナワクチンの3回目接種について『遅い』と指摘されると、突然、前倒しを表明。『18歳以下への10万円給付』についても、当初の『現金+クーポン』での給付方針を批判されると、サッサと全額現金に変更しました」(永田町関係者)
 社会が閉塞感に覆われている時は、角栄のようなトップが必要なのに、「波風立てない」首相ではどうしようもない。
 そもそも、政権の一枚看板である「新しい資本主義」さえ、中身が固まっていないのだから話にならない。
 岸田政権の舞台裏を描いた朝日新聞の記事によると、側近に新しい資本主義のイメージを問われた岸田は、散々うなった末に「ビジョンをつくりたいんだよね」と答えたという。記事には〈岸田は「ビジョン」をこれからつくるのだという〉と書かれていたから愕然とする。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「岸田首相の演説を聞いていましたが、新しい資本主義が何を目指しているのか、最後まで判然としませんでした。いま問われているのは、この10年間で格差を生み、分断を招いたアベノミクスと決別するのか否かという一点です。岸田首相も、多少は『決別』を考えているでしょうが、明言しないのは、参院選を控え党内で波風を立てたくないからでしょう」
 こんな調子では閉塞感の打破はとても無理だろう。

停滞脱出の方策はハッキリしている
 夏の参院選で自民党が勝利すると、3年間、国政選挙を行う必要がなくなり、よほどのことがない限り岸田政権がつづくことになる。
 岸田周辺は「黄金の3年間」などと呼んでいるようだが、はたして“波風を立てない”岸田政権に、国民が希望を持てるような国をつくれるのか。
 日本社会が20年間も停滞しているのは、問題が山積しているのに、政治と企業が現状維持を旨としてやり過ごしてきたからだ。政治はとりあえず財政出動をするだけだし、国際競争力を失った企業は、賃金を抑えることに終始してきた。まともに給料を払わず、新規事業に先行投資もしなかったため、大企業の内部留保は9年連続で過去最高を更新し、いまや484兆円に膨れ上がっている。
 これではアメリカのように「GAFA」といった新産業が生まれるはずもない。
「聞く耳」だけが自慢の岸田政権では「日本の失われた20年」が、30年、40年となるだけだ。
 どうすれば、停滞した日本を再生できるのか、政府がやるべきことはハッキリしている。富裕層や内部留保をため込む大企業に応分の負担をしてもらい、もう一度、分厚い中間層を生み出すことだ。
「いま日本では、富裕層か、貧困層かにかかわらず、誰もが他者に猜疑心を抱いているように見えます。日本の強みだった厚みのある中間層が崩壊し、社会から一体感が消えたようにも感じます。共同体意識が薄い社会では、健全な民主主義は機能しない。それに非正規雇用やひとり親世帯など、働いても貧困から抜け出せない人を救済し、中間層に引き上げないと消費が回復せず、経済も回りません。“他人を殺して自分も死ぬ”というやりきれない事件が相次ぐ原因も、そこにあるのだと思います。政府が一刻も早く打ち出すべきは、誰もが将来に不安を抱くことなく、豊かさを感じられるようにするための方策です」(五野井郁夫氏=前出)
「行蔵は我に存す」──。岸田は演説で「自分の行動は全て自分が責任をとる」という勝海舟の言葉を引用したが、その覚悟はどこまで本気なのか。