岸田首相は4日、伊勢神宮参拝後の年頭記者会見で、自宅療養者が安心できるよう陽性が確認された当日か翌日に健康観察や訪問診療を始め、速やかに飲み薬を投与できる体制を確立する方針を示したうえで、医療提供体制を確保するため、自宅などでの療養体制の整備を前提に、オミクロン株の感染の急拡大が確認された地域では、自治体の判断で、症状に応じて宿泊施設や自宅での療養を認める考えを明らかにしました(NHK)。要するに感染者を全員隔離するのではなく「自宅で療養という形態をとれるようにする」ということです。
「自宅などでの療養体制の整備」とは一体何のことを言うのでしょうか。言葉は便利なもので「陽性が確認された当日か翌日に健康観察や訪問診療を始め、速やかに飲み薬を投与できる体制を確立する」と言いますが、とても実現できるとは思われず。単に全員隔離という原則を実行しないための口実にしか思えません。
首相が何の隔離政策もとらないまま、漫然と感染者の自宅療養を口にするのでは、第5波の「自宅放置」が再現されるだけです。
「第5波」では政府が出した「原則自宅療養」の方針によって多くの在宅死を招きましたが、政府はまだその検証を行っていません。
「悲劇を繰り返さないように」と遺族らが「自宅放置死遺族会」を結成しました。会の共同代表の一人の西里さんは、
「政府が検証をし、コロナにかかっても医療を受けられ、命が助かる体制づくりを求めます。人は時間がたつと必ず忘れてしまいます。でも命が軽んじられた事実を風化させてはいけません。忘れられないよう声を上げます」
と語ります。
しんぶん赤旗が取り上げました。
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コロナ「第5波」「自宅療養」でなく「放置」
一人ひとりの死と政府は向き合って
「自宅放置死遺族会」共同代表 さいたま市 西里優子さん(27)
しんぶん赤旗 2022年1月10日
新型コロナウイルス感染症の「第5波」では医療にかかれず自宅で亡くなる人が相次ぎました。「悲劇を繰り返さないように」と遺族らが会を設立。名称は「自宅放置死遺族会」。オミクロン株が広がっている今、「第6波」に向け何が必要かを聞きました。(新井水和)
「政府は『第5波』の検証をまだしていません。遺族の声を聴き、一人ひとりの死に向き合い検証をすべきです」。
同会共同代表の西里優子さん(27)=さいたま市=はそう語ります。2021年8月13日に父の西里昌徳さん(当時73)=同=を亡くしました。
入院はかなわず
昌徳さんがコロナ陽性と確認されたのは昨年8月8日。大動脈解離を患い血圧が高いため当初から「入院したい」と訴えました。病院の答えは「ひとまず自宅療養で、保健所からの連絡を待って」。
食料など必要なものは優子さんが手配。体調確認のため毎日2、3回連絡を取りました。
不安に感じた昌徳さんは何度も保健所や埼玉県の自宅療養者支援センターに電話をかけました。13日にやっと保健所につながったものの、入院はかなわず。
冷たくなった足
この日、優子さんは昌徳さんの異変を母から聞きました。携帯電話で何度も「大丈夫だよ、つらいよね」と呼びかけたものの、昌徳さんからは「ムー」といううめき声だけが。急いで実家へ向かうと、ちょうど救急隊員に担架で運ぱれているところでした。とっさに毛布からはみ出た冷たくなった足をつかみ、「パパ、優子来たよ。大丈夫だよ。頑張ってね」と叫んだといいます。
心肺停止状態で病院に搬送され、その夜に死亡が確認されました。「みんなに愛された父だったけれど、家族にみとられず、火葬にも立ち会うこともできませんでした」と悔やみます。
「保健所からは『やれることはやった』と言われましたが、食料も医療も受けられませんでした。『自宅療養』ではなく『自宅放置』です」
隠れて驚かせるなどいたずら好きで、家族のムードメーカーだった西里昌徳さん。動物好きで野良猫を保護したり、飼っている動物の名を一緒に決めたりしました。
娘の優子さんはスマホを取り出し、動画を見せてくれました。公園で近寄ってきた猫を優しくなでる昌徳さんの姿が。
「いじめられていた私を守ろうと塾に来たこともありました。愛情深い人でした」と画面を見つめます。
「父は持病があったけれど、手術をしてからは本当に元気で。一緒に旅行をするなどもっと親孝行をしたかった」。声を震わせながら語ります。
話して心和らぎ
後悔が募り、どこへ怒りをぶつけたらよいかわからなかった優子さんは、知人を通じ、同じように弟を亡くした大阪府の女性と出会いました。
「保健所の機械的な対応に耐え切れなかった。でも、保健所だけが悪いのではなく、五輪開催を決めたり、この仕組みをつくったりした政府に原因があるのかなと」。話すことで心が和らぎ、気持ちの整理ができました。
女性と遺族会をつくりました。遺族同士の交流や情報交換など試行錯誤をしながら進めていく予定です。「同じ経験をした人は一歩前に進むための手段でもいいから、独りで悩みを抱えないで、私たちを頼ってほしいです」
2021年7月。感染者が増え中止を求める声が広がったにもかかわらず、政府は東京五輪・パラリンピックを強行しました。昌徳さんが亡くなった8月13日には1日の新規感染者が2万人を超えていました。コロナが猛威を振るう中、政府が出した「原則自宅療養」の方針は、多くの在宅死を招きました。
風化させぬため
「検証は、『ここが悪かったから次はこうしよう』と、自分たちの非を認めて初めてできます」と優子さん。政府が検証をし、コロナにかかっても医療を受けられ、命が助かる体制づくりを求めます。
「人は時間がたつと必ず忘れてしまいます。でも命が軽んじられた事実を風化させてはいけません。忘れられないよう声を上げます」