国際情勢に詳しい田中 宇氏が「ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも」とする記事を出しました。ウクライナの情勢については、西側の論調はひたすら「ロシアが悪い」で一貫していますが、それは米(英)の宣伝に載っているだけで、事実は異なります。
ソ連が崩壊したときに独立したウクライナは、西部にはウクライナ系住民が多く、東部のドンバスにはロシア語を母語とするロシア系住民が多く居住していて、独立後は両者のバランスに配慮した指導者による融和的な政治が行われてきました。
ところが2014年、米国務省のビクトリア・ヌーランドらが主導して「血塗られてたクーデター」が起こされ、親米のキエフ政権が作られました。同政権は、その後東部の自治を剝奪し、政府軍によるロシア系住民の殺害や迫害を行うようになりました。現在は政府軍と東部の民兵団による内戦状態にあるということです。
要するに今日の悲劇を生んだ元凶は米国であり、ロシアがウクライナ国境の近くに10万人といわれる軍隊を配備したのは、ドンバスに住む同胞を守ろうというロシアの正義に基づくものです。
ウクライナについては先ずは2014以前の状態に戻すのが筋で、いずれウクライナをNATOに加盟させて、ロシアへの対抗勢力の最先端にしようとするのは間違っています。
田中氏の記事を紹介します。
(追記) 最近カザフスタンの情勢が注目されていますが、これについても西側の論調を読むだけでは真相はなかなか分かりません。ブログ「マスコミに載らない海外記事」に、下記の記事が載りました。興味をお持ちの方はご覧になってください。
新世界秩序を示唆する最近のカザフスタン・クーデタ未遂(1月22日)
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ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも
田中 宇 2022年1月24日
米英の諜報界(軍産複合体)が、ロシアを挑発してウクライナ東部に侵攻させようとしている。ウクライナは、ウクライナ語を母語とするウクライナ系住民が多い西部地域と、ロシア語を母語とするロシア系住民が多い東部地域(ドンバス)から成り立ち、2014年までは、おおむね両者をバランスする指導者が政権をとっていた。だが米英諜報界は、2014年にウクライナ系の右派勢力を扇動して反政府運動(マイダン革命)を起こして支援し、政権転覆してロシア敵視の右派政権とすげ替えた。米英諜報界に操られて成立したウクライナ右派政権は、東部地域の自治を剥奪したので政府軍と東部の民兵団の間で内戦になり、現在まで内戦が続いている。(ウクライナ軍の敗北)
この地域のロシア系住民は、ウクライナとロシアにまたがって住んでいるが、ウクライナもロシアも1991年のソ連崩壊までソ連の一部であり、ウクライナ側のロシア系住民も、ロシア側のロシア人と同じ民族で、同胞だった。ウクライナ側も、国内に2民族がいても何の問題もなかった。ソ連が崩壊しウクライナが独立してウクライナ系のナショナリズムが強まった後も、ウクライナ政府は東部のロシア系住民に自治を認めて融和していた。だが米英諜報界は、2014年から意図的にこの融和を破壊し、ウクライナ系のナショナリズムに取り憑かれた右派政権の政府軍と民兵団に武器支援して、彼らが東部のロシア系住民を攻撃するよう仕向け、ウクライナを内戦に陥れている。ロシアの政府や人々は、自分たちの同胞であるウクライナのロシア系住民が米英の扇動で殺されていくのを見て、当然ながら激怒した。
ソ連崩壊などの歴史的な経緯からウクライナ側のドンバスに住んでいる同胞を助けることは、ロシアの政府や人々にとって完全な「正義」である。ウクライナ政府が米英諜報界の傀儡になり下がり、ウクライナ政府軍がロシアの同胞であるロシア系住民を殺している。ロシアの人々や政治家は正義の感情として、ロシア政府軍をドンバスに差し向けて同胞を助け、ウクライナ政府軍を壊滅させるべきだと考えた。 (プーチンを強め、米国を弱めるウクライナ騒動)
だが、2014年のロシアはまだ今より弱く、欧米との政治経済の関係を重視せざるを得なかった。もしロシア軍がウクライナ東部に進軍したら、米英諜報界はここぞとばかりにロシア敵視を扇動する。欧米諸国はロシアに極悪のレッテルを貼って経済制裁を強化する。欧米の政界やマスコミには米英諜報界の傀儡が多く、ほとんど誰もロシアの事情を理解しようとしない。少し考えれば、ロシアにとってウクライナ東部の同胞を助けることが大きな正義・義務であることがわかるのに、それは無視され「無実のウクライナに露軍が侵攻する極悪・人道犯罪が行われた」と歪曲的な話が喧伝され、欧米日の間抜けな人々がそれを軽信してロシアが悪いんだと思い込む。(日本でまともなのは一水会ぐらいだ)(敵視と譲歩を繰り返しロシアを優勢にする米国)
ロシアはウクライナに軍を侵攻させず、代わりに露軍の要員が私服でウクライナ東部に入ってロシア系住民の民兵団を強化する戦略立案を行い、東部民兵団がウクライナ軍と互角に戦えるところまで持っていった。ロシアはウクライナ東部に武器を支援した可能性もあるが、露ウクライナ国境を監視していた欧州のOSCEは大規模な武器の越境を確認していない。ロシアはウクライナ東部のうち、ロシア軍の最重要な基地があるクリミア半島だけは、地元のロシア系の自治政府による分離独立宣言を支持し、クリミアをロシアに併合した(クリミアは、ウクライナ系だったフルシチョフによって1954年にウクライナに編入されるまでロシア領だった)。ロシアは欧米に配慮し、その他のウクライナ東部をウクライナ側に残したまま、東部の同胞を目立たないように支援してきた。しかし、米英主導のロシア敵視はひどくなるばかりで、ロシアに対する米欧の経済制裁は強化される一方だ。 (茶番な好戦策で欧露を結束させる米国)
米国は昨年、バイデン政権が外交や経済や国内行政やコロナ対策で失敗を続け、覇権の低下が加速した。昨年8月の米軍アフガン撤退などを機に、ロシア以南の中央アジアや中東で米国の覇権崩壊が起こり、先日は中央アジアのカザフスタンでクーデター的な暴動によってロシアの影響力が強化され、米英トルコの影響力が排除された。中東では米国の覇権低下と反比例して、イランやシリア、サウジアラビアUAE、エジプトなどがロシアの影響を強く受けるようになった。最近は、イランの大統領が訪露し、ロシアが米国を譲歩させてイラン核協定を再稼働する流れだ。露イランの影響圏になったシリアは、アラブ諸国と和解している。イランと仲良くしたいので米国からいじめられているUAEは、主力の戦闘機を米国のF35から、ロシアのSu75に替えることにした。米国の覇権が自滅し、ロシアの覇権が拡大している。 (カザフスタン暴動の深層)
近年のロシアにとって最大の強みは、中国との経済関係がどんどん強化されていることだ。昨年の中露の貿易総額は前年比35%の増加だった。ロシアは以前、石油ガスを欧州に売って国富としてきたが、近年は中国がロシアの石油ガスを全量買いたがるようになり、中国との関係だけで露経済を回していけるようになっている。今のロシアはウクライナ内戦が始まった2014年ごろと異なり、中国との関係があるので欧米に経済制裁されてもかまわない状態になった。ロシアにとって欧米は、中国一辺倒だと中露関係においてロシアが不利になるので欧米との経済関係も維持したい、といった程度の存在になっている。このように最近のロシアは、安保と経済の両面で、とても余裕ができている。
そんなロシアの変化を全く無視して、米英諜報界はロシア敵視をガンガン続けている。米政界ではウクライナをNATOに入れる構想が出され続け、NATOに入ったウクライナの右派政権がロシアに戦争を仕掛け、NATOの5条に沿って米国をロシアと(核)戦争させる流れが作られている。米英は武器を大量にウクライナに輸出し、ウクライナ政府による東部のロシア系住民の殺傷を煽っている。欧米に対する自国の優位を感じているロシアの議会では、ウクライナ東部のロシア系住民の自治政府が住民投票などによってウクライナからの分離独立を宣言したら、ロシアがそれを支持する決議案が検討され始めている。クリミアのロシア併合時と同様、分離独立したウクライナ東部(ドンバス)の政府がロシアへの併合を望み、ロシアがそれを受け入れることでロシアがドンバスを併合する展開が今後あり得る。 (米欧がロシア敵視をやめない理由)
そうなった場合ウクライナ政府は、自国の東部がロシアにもぎ取られることを強く拒否し、ウクライナ軍が全力で東部の民兵団(ドンバス軍)を攻撃する。ロシアから見るとドンバスは自国領になっているので、ロシア軍をドンバスに進軍させて攻めてきたウクライナ軍を攻撃し壊滅させることは合法、というか正義・義務だ。しかし、欧米はドンバスのロシア併合を認めず、ウクライナ領であるドンバスに露軍が侵攻したという話になる。欧米日の軽信者たちはこの見方を洗脳され、ロシアによる極悪のウクライナ侵攻だと思い込む。もしロシアがドンバスをウクライナから分離独立させて併合するなら、ウクライナがNATOに入る前にやった方が良い。ウクライナがNATOに入ってしまうと、露軍のドンバス進出・侵攻時に5条が発動されて米露核戦争になりかねない。
米英諜報界はウクライナへの軍事支援を加速するともに、間もなくNATOがウクライナ加盟を決めるかのような流れを作り、ロシアをドンバス併合、露軍侵攻へといざなっている。露軍が侵攻して、欧米からさらに強い経済制裁を受けても、ロシアには中国がいるのでかまわない。困るのはロシアから石油ガスを買えなくなるドイツなど欧州の方だ。米諜報界は最近、バイデン大統領に「ロシアがちょっとウクライナ東部に侵攻するぐらいなら、米軍を動かさずに見逃してやる」といった趣旨のことを言わせてすぐ撤回させ、隠然とプーチンに対し「ウクライナがNATO加盟前ならドンバスに侵攻しても大丈夫だよ。早くやっちゃいなよ」とけしかけている。NATO加盟前のウクライナから東部を分離・ロシア併合して露軍が侵攻しても、おそらく米軍は出ていかず、その後のウクライナがNATO加盟するのは欧米にとって危険すぎるので、NATO加盟の道も閉ざされる。
このように見ていくと、ロシアがウクライナ東部を分離・併合し、露軍が侵攻してウクライナ軍を敗走させる展開がありうると感じられる。米英諜報界はマスコミに「露軍がウクライナに侵攻しそうだ」とプロパガンタ的に報じさせ、マスコミのプロパガンダに敏感なオルトメディアは「露軍がウクライナ侵攻しそうだという話はマスコミのプロパガンダだ」と言っている。たしかに、その手のマスコミの報道はプロパガンダ臭がぷんぷんする。しかし私には、このプロパガンダ臭を含めて米諜報界の策略でないかと感じる。ロシアによるドンバスの併合と、露軍のウクライナ侵攻の可能性は十分にある。
ロシア政府は以前から「(ドンバスに自治を再付与してウクライナ内戦を終わりにする)ミンスク合意を、ウクライナや欧米が履行しないなら、ロシアは、現実の状況として合意が履行された状態を実現する」と言っている。これが意味するところは、ドンバスを分離・ロシア併合し、露軍が侵攻してウクライナ軍を蹴散らすことで、ミンスク合意が履行された状態(ドンバスの人々がロシア同胞として生活できる状態)を実現する」ということだ。それを挙行するかどうかはプーチンが決める。挙行するかどうか、まだわからない。
これは、ドイツに対する試練でもある。米英は露軍にウクライナ侵攻させて欧米とロシアを(欧米側が負ける形で)決定的に対立させたいが、ドイツは欧州を引き連れてロシアと和解したいと考えている部分がある。ドイツは最近、米英などがウクライナに武器を送り込んで戦争を扇動しているのを阻止すると言い出している。これまでのドイツは対米従属で、米英のロシア敵視体制に不満を表明しつつ従っていた。しかし、このままロシアのドンバス併合と露軍の侵攻で欧米とロシアの仲が決定的に悪くなると、ロシアからドイツなどへの石油ガスの流れも止まり、ドイツは窮乏するばかりだ。ドイツが米英に「もうやめろ。我が国はEUを引き連れてロシアと和解する」と宣言するように仕向ける(ドイツを対米自立させて多極化を進める)ために、米英諜報界はウクライナ危機を扇動しているのかもしれない。