2024年2月28日水曜日

開戦から2年 - ボグダン・パルホメンコが停戦とウクライナの永世中立国化を提言の驚き(世に倦む日々)

 世に倦む日々氏が掲題の記事を載せました。
 ボグダン・パルホメンコは先日来日した日本語が堪能なウクライナ人で、ウクライナ戦争が開戦したばかりの時期にも日本のTVに登場し、「アゾフ連隊を『国民の英雄』だと持ち上げて、当時 弱気になって停戦交渉に流れていたゼレンスキーを警戒し叱咤していた」そうです。
 今回は打って変わって、ゼレンスキー大統領の信用は落ちている戦争を続けても対価が高すぎる領土は原状のままで停戦永世中立国家になるべしと言っている」と紹介しています(ここで「原状のまま」は「現状のまま」が正しいのではないかと思われます)。
 大変な変わりようですが、現実を受け入れて得られた結論と思われます。
 西側の人たちにとっては「領土は『現状のまま』」ということを受け入れ難いと思いますが、戦況はロシアが圧倒的に有利で ウクライナが兵士を召集して投入しても勝つ見込みはなく無駄死にに終わると思っているのでしょう。
 それに加えて下記のような事情があります。
 ウクライナでは14年2月に米国が画策した暴力革命(マイダン革命)が起こされ、クーデター政権はその勢いでウクライナ東部ドンバス地方ロシア人が居住する)に攻撃を加えたのですが、ドンバス地方が抵抗したため内戦となり、15年に「ドンバス地方の自治権を認める」というミンスク合意Ⅱを結んで終戦しました。
 ところが革命政権はその後もロシア語を公用語から外すなどの圧政を加えたほか、ひそかに軍備を拡充して22年3月に、再度ドンバス地方を制圧すべく軍隊をドンバス地方の境界付近まで進めました。
 そのためロシア軍は直前の2月24日、ロシア系住民を保護するためにウクライナに侵攻(「特別軍事作戦」)したのでした。ロシア国民はビクトリア・ヌーランド革命にどう関与したのか、オデッサでの虐殺ドンバス地方のロシア系住民をどう迫害してきたのかを見てきたので、ロシア兵の士気は高いと言われています

 要するに長年に渡るドンバス地方のロシア系住民への迫害がウクライナ戦争の原因になっているので、「勝手に侵攻したロシアが一方的に悪い」という西側の主張は通らないことをボグダンは承知している訳です。もしも開戦前の「領土」に復帰させるのであれば、これまでの行動が無意味になるのでロシアとしては受け入れられません。
 歴史の流れから「22年2月24日以降の部分」を切り取ってウクライナ戦争を論じることは停戦の段取りを進める上でも無意味だと思われます。
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開戦から2年 - ボグダン・パルホメンコが停戦とウクライナの永世中立国化を提言の驚き
                    世に倦む日日 2024年2月27日
2月24日、ウクライナ戦争開始から2年が経った。今から1年3か月前、開戦から9か月後(2022.11.26)、『ウクライナ戦争の結末を大胆予想 - アメリカが手を引いて終わり』の記事を上げたが、予想どおりの進行と展開になっている。当時からすでに ”Ukraine fatigue" の声は欧州と米国で上がっていた。ウクライナへの軍事支援に反対する声は、ドイツ(特に旧東ドイツ)で高く上がり、フランス・イタリア・スペインでもNATOに反対するデモが起きていた。時間が経つほどに「支援反対」の声は大きくなり、特にアメリカで顕著な勢いになり、アメリカの世論調査では「支援反対」が多数の現状になっている。半年後に投票日を迎える大統領選レースでこの問題は大きな争点になっていて、支援反対を訴えるトランプ共和党側に追い風が吹き、支援継続を貫くバイデン民主党側に逆風の要因となっている。

ニューヨークタイムズの昨年8月の報道では、ウクライナ軍の戦死者は7万人で、死傷者数は19万人と推計されている。一方、ロシア軍側の損耗については様々な観測があり、死傷者数31万人という数字もあれば、英国防省が発表したところの、昨年11月までに戦死者7万人、死傷者35万人という数字もある。ニューヨークタイムズのウクライナ軍死傷者数には、アウディーイウカ攻防戦の損害が含まれておらず、それを加えるとウクライナ軍の戦死者は10万人を超えているだろう。兵士の人命を惜しまない戦術のため、ロシア軍の死傷者数がウクライナ軍より多いという観測は、おそらく当を得ていると思われる。大雑把に、現時点でロシア軍の死傷者数はウクライナ軍の1.5倍程度と推測される。だが、今後、ロシア軍の航空優勢が明確となれば、その数字は変わる。

2年経って、戦線は明らかにロシア軍優勢の状況となった。マスコミも、昨年後半は「膠着」と呼んでいたが、アウディーイウカの後は見方を変え、ウクライナ軍劣勢を書き、NATO(アメリカ)の支援が止まればウクライナが負けると報じている。ウクライナ軍が再度の本格的な反転攻勢に出て、それを成功させられると見通しを立てている者は一人もいない。兵頭慎治も小泉悠も、「長期化」だの「持久戦」だのとお茶濁しを言い、戦争研究所からの発信(=情報戦プロパガンダ)はすっかり影を潜めた。なぜウクライナ軍の劣勢が明確かと言えば、ウクライナ軍に兵力と弾薬が枯渇しているからである。補給が逼迫し、追加補充が困難になっているからだ。マスコミはこの点を正しく説明しないが、砲弾不足はNATO全体が抱えた深刻な問題で、米軍の在庫に余裕がないのである。

この問題は、昨年7月、矢野義昭や用田和仁が動画討論会で正しく指摘し解説していた。記事でも紹介した。アメリカの155ミリ榴弾生産能力は、25年までに月4万発の増産がやっとで、月10万発以上を消費するウクライナ戦争にはとても追いつけない。一方、ロシア軍の方は1日1万発撃てていて、前線の火力戦・砲撃戦で圧倒的な格差が生じている。無論、NATO全体の榴弾備蓄とか生産見込みとかは、軍事機密だから正確な数は表面には出ないだろう。物理的数量は確保されているかもしれない。だが、アメリカには台湾有事が控えている。予定では2年後に戦争が始まる。そのための弾薬が必要で、中国軍相手に継戦する砲弾数を保持しておかないといけない。対中戦争こそがアメリカの本命の国家戦略であって、言わばヘマで起こしたウクライナ戦争で弾薬の無駄遣いはできないのだ。今はイランと戦争する可能性もあり、なおさら砲弾は貴重なのである

現在、ウクライナ軍は榴弾だけでなく防空ミサイル(地対空ミサイル)の不足に悩んでいて、そのため、遂に前線でロシア軍に近接航空支援攻撃を許す局面になった。そう兵頭慎治がコメントしている。戦場上空でロシア地上軍を支援するロシア軍航空機を迎撃するミサイルが足りなくなり、前線の制空権を局地的にロシア側に握られる戦力差が現出した。この2年で初めての出来事らしい。防空ミサイルについては、種別詳細は不明だが、NATO(米軍)に在庫不足という情報を聞いたことはなく、アメリカ議会で支援予算が可決通過すれば補給は可能に違いない。ただ、ロシア軍がスターリンク⇒低軌道衛星群を統括した情報システム逆利用しているとか、ハイマースが標的を外しているという情報もあり、開戦当時に無能を論われ、防衛研に嘲笑されたロシア軍の電子情報戦能力が、2年の間に技術向上している事実に目を向ける必要があるだろう。

もう一つ、弾薬と並んで不足しているのがウクライナ軍の兵力である。軍が50万人の追加徴兵を要請していて、国内で兵役逃れする若者が後を絶たない。死傷者数全体の比較では、ウクライナ軍はロシア軍の3分の2程度だろう。が、ロシアの人口は1億4300万人で、ウクライナの人口4200万人の3.4倍のリソースがある。その影響で、ロシア軍はウクライナ軍よりも兵員補充の困難度が低い。ウクライナの方が兵力補給がタイトであり、問題の解決は容易ではない。前線への兵器補給が細って行くことは、徴兵された兵士の死傷率が高くなることを意味する。ウクライナ軍の士気が下がるのは必然で、国民も継戦意思を弱める方向にならざるを得ない。一方のロシア軍側は、22年9月に始めた予備役動員が成果を表し始め、ドネツク州での部隊数の増加が確認できると、NHKが軍事アナリストの分析を紹介している。

この問題は重要で、2年間の戦争の流れを決定づけた本質的契機だと言える。日本を含めて西側の報道では、ロシア軍の人命軽視の戦術思想が非難され、その作戦様式がロシアの「権威主義」や「独裁国家」の表象と被され、ロシアとプーチンを貶める言説を根拠づけている。ロシアとプーチンを否定する認識の材料となっている。だが、これは大祖国戦争でソ連がナチスドイツ相手に採用した方法に近く、伝統のお家芸であるという見方もできるロシア人特有の戦い方だと言い得る。問題は、なぜその戦法が今回も可能なのかという点だ。普通なら、ニ〇三高地的な、犠牲のみ多い正面白兵突撃の人海戦術は国民から拒絶されるだろう。けれども、今回その批判が出ない。なぜか。結局、その理由は、この戦争がロシア国民にとって防衛戦争だからだ。大祖国戦争と同じ意味と性格の、ロシアの生存がかかった戦争だと理解しているからだ。

それはプーチンの主張でもある。実は、この点こそ、アメリカがこの戦争の計測と判断を誤った点である。アメリカ・NATOは、ロシア国内でもっと大きく反戦世論が高まり、プーチン批判の声が高まり、経済制裁で国民生活が困窮し、プーチン独裁体制が動揺すると想定していたのだ。プーチンへの支持が低下するに違いないと考えていた。だが、ロシア国民は「マイダン革命」からずっと経緯を見てきたのであり、ヌーランドとマケインが何をしたのかを知っているオデッサの虐殺を見ているドンバスでのロシア系住民への迫害の始終を見ている。「マイダン革命」がネオコンが仕掛けたカラー革命の一環であり、サーカシビリの「バラ革命」と同じであり、ロシア連邦の解体を策した謀略工作の延長だと看破している。その理解と確信は、この2年間に客観的に証明された。ノルドストリームの爆破とか、ミンスク合意反故の裏を語ったメルケル証言で。

軍事的視角からフォーカスすれば、やはり、昨年6月の反転攻勢の失敗が決定的に大きいと言える。NATOにとって、あの反転攻勢は絶対に失敗できない作戦であり、成功しなければいけない作戦だった。何度もできる作戦ではなかった。なぜなら、砲弾の補給逼迫が迫っていたからである。反転攻勢が挫折して前線が膠着したとき、もしロシア軍の榴弾供給が十分に維持できた場合、弾切れを起こしたNATO側(ウクライナ軍)が地上戦で劣勢に立つ。前線を防御できない。NATOの司令部と参謀(CIA・MI6)は、その軍事的合理性を理解していなかったのだろうか。ロシア軍側も、NATOと同じく弾切れを起こすと楽観していたのだろうか。であれば、分析と予測の誤りであり、取り返しのつかない軍事的過失である。事実として、ウクライナ軍は弾薬と兵員の不足に陥った。どちらも簡単には追加補充できないもので、いくらドル札を刷っても調達は難しいものだ。

反転攻勢が具体的にどんな作戦かは、開始のずっと前から高橋杉雄がテレビで予告を垂れていた。ザポリージャ州でロシア軍の防御線を突破する。一気に海岸に出て、ロシア軍占領地を二つに分断する。そこから東西に進撃し、東と西のロシア軍をそれぞれ挟み撃ちにして撃破、掃討する。この戦略と計画は、「オレならこうする」という演出設定で22年中には語られていた記憶がある。CIAと戦略研究所が作案して、配下の工作員たちには早くから共通認識になっており、一般に向けて予告していいよという情報ステータスになっていたのだろう。だが、兵力をザポリージャに一点集中するという方針にゼレンスキーが異論を唱え、兵力が薄くなったドンバスをロシア軍に衝かれたら危険だという警戒から、三方の兵力から攻勢をかけるというマイルドな案になった。リスクテイキングしない作戦になった。軍事ではなく政治の論理が優先されるゼレンスキー主導の作戦が設計された。

高橋杉雄たちに言わせれば、それが昨年6月の失敗の原因だろう。ここにはこの戦争の本質的構図が影を落としていて、「船頭多くして船山に上がる」の弊害が端的に現れている。この戦争の主導権は誰が握るのかという問題だ。オーナーは誰なのか。何から何まで世話を焼き、10年以上謀略工作を差配・指導してきたアメリカCIA)が統帥権を仕切るのか、それとも、戦場で血を流すウクライナ人の大統領(傀儡芸人)が指揮権を持つのか、どちらなのかという問題だ。そこに、このNATOの戦争の根本的欠陥がある。NATO側の意思決定は、基本的に「船頭多くして」の実態なのだ。ゼレンスキーにはアメリカに対する依存と戦争に対する読みの甘さがあり、仮に反転攻勢が失敗しても、アメリカからの支援は永続で無限だと高を括っていた(今も)。アメリカとキエフ政権とは一心同体の運命共同体だと信じ、最終的にはNATO軍がロシア軍と直接戦うという期待と幻想で動いている。




開戦2年の報道と動きの中で最も驚かされた出来事は、来日したボグダン・パルホメンコが発した意外すぎる言葉だ。「ゼレンスキー大統領の信用は落ちている」と言い、「戦争を続けても対価が高すぎる」と言い、「領土は原状のままで停戦(すべし)」と言い、「永世中立国家(になるべし)」と言っている。この認識と提案は私と全く同じである。まさか、ボグダンがこんな主張を日本人に向かって説教するとは思わなかった。2年前の報ステでのボグダンのキエフ報告をご記憶の読者は多いと思うが、3月末だったかアゾフ連隊を「国民の英雄」だと持ち上げて絶賛し、当時弱気になって停戦交渉に流れていたゼレンスキーを警戒し叱咤していた。まさに、まごうことなき真正のネオナチ範疇の態度を堂々と披露し、流暢な日本語を駆使して、日本向けのプロパガンダで活躍していた。最もラディカルな反ロ右翼の表象だった




そのボグダンが、あっさりゼレンスキー批判に転じ、領土を手離してロシアと停戦せよと躊躇なく言い、永世中立国になれとまで言っている。ほとんど転向と呼んでいい極端な旋回だ。ボグダンの変節が証明しているのは、第一に「マイダン革命」なる政治の素性の悪さであり、そこに政治的正統性(Legitimacy)がない真相をボグダン自身が知っている事実である。第二にウクライナ東部南部にロシア系住民が多く住み、「マイダン革命」の闘士たちにとっては愛着の薄い土地だという事実だ。おそらく、このボグダンの提言どおりに今年のウクライナは情勢が進展し、領土を棚上げした形で停戦交渉を始める次第になるだろう。アメリカは停戦交渉入りを後押しするだろう。そうしなければ、前線の火力で優位に立ったロシア軍が、リマンからイジュームの線に押し出し、航空優勢の条件の下でハリコフを衝き、また今年中に西のオデッサ攻略へ歩を進めるに違いない。
停戦交渉しなければ、さらに多くの領土を失う事態に直面してしまう。6月にEU議会選挙があり、9月にドイツで3州の議会選挙があり、11月にアメリカ大統領選挙がある。どの選挙とも、結果はウクライナの戦争継続と戦争支援に冷淡な民意の表明となるだろう。