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『西洋の敗北』の著者エマニュエル・トッドはフランスに残る数少ないインテリの一人とされています。その論理の展開は深く複雑で無知な事務局は到底理解できませんが、結論自体は十分に納得がいきます(少なくともいまの西側の為政者たちには評価に値する思想がないという意味で)。
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西側はいかにして敗れたか
耕助のブログNo. 2047 2024年2月1日
How the West Was Defeated by Pepe Escobar
エマニュエル・トッドは歴史家、人口学者、人類学者、社会学者、政治アナリストであり、滅びゆく種の一人だ。彼はフランスに残る数少ないインテリの一人で、西側から東側まで冷戦時代の若い世代を魅了したブローデル、サルトル、ドゥルーズ、フーコーの後継者である。
彼の最新作『La Défaite de L'Occident(西洋の敗北)』に関する最初の話題は、先週NATO圏内であるフランスで実際に出版されたというちょっとした奇跡である。独自の考えを持つ人によれば、この本は事実と検証されたデータに基づく手榴弾のような本で、「皇帝」プーチンによる「侵略」の周囲に築かれたロシア恐怖症の建物をすべて吹き飛ばすという。
オリガルヒに支配されたフランスの一部のメディアでさえ、いくつかの理由からトッドを無視することができなかった。それはトッドが1976年にソ連の崩壊を予言した最初の西洋知識人だったからだ。彼はソ連の乳幼児死亡率に基づく研究で、すでに『La Chute Finale(最後の転落)』という著書でソ連の崩壊を予言していた。
もうひとつの重要な理由は2002年に出版された『Apres L'Empire(帝国以後)』である。これはイラクでの衝撃と畏怖の数ヶ月前に出版された、帝国の衰退と没落のプレビューのようなものだ。
そして今、トッドは自身の最後の著書(『I closed the circle』(話は完結した))と位置づけ、ウクライナ戦争とその周辺にフォーカスしたリサーチで米国のみならず西側諸国全体の敗北を綿密に描いている。
ロシア恐怖症とキャンセル・カルチャーが君臨し、逸脱したものはすべて罰せられるという有害なNATO諸国の環境を考慮し、トッドは現在のプロセスをウクライナにおけるロシアの勝利と決めつけないように細心の注意を払っている(それでも、社会的平和のいくつかの指標から「プーチン体制」の全体的な安定に至るまで、彼が説明するすべてにそれは暗示されている。「プーチン体制」は「ロシアの歴史の産物であり、一人の人間の仕事ではない」。)
トッドはむしろ西側の没落を招いた主な理由に焦点を当てている。それらは、国家の終焉、脱工業化(ウクライナ向け兵器の生産におけるNATOの赤字を説明している)、西側の宗教的マトリックスであるプロテスタンティズムの「ゼロ度」、米国における死亡率の急上昇(ロシアよりもはるかに高い)、自殺や殺人、そして永遠の戦争への執着によって表現される帝国的ニヒリズムの優位性、などである。
プロテスタンティズムの崩壊
トッドは、ロシア、ウクライナ、東ヨーロッパ、ドイツ、イギリス、スカンジナビア、そして最後に帝国と、順を追って整然と分析している。ここでは、彼の注目すべき演習の12大ヒットになるであろうものに焦点を当ててみよう。
1 2022年2月の特別軍事作戦{1}(SMO)開始時、ロシアとベラルーシのGDPの合計は西側諸国(この場合はNATO圏+日本・韓国)の3.3%に過ぎなかった。この3.3%が西側の巨大企業全体よりも多くの兵器を生産し、戦争に勝利しているだけでなく「新自由主義的政治経済」の支配的概念(GDP率)をめちゃくちゃにしたことにトッドは驚いている。
2 西側の「イデオロギー的孤立」と「イデオロギー的ナルシシズム」。例えば、「イスラム世界全体が{2}、ロシアを敵対者というよりむしろパートナーとして考えているようだ」ということを西側は理解できない。
3 トッドは「ウェーバー型国家」という概念を避け、プーチンと米国の現実政治の実践者であるジョン・ミアシャイマーとの間にあるビジョンの一致を思わせる。なぜなら国家は力関係のみが重要な環境で生き残ることを余儀なくされているため、今や「ホッブズ的なエージェント」として行動している。そして、「主権」に焦点を当てたロシアの国家の概念、つまり外国からの干渉を一切受けず、国家が独自に内政・外交政策を決定する能力に行き着くのである。
4 WASP文化が一歩一歩崩壊し、それが「1960年代以降」から「中心とプロジェクトを奪われた帝国、(人類学的な意味での)文化を持たない集団によって管理される本質的に軍事的な有機体」に至った。これがトッドが定義する米国のネオコンである。
5 「帝国以後」としての米国の存在。インテリジェンス主導の文化を奪われた軍事機械の抜け殻に過ぎず、「産業基盤の大規模な縮小の段階で軍備拡張の強調」につながった。トッドが強調するように、「産業なき近代戦争は矛盾語法」なのである。
6 人口統計の罠。トッドはワシントンの戦略家たちがいかに「人口が減少しても高い教育水準と技術水準を享受している国家は軍事力を失わないということを忘れていた」かを示した。それこそがプーチン時代のロシアなのである。
7 ここで我々はトッドの主張の核心に到達する。1904/1905年に出版された『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のマックス・ウェーバー以後の再解釈だ。「もしプロテスタンティズムが西洋の勃興の母体であったとすれば、その死は、今日、西洋の崩壊と敗北の原因である」。
トッドは、1688年のイギリス「栄光の革命」、1776年のアメリカ独立宣言、そして1789年のフランス革命がいかに自由主義的西洋の真の柱であったかを明確に定義している。その結果、拡大した「西洋」は歴史的に「リベラル」ではない。なぜなら「イタリア・ファシズム、ドイツ・ナチズム、そして日本の軍国主義」をも生み出したからである。
要するにトッドはプロテスタンティズムが、いかにして支配する民衆の普遍的な識字率を押し付けたかを示したのである。なぜなら「すべての信者は直接聖書にアクセスしなければならない。識字率が高いと経済的、技術的発展が可能である。プロテスタントの宗教は、偶然にも、優秀で効率的な労働力をモデル化した」。そしてこの意味から産業革命はイギリスで起こったが、ドイツが「西洋の発展の中心」であったのだ。
トッドの重要な考え方は議論の余地がない。「西洋が台頭した決定的な要因は、プロテスタンティズムがアルファベット表記にこだわったことである」。
さらにトッドは、プロテスタンティズムは西洋の歴史の中心に2度あると強調している。一つは教育と経済の推進を通じて――地獄への恐れや神に選ばれたという必要性が働き、労働倫理や強力な集団的道徳を生み出した――そして、人間は不平等であるという考え方を通じて(「白人の負担)を思い出してほしい)。
プロテスタンティズムの崩壊は、大衆の欲望のために労働倫理の破壊を招かざるを得なかった。それが新自由主義である。
トランスジェンダー主義とフェイク・カルト
8 1968年の精神に対するトッドの鋭い批評は、まったく新しい本に値するだろう。彼は「1960年代の大きな幻想のひとつ-英米の性革命とフランスの1968年5月の間-」、「集団から解放されれば、個人はより偉大になると信じたこと」について言及している。それは避けられない惨敗につながった。「私たちは形而上的な信念、基礎と派生的な信念、共産主義、社会主義、またはナショナリスト的な新年から一斉に開放された今、私たちは空虚を経験している」。だから私たちは「自分自身で考える勇気のない模倣的な小人の群れになったが、古代の信者たちと同じくらい不寛容であることを露呈しているのだ」
9 トッドのトランスジェンダー主義の深い意味についての簡潔な分析は、ニューヨークからEU圏に至るまで、〝Woke”(⇒目覚めた/人種的偏見と差別の否定)の教会を完全に打ち砕き、怒りの連発を引き起こすだろう。彼は、トランスジェンダー主義がいかに「現在西洋を定義しているニヒリズムの旗印のひとつであり、物や人間だけでなく、現実をも破壊しようとする衝動」であるかを示している。
さらに分析的なボーナスもある:
トランスジェンダーのイデオロギーでは、男が女になることができ、女が男になることができるとしている。これは誤った主張であり、その意味で西洋のニヒリズムの理論的核心に近い。
さらにひどいのは地政学的な影響である。トッドは、この偽物のカルトと、国際関係における米国のふらふらした行動との間に、ふざけた精神的・社会的結びつきを確立している。例:オバマ政権下で締結されたイラン核合意は、トランプ政権下では厳しい制裁体制になった。トッドは、米国の外交政策は、その独自の方法でジェンダーが流動的であると述べている。
10 ヨーロッパの「幇助自殺」。トッドは、ヨーロッパが当初はフランスとドイツのカップルであったことを私たちに思い出させる。しかし2007/2008年の金融危機の後、それは「家父長制的な結婚に変わり、ドイツが支配的な配偶者となり、仲間の言うことを聞かなくなった」。EUはヨーロッパの利益を守ることを放棄し、パートナーであるロシアとのエネルギーや貿易を断ち、自らを制裁した。トッドは、パリ=ベルリン軸がロンドン=ワルシャワ=キエフ軸に取って代わられたことを正確に指摘している。それはヨーロッパの自律的な地政学的行動主体としての終わりであった。そしてそれはネオコンによるイラク戦争に、フランスとドイツが共同で反対したわずか20年後のことだった。
11 トッドは「彼らの無意識」に踏み込むことでNATOを正しく定義している。「その軍事的、イデオロギー的、心理的メカニズムは、西ヨーロッパを守るために存在するのではなく、西ヨーロッパをコントロールするために存在する。」
12 ロシア、中国、イラン、そしてヨーロッパの無党派層のアナリストたちとともにトッドは、1990年代以来、ドイツをロシアから切り離そうとする米国の執念は失敗に終わると確信している。「遅かれ早かれ、両者は協力することになるだろう。ウクライナの敗北は、ドイツとロシアを相互に誘惑する「引力」として、その道を開くだろう。
その前に、NATO圏の西側「アナリスト」とは異なり{3}、トッドはモスクワがウクライナだけでなくNATO全体に対して勝利を収め、プーチンが2022年初頭に特定した好機の窓から利益を得ようとしていることを理解している。トッドは2027年までの5年間の終盤を見据えて賭けをしている。昨年のショイグ国防相の「SMOは2025年までに終了する」という発言と比較するのは賢明だ。
期限はどうであれ、このすべてに組み込まれているのはロシアの完全勝利である。勝者がすべての条件を決定する。米国が今必死に動いているが、交渉も、停戦も、凍結された紛争もない。
「西側の勝利」を演出するダボス会議
トッドの著書の顕著な功績は、歴史と人類学を使って西洋社会の誤った意識を洗い出すことにある。そのため、例えば、ヨーロッパの非常に特定の家族構造の研究に焦点を当てることで、トッドは完全に洗脳された集団的な西洋の大衆がターボ新自由主義の下でしがみついている現実を説明する方法を見出した。
トッドの現実に基づいた本がダボス会議のエリートたちの間でヒットすることはないだろう。今週ダボスで起きていることは非常に啓発的だった。すべてが明るみになっている。
毒毒しいEUのメデューサであるフォン・デア・ライエン、NATOの戦争屋ストルテンベルグ{4}、ブラックロック、JPモルガン、そしてキエフで汗臭いトレーナーを着た人物と握手したお偉方など、いつもの容疑者たちから発せられる「西側勝利」のメッセージは統一されている。
戦争は平和だ。ウクライナは負けていないし、ロシアは勝っていない。私たちに異を唱えればどんなことでも「ヘイトスピーチ」として検閲されるだろう。私たちは新世界秩序を望んでいる-あなたたち下級農民がどう思おうと-今すぐ、それを望んでいるのだ。
そしてもしすべて失敗したら、あらかじめ作っておいた「疾病X」DiseaseXがあなたのところにやってくるだろう。
Links:
{1} https://sputnikglobe.com/20240117/russias-special-military-operation-in-ukraine-and-how-it-is-progressing-1105665248.html
{2} https://sputnikglobe.com/20231210/doha-summit-us-risks-alienating-muslim-world-by-vetoing-gaza-ceasefire-resolutions-1115510496.html
{3} https://sputnikglobe.com/20240111/baltic-states-join-ukraine-in-seeking-to-draw-nato-into-open-conflict-with-russia-1116121396.html
{4} https://sputnikglobe.com/20240115/fact-check-is-russia-really-getting-ready-to-invade-nato-1116182337.html
https://www.unz.com/pescobar/how-the-west-was-defeated/
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。