2024年2月7日水曜日

UNRWA資金停止はガザ200万人の死命を制する

 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)はガザ地区難民に特化した救済機関で、食料、水、日用品、薬などの生存に不可欠の物資を配ったり学校を運営するなどをしており、職員は約1万3000人。その運営費は各国の拠出金で賄われています。

 イスラエルの情報機関が、UNRWAの職員12人が10月のイスラエル奇襲に関与したという情報を米国に流したことを受けて、米国は運営資金の拠出を止め、日本を含めて西側諸国約10か国がそれに倣って拠出金を一時停止しました。
 その結果運営費の約6割が供給されなくなりました。これはUNRWAによって辛うじて命脈を保ってきたガザ地区の人々にとっては文字通り死活問題で、同地区の住民は時事通信の電話取材に「世界はわれわれを殺そうとしている。日本もその一員となったのか」と声を荒らげたということです

 グテレス国連事務総長は「ガザ市民200万人が、日々を生き延びるためにUNRWAの援助を必要としている」と指摘し、資金難で2月末にも活動中断を余儀なくされる恐れがあると危惧しています
 ところでハマスに協力した疑いを持たれている職員12人のうち1人は多数の死者が出たガザ境界に近い集団農場への襲撃に関与したとされほかイスラエルから女性を拉致したり、イスラエル兵の遺体をガザ内に運ぶのを手伝ったり、ハマスに対して弾薬を提供したりしたということです。
 しかしそのようにして、仮にUNRWAの職員の約0・1%が関与していたとしても、それによってガザ住民全員が食糧やクスリの途絶で生命を奪われても良いということにはなりません。それこそはハマス側の奇襲で数百人の命が奪われたことを口実にパレスチナ人200万人を絶滅すると叫ぶイスラエルや米国(とそれに同調する西側)の狂気の論理に共通するものです。
 敢えて言えば12人の行動が、ガザの住民の現状とイスラエル立国以降の歴史を良く知るがゆえの正義感に基づくものであったろうことは容易に推測されます。
 それにしても岸田政権になってからは、安倍晋三政権時と同様に中東の国々からの信頼を一挙に失うことになりました。多分本人には何の自覚もないことでしょうが。
 しんぶん赤旗の2つの記事を紹介します。
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ガザ子どもが熱 薬がない」 UNRWA資金停止 物資不足に嘆く
                        しんぶん赤旗 2024年2月5日
 【カイロ=秋山豊】イスラエル軍が攻撃を続けているガザで人道支援の中核を担ってきたのが、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)です。イスラエルを支持する米国に続き英国やドイツ、日本などが資金拠出停止を表明したことに対し、飢えに苦しみ、傷の治療もできずにいる民間人を死に至らせる決定だとの批判が出ています
 ガザ南部ラファに避難しているオンモムスタファさんは、雨が降るとテントが水浸しになり、酷寒のなか、夜はぬれた毛布で寝ていると言います。
 イスラエルによる封鎖で物資が圧倒的に足りません。彼女は本紙の電話取材に「子どもが熱を出し、せきこんでいるのに薬がない」と嘆きます。
 エジプトのトラック運転手でガザに支援物資を運び入れているハアニ・マハムードさん(42)は「ガザに入るとUNRWAの職員が積み荷をパレスチナ側のトラックに移して住民へと届けている。人びとの命綱の活動を妨げる国よ、恥を知れ」と怒ります。
 UNRWAは1月26日、ハマスが昨年10月7日に行ったイスラエル奇襲攻撃に職員が関与した疑惑の情報をイスラエル当局から受けたと発表しました。これを受け、米国はすぐに資金拠出の停止を表明。国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルにガザでのジェノサイド(集団殺害)を防ぐよう命じた日のことでした。
 ガザの政治アナリスト、サラハ・アブダラアティさんは、イスラエルによる疑惑の主張と、米国による資金の拠出停止はICJが命令を出したことへの報復だと指摘。「UNRWAにイスラエルに反することをするなと強要しているのだ」と語りました。
 ガザのUNRWA職員約1万3000人のうち、ハマスの攻撃に関与が疑われているのは12人です
 ガザ在住で、いとこがUNRWA職員のサアミさんは「イスラエル軍はUNRWAの職員を大勢殺した。家を追われた職員、愛する人を殺された職員もいる。多くの職員は本当に困難な状況でも、命がけで住民に物資を届け、医療支援を行っている」と強調します。
 ガザ北部からカタールに避難して娘を治療するイマン・ジャベルさんは、砲撃で重傷を負った夫を病院に連れていったものの医療機器と薬が足りず、その命が尽きるのを見守るしかありませんでした。
 「UNRWAが妨害されればさらに多くの人命が奪われる。ガザの人道状況は非常に危険だ。せめて人間が生きるのになくてはならない水や食料、薬などを確保するよう国際社会に求める」


日本の拠出金一時停止 NGO撤回求める
                        しんぶん赤旗 2024年2月5日
 パレスチナ自治区ガザで食糧支援などを担う、国連パレスチナ難民救済事業機関(UN奎WA)の複数の現地職員の中に、イスラム組織ハマスのイスラエル奇襲攻撃犯関与した人物がいるとの疑惑で日本が米国などと足並みをそろえUNRWAへの資金の拠出一時停止を表明しています。ガザの人なりに死ねというのか長きにわたりガザヘ人道支援を行ってきた日本政府のこの判断の撤回を求めて非政府組織(NGO)団体や中東研究者らが声を上げています。(石橋さくら)

「活動の先に子どもの命ユ
 パレスチナ難民が生まれた1948年以降94年にパレスチナ自治政府ができるまで実質、無政府状態だったガザ地区で行政府機能を担い、教育、医療、緊急食糧支援などの社会福祉を提供してきたのがUNRWAです

社会福祉を担う
 2007年以降、イスラエルはガザを封鎖し、人、モノの移動を制限。住民の8割が1日300円以下で生活する貧困ラインに追い込まれています。テロ組織と指定されるハマスが実効支配するガザ政府に国際社会からの支援金の提供が止められる中で、UNRWAが引き続き社会福祉を提供する重要な役割を担っています。
 UNRWAはこれまでガザで
 ▽284の学校を運営し、29万人以上の子どもに小唄学校の初等教育を提供
 22カ所の診療所で基礎医療を提供
 100万人に食料と生活費の支給
などに従事。パレスチナ自治区の他、ヨルダンやシリアなど広範な地域で難民支援を行っています。
 UNRWAの予算の歳入の内訳を見ると国連は全体のわずかで、各国による拠出金で運営。来国が最大の拠出金提供国で、日本これまで安定した拠出金を提供してきました。1月30日現在で日米をはじめ、ドイツ、スウェーデン、フランス、スイスなど18の国・地域が一時停止を決定。これにより運営資金の大きな損失が見込まれます。
グラフ省略

「集団的懲罰」に
 日本政府の拠出金停止撤回を求めNGO団体らは1日に国会内で緊急集会を開催。西南学院大学の根岸陽太准教授は、拠出金一時停止は国際法違反の「集団的懲罰」にあたる可能性があると指摘しました。
 慶応義塾大学の錦田愛子教授は、開戦後のガザでの死者数は2万5千人を超え、85の住民が家を追われるなど最悪な人道危機に陥っていると強調。資金提供の継続を表明したノルウェーのアイデ外相の「この深刻な人道状況でUNRWAへの資金が削減されることの影響の大きさを考えるべきだ。われわれは何百万人もの人々を集団的に罰するべきではない」との言葉を紹介しました。
 53年からガザでの支援活動を行っているNGO団体「セープ・ザ・チルドレン・ジャパン」の金子由佳氏は、ガザヘの空爆が起きるたびに設置するシェルター(避難所)の運営や子どもたちの心のケアなどもUNRWAが行い、支援に入るさまざまなNGO団体などの窓□にもなっていると実態を紹介。「UNRWAの役割に代わりはない」「活動の先には子どもたちの命がある」と力を込めました。
 また、「パレスチナの人は、国連安保理決議などでの世界の判断を見ている。現地の人から、日本の判断は『残念だ』との声も耳に入る」と話し、「これまで日本が築いてきた信頼関係にも影響してしまう」と指摘しました。
 UNRWAのラザリーニ事務局長は1日、「米国など主要国の資金拠出が再開されなければ2月末までにガザだけでなく、地域全体での活動が停止を余儀なくされる」と危機を訴えました。平和国家として、命を何よりも優先する外交の立場を貫けるか、日本の姿勢が問われています。