2014年8月10日日曜日

被爆者代表「平和への誓い」 安倍政権を痛烈に批判

 9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典で、被爆者代表の城台美弥子さん(75)が読み上げた「平和への誓い」は、首相の面前で安倍政権を痛烈に批判するものでした。
 
 「平和への誓い」前半では、原爆が投下された日のこととその後原爆症で被爆者たちが味わった苦難の人生が語られ、「この恐ろしい非人道的な核兵器を世界中から一刻も早くなくすこと」が必要だと訴えました。
 
 後半では(要旨)、
被爆国である日本は、世界のリーダーとなって核兵器禁止条約の早期実現を図る義務があるのに、日本政府はその役割を果たしていない
今進められている集団的自衛権の行使容認は日本国憲法を踏みにじる暴挙である
武器製造、武器輸出は戦争への道である
原発事故で多数の人たちが避難を余儀なくされ小児甲状腺がんおびえ苦しんでいる中で、原発再稼働等を行っている。早急に廃炉を含め検討すべきである
と痛烈に安倍政権の姿勢を批判しました。
 
 被爆地の持つ政府への強い不信を象徴するものでした。
 
 また式典とは別に、安倍晋三首相が9日、被爆者団体代表と長崎市内のホテルで意見交換した際、被爆者連絡協議会の川野浩一議長が「集団的自衛権については納得していませんから」と述べたのに対し、「見解の相違ですね」と応じる場面がありました
 首相はこれまで集団的自衛権の行使容認の閣議決定に対しては、国民に丁寧に説明する考えを繰り返し表明していましが、川野氏は「本音が出たと思う。国民を説得して理解を求める意欲は感じなかった」と語りました
 
 東京新聞と毎日新聞の記事を紹介します。
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「憲法踏みにじる暴挙」 長崎、集団的自衛権に怒り
東京新聞 2014年8月9日 
 長崎は九日、被爆から六十九年の原爆の日を迎え、長崎市松山町の平和公園で市主催の原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が営まれた。出席した安倍晋三首相の目の前で、被爆者代表の城台(じょうだい)美弥子さん(75)が「憲法を踏みにじる暴挙」と集団的自衛権の行使容認を痛烈に批判した。田上富久(たうえとみひさ)市長も平和宣言で「平和の原点がいま揺らいでいるのではないか、という不安と懸念が急ぐ議論の中で生まれている」と指摘。政府の姿勢に対する被爆地の懸念があらわになった。
 
◆被爆者代表「平和への誓い」全文
 
 一九四五年六月半ばになると、一日に何度も警戒警報や空襲警報のサイレンが鳴り始め、当時六歳だった私は、防空頭巾がそばにないと安心して眠ることができなくなっていました。
 八月九日朝、ようやく目が覚めたころ、魔のサイレンが鳴りました。
 「空襲警報よ!」「今日は山までいかんば!」緊迫した祖母の声で、立山町の防空壕(ごう)へ行きました。爆心地から二・四キロ地点、金毘羅山中腹にある現在の長崎中学校校舎の真裏でした。しかし敵機は来ず、「空襲警報解除!」の声で多くの市民や子どもたちは「今のうちー」と防空壕を飛び出しました。
 そのころ、原爆搭載機B29が、長崎上空へ深く侵入して来たのです。
 私も、山の防空壕からちょうど家に戻った時でした。お隣のトミちゃんが「みやちゃーん、あそぼー」と外から呼びました。その瞬間空がキラッと光りました。その後、何が起こったのか、自分がどうなったのか、何も覚えていません。しばらくたって、私は家の床下から助け出されました。外から私を呼んでいたトミちゃんはそのときけがもしていなかったのに、お母さんになってから、突然亡くなりました。
 たった一発の爆弾で、人間が人間でなくなり、たとえその時を生き延びたとしても、突然に現れる原爆症で多くの被爆者が命を落としていきました。私自身には何もなかったのですが、被爆三世である幼い孫娘を亡くしました。わたしが被爆者でなかったら、こんなことにならなかったのではないかと、悲しみ、苦しみました。原爆がもたらした目に見えない放射線の恐ろしさは人間の力ではどうすることもできません。今強く思うことは、この恐ろしい非人道的な核兵器を世界中から一刻も早くなくすことです。
 
 そのためには、核兵器禁止条約の早期実現が必要です。被爆国である日本は、世界のリーダーとなって、先頭に立つ義務があります。しかし、現在の日本政府は、その役割を果たしているのでしょうか。今、進められている集団的自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です。日本が戦争できるようになり、武力で守ろうと言うのですか。武器製造、武器輸出は戦争への道です。いったん戦争が始まると、戦争は戦争を呼びます。歴史が証明しているではないですか。日本の未来を担う若者や子どもたちを脅かさないでください。被爆者の苦しみを忘れ、なかったことにしないでください。
 
 福島には、原発事故の放射能汚染でいまだ故郷に戻れず、仮設住宅暮らしや、よそへ避難を余儀なくされている方々がおられます。小児甲状腺がんの宣告を受けておびえ苦しんでいる親子もいます。このような状況の中で、原発再稼働等を行っていいのでしょうか。使用済み核燃料の処分法もまだ未知数です。早急に廃炉を含め検討すべきです。
 
 被爆者はサバイバーとして、残された時間を命がけで、語り継ごうとしています。小学一年生も保育園生も私たちの言葉をじっと聴いてくれます。この子どもたちを戦場に送ったり、戦禍に巻き込ませてはならないという、思いいっぱいで語っています。
 
 長崎市民の皆さん、いいえ、世界中の皆さん、再び愚かな行為を繰り返さないために、被爆者の心に寄り添い、被爆の実相を語り継いでください。日本の真の平和を求めて共に歩みましょう。私も被爆者の一人として、力の続くかぎり被爆体験を伝え残していく決意を皆様にお伝えし、私の平和への誓いといたします。
 平成二十六年八月九日
 被爆者代表 城台美弥子
 
安倍首相:集団的自衛権「見解の相違」…被爆者団体代表に
毎日新聞 2014年8月9日 
 安倍晋三首相が9日、被爆者団体代表と長崎市内のホテルで意見交換した際、長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長が「集団的自衛権については納得していませんから」と述べたのに対し、「見解の相違ですね」と応じる場面があった。
 
 川野氏が記者団に明らかにした。会合終了後、首相に語りかけた同氏に答えたという。集団的自衛権の行使を容認した7月の閣議決定に対しては世論の批判が強く、首相はこれまで、国民に丁寧に説明する考えを繰り返し表明していた。
 川野氏は「本音が出たと思う。国民を説得して理解を求める意欲は感じなかった」と語った。
 会合では、行使容認の閣議決定に対し、長崎県の被爆者5団体が「近隣諸国との緊張を高め、危機を増幅する」として、撤回を求める要望書を首相に手渡した。
 また、長崎原爆遺族会の正林克記会長は「平和憲法こそが安全、安心、命、暮らしの要だ。政府の緊張緩和への確かな取り組みさえあれば、火に油を注ぐような集団的自衛権はいらない」と訴えた。
 
 これに対し、首相は「外交努力を積み重ねながら、さまざまな課題を解決するのが基本的姿勢だ。武力行使を目的とした戦闘行為には参加しない。(集団的自衛権は)限定的な行使にとどまる」と改めて強調。会合後の記者会見では「丁寧に分かりやすく説明する努力を続けることで、必ず(国民に)理解してもらえる。歴史の検証に耐えうる自信を持っている」と述べた。【大場伸也、樋口岳大】