2014年8月19日火曜日

辺野古での安倍政権の強硬姿勢を批判 沖縄二大紙社説

 沖縄防衛局は辺野古海底調査に向けて、キャンプ・シュワブのゲート付近に「殺人鉄板」を敷いて草履などでその上を歩いたり座り込むことが出来ないようにしたことに始まって、法的根拠も不明のまま、立ち入り禁止海域を一方的に設け、海保がその海域の外側でも、法的根拠も示さぬまま市民の身柄を拘束し、その際に眼鏡を壊されて目の近くを切る怪我をするなどの事件も生じています。
       鉄板に山型鋼(アングル)の角部が上に向くように密に溶接して作ったもので、波板の各頂点をとがらせた形状に相当する
 15日には終戦記念日もお構いなしに全国から巡視船を大量投入し、警備員、作業員を雇い、ブイ(浮標)、フロート(浮具)の設置作業を進めました。17日には、日曜日にもかかわらず、ボーリング調査の足場となる台船を海上に設置しました。まさに「銃剣とブルドーザー」で基地建設を強行しようとするものです
 こうした強行策の背景には、安倍首相が防衛官僚らに工事の遅れを詰問し、作業を早めるよう強く督促したことがあります。
 
 これまでの歴代の自民党政権下でも、ここまで警察や海上保安庁などの実力をもって、県民の7割以上が反対している辺野古基地の建設を強行した例はありません。
 それは自民党といえども民主主義と表現の自由をそれなりに尊重してきたからですが、安倍内閣になってからはそうした配慮は見られなくなりました。
 
 沖縄の二大紙は18日、安倍政権のやり方を強く批判する社説を掲げました。
 
 琉球新報は「掘削作業に着手 もはや『恐怖政治』だ 蛮行中止し民意を問え」として、住民を丸ごと、力ずくで屈服させようとする政府の意思が、これほどあらわになったことはなかった、と書き出し、“米国のご機嫌を取るために沖縄住民の安全と沖縄の土地と美しい自然を差し出そうとする構図”は、「本土決戦」を先延ばしするために沖縄の全滅を強いた沖縄戦の「捨て石」作戦と、うり二つであると述べています。
 
 沖縄タイムスは、「辺野古海底調査 強硬一点張りを憂える」として、安倍首相の「丁寧に説明し、理解を得たい」 という決まり文句がむなしく響く、と書き出し、こうした強硬一点張りの進め方の背後に、ボーリング調査を早めに終わらせ、辺野古移設問題はもう後戻りはできないという空気を醸成して、それと並行して現職知事をバックアップする振興策などを打ち上げ、仲井真知事の当選を勝ち取るという、官邸のシナリオがあるとしています。そして沖縄の人々の尊厳、歴史体験に根ざした平和を求める心を軽んじ、何でも金で解決できると思っている政権のおごりは、民主主義の健全な発展の妨げになりつつある、と結んでいます。
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[社説掘削作業に着手 もはや「恐怖政治」だ 蛮行中止し民意を問え
琉球新報 2014年8月18日  
 住民を丸ごと、力ずくで屈服させようとする政府の意思が、これほどあらわになったことがあっただろうか。沖縄防衛局は、普天間基地移設に向け調査用の台船を名護市辺野古の海に設置し、海底掘削のための作業に着手した。
 確かに抵抗運動への弾圧は過去にも散見される。だが辺野古移設は県民の74%が反対する事案だ。一県の圧倒的多数の民意を踏みにじって強行した例が他にあるか。
  百姓一揆弾圧を想起させるが、近代以降なら「琉球処分」と「軍官民共生共死」を強いた沖縄戦しかあるまい。沖縄にしか例がないなら構造的差別の表れに他ならない。国際的にも恥ずべき蛮行だ。
  
憲法の規定も無視
 政府に歯向かう者なら、いくらけがをさせても構わない。一連の経過でむき出しになった住民への政府の害意、敵視に暗然とする。
 中でもそうした姿勢を露骨に示したのが海上保安庁だ。「安全確保のため」と説明しているが、噴飯物だ。15日には男性を羽交い締めにして強制排除しようとした際、眼鏡が壊れた男性は目の近くを切るけがをした。経緯はどうあれ「安全確保」の名目でけがが発生したのは皮肉と言うほかない。
 政府は今回、法的根拠も不明のまま、立ち入り禁止海域を一方的に設けた。施政者による恣意的な住民の主権剥奪は、お札一つで禁令を発した江戸時代そのままだ。
 それでも足りず、今度は海保がその海域の外側でも、法的根拠も示さぬまま市民の身柄を拘束した。漁港を出港するだけで警告し、海域の外側に近づくことさえ大声で威嚇するありさまだ。憲法は、法定の手続きを経ずに何人も自由を奪われないと定めているが、海保はその令状主義も無視している。これでも法治国家か。
 住民にけがをさせることもいとわず、法的根拠が疑わしい行為を平然となす。「海の無法者」はどちらなのか。海上保安庁は、今後は「米軍基地建設保安庁」に名を改めた方がいい。
 第11管区海上保安本部が復帰後営々と努力し、かち得てきた県民の信頼を、この数日で台無しにした。海保はその現実を知るべきだ。
 それにしても皮肉な構図である。世界最強の米軍を、日本の「軍」を所管する防衛省が守る。その防衛局を警察や海保が守り、その外周に民間の警備員がいる。それらの住民との対立を、軍事利権にあずかる人々、すなわち外交・防衛官僚は高みの見物をしているのではないか。
  
 「捨て石」に似た構図
 安倍晋三首相は防衛官僚らに工事の遅れを詰問し、作業を早めるよう強く督促したという。
 首相に近い議員がかつて出した報告書がある。英国が南米でのフォークランド紛争に踏み切り、陰りが見えていた首相の支持率を急回復した経過を報告している。「遠隔地」での戦争でナショナリズムをあおり、求心力を高めた例を知っているのは間違いない。
 安倍首相は今、本土にとって「遠隔地」の尖閣をめぐり、中国との紛争も辞さない構えを見せている。その紛争に米軍を引き込もうとして辺野古新基地建設に躍起となっているようにみえる。米国のご機嫌を取るために、沖縄住民の安全と沖縄の土地と美しい自然を差し出そうとする構図だ。
 その構図は、「本土決戦」を先延ばしするために沖縄の全滅を強いた沖縄戦の「捨て石」作戦とうり二つではないか。
 今回の作業で海上保安庁はメディアの取材の船が付近海域に近づくことも制限した。政府が知ってほしくない情報は、接近すら処罰しようとする特定秘密保護法の施行を先取りしている。安倍政権は「専制国家」からもはや「恐怖政治」へと進みつつあるようだ。
 現状は仲井真弘多知事の埋め立て承認が招いた事態だが、知事選の公約に背いた承認に民主主義的正当性はない。日本が民主主義国であるなら直ちに作業を止め、11月の知事選で民意を問うべきだ。
 
 
[社説辺野古海底調査 強硬一点張りを憂える
沖縄タイムス 2014年8月18日
 「丁寧に説明し、理解を得たい」 
 米軍普天間飛行場の移設問題で、安倍晋三首相をはじめ政府首脳が、好んで使う決まり文句である。これほどむなしく響く言葉はない。 
 真情のこもらないうわべだけの言葉と、米軍政下の土地接収を思い起こさせる強硬な姿勢。なりふり構わず既成事実化を図ろうとすればするほど、新基地建設の理不尽さ、異常さが浮かび上がる。 
 沖縄防衛局は、終戦記念日もお構いなしに全国から巡視船を大量投入し、警備員、作業員を雇い、ブイ(浮標)、フロート(浮具)の設置作業を進めた。17日には、日曜日にもかかわらず、ボーリング調査の足場となる台船を海上に設置した。 
 名護市辺野古沿岸部の埋め立てに向け、海底の地質などを調べるボーリング調査がいよいよ本格化するが、現場では、海上保安庁の強硬姿勢が目立つ。 
 15日の作業では、カヌーやボートで示威行動を行った市民を海上で一時拘束し、強制的に排除した。 
 辺野古海域に出る漁船長に対しては、指示に従わせる「立入検査指導事項確認票」への署名を迫った。確認票は「工事作業区域には進入しない」「工事作業船や工事警戒船に接近しない」など5項目。 
 指導に従わず違反行為を繰り返した漁船が対象だと説明しているが、初めて辺野古海域を訪れた漁船長も対象になっている。 
 あきらかにやり過ぎだ。航行の自由や表現の自由に抵触するおそれもある。 
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 海上保安庁、防衛省・沖縄防衛局はなぜ、これほど強硬なのか。 
 10年前の2004年、防衛庁は当時の計画に基づいて埋め立て予定海域に単管やぐらを設置し、ボーリング調査を実施しようとしたが、反対派の阻止行動にあって調査を断念、移設計画そのものを見直したいきさつがある。 
 その際、防衛庁は海保に対して強制排除するよう求めた。海保は「強制排除を執行すると、流血の事態を招く恐れがある」との理由で拒否したという(守屋武昌・元防衛事務次官著『「普天間」交渉秘録』)。 
 海保の姿勢が180度転換したのは、「同じ轍(てつ)を踏むな」という合意が官邸と防衛省の間に出来上がっていたからだ。安倍首相と菅義偉官房長官の強い意向が働いているのは間違いない。 
 強硬一点張りの先には、11月の県知事選を見据えた官邸のシナリオがある。 
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 ボーリング調査を早めに終わらせ、後戻りはできないという空気を醸成して辺野古移設問題の争点化を避け、並行して現職をバックアップするような振興策や負担軽減策を打ち上げ、仲井真弘多知事の当選を勝ち取る。それが官邸のシナリオである。 
 
 だが、このシナリオには、重大な欠陥がある。沖縄の人々の尊厳、歴史体験に根ざした平和を求める心を軽んじ、何でも金で解決できると思っている点だ。政権のおごりは、民主主義の健全な発展の妨げになりつつある。