2014年8月1日金曜日

「ガザ」の政権がエジプトの停戦案を受け入れられない理由

 イスラエルは「ガザ」への攻撃を「草刈り」と称して、数年毎に定期的に繰り返しています。「ガザ」がある程度復興するとまた破壊するということです。

 「ガザ」とイスラエルは一体どういう関係にあるのでしょうか。マスメディアを含めてアメリカの影響下にある日本では、そうした問題についても常にイスラエル側の視点で報じられています。

 いわゆる「ガザ」はパレスチナ暫定自治区と呼ばれ、東京23区の約6割の面積を有しています。「ガザ」は南西から北東に伸びる細長い形をしていて、南端はエジプトに、西側は海に、東側はイスラエルに、北端はレバノン(とシリア)に接しています。
 
 第二次大戦後の1948年に、「流浪の民」と呼ばれていたユダヤ人の国家「イスラエル」が英・米などの主導で建国されましたが、その結果、それまでイスラエルの地区に住んでいたパレスチナ人たちが今度は強制的に「流浪の民」にさせられました。その難民たちが自分達の国家を作りたいとしてできたのが、パレスチナ暫定自治区という国家で、そこの現在の政権がハマス(ハマース)です。
 
 エジプトが提案した停戦案(封鎖緩和については停戦後に協議を受け入れるよう、ケリー国務長官がハマスに迫っていますが、ハマスには封鎖緩和が約束されなくてはどうしても停戦案は受け入れられないという事情があります
 これについて京都大学の岡真理氏は、パレスチナ暫定自治区側の視点に基いた記事を発表し続けていますが、7月25日付の記事がブログ「晴天とら日和」(30日)に掲載されました。
 以下に紹介します。
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ハマスの10年間の休戦協定のための10の条件
 
  岡真理です。
  ケリー国務長官がエジプト入りし、エジプトが提案した停戦案(封鎖緩和については停戦後に協議)を受け入れるよう、ハマースに迫っています。
  日本の主流メディアの報道ぶりを見ていると、ハマースが停戦を受け入れないことが、パレスチナ人・イスラエル人双方の死者の拡大を招いており、700人(7月25日現在を超えるパレスチナ人が犠牲になっているのはハマースの責任であるかのような印象を抱いてしまいます。
 
  問題の根源には、ガザの封鎖と占領という問題があるわけですが、日本の主流メディアは、ガザが47年にわたり国際法上違法な占領下にあり、また8年にわたり国際法上違法な封鎖下にあり、占領と封鎖により住民がその基本的人権をことごとく否定されているという事実をほとんどまったく報道していません。
 
  そのため、ハマースが封鎖の解除を停戦の絶対的な条件として掲げ、これが受け入れられない限り、停戦を受託しないという姿勢を、ハマースが身勝手な要求を掲げて妥協しないために、パレスチナ人市民が犠牲になっているかのような誤った印象を広めることに貢献しています。
 
  しかし、ハマースは先のエジプトによる停戦案を拒否した直後、10年間の休戦協定をイスラエルに提案しています。以下の10の条件をイスラエルが受け入れるならば、10年間の休戦協定を結ぶと提案しているのです。
 
10年間の休戦協定のための10の条件
1) ガザとの境界からイスラエルの戦車が撤退すること。
境界線に沿って内側300メートルから1,5キロに及ぶ区域(ガザ全土の35%、全可耕地の85%)をイスラエルはパレスチナ人のアクセス禁止区域としており、立ち入った者は発砲されます。戦車の撤退は、ガザのパレスチナ人が自分たちの領土内で、命の危険を伴わずに安全に農業を行うために必要なことです。
2) 3人の少年殺害後に逮捕された囚人すべてを釈放すること。
6月、イスラエル人少年3人が誘拐されたあと、イスラエル政府は、少年らが誘拐直後に殺害され、その容疑者も特定できていたにもかかわらず、その情報を隠匿し、少年たちを捜索するための軍事作戦を展開し、数百名を逮捕、その過程で9名を殺害しています。これは、西岸のハマース・メンバーを再逮捕することが目的でした。
3) 封鎖を解除し、境界の検問所を商業および人間に開放すること。
物資の自由な搬入・搬出、人間の自由な移動が禁じられているために、ガザの人々は「生きながらの死」をこの8年間、生きています。
4) 国連の監督のもと、国際用の港と国際空港を創り機能させること。
日本のODAで建設されたガザ空港は破壊され、ローマの遺跡のような廃墟となっています。
5) 出漁範囲を10キロまで認めること。
オスロ合意で認められたガザの領海は20海里でありながら、出漁は3~6海里に制限され、それを超える出漁は発砲や拿捕、漁船の没収に遭います。そのため、ガザの漁師の多くが漁をすることができません。。
6) ラファ検問所を国際化し、国連およびアラブ諸国の監督下におくこと。
    現在、エジプト側の時の権力のご都合しだいで、ラファハは閉鎖されています。
7) 境界に国際軍をおくこと。
8) アル=アクサーモスクでの礼拝許可の条件緩和。
9) ファタハとハマースの和解合意にイスラエルが介入することの禁止
今回のイスラエルによる攻撃の目的は、ファタハとハマースが和解に合意し、統一政府を発足させたことを脅威とするイスラエルが、これを切り崩すことでした。
10) 工業地区の再建およびガザ地区における経済開発の改善。
      ガザは占領が始まった直後から一貫して、その経済開発を妨げる、「反開発
     (Dedevelopment)」政策がイスラエルによってとられてきました。
 
  10の条件とは一言で言えば「封鎖の解除」です。
  社会が社会としてまっとうに機能し、そこで、住民が人間らしく暮らすために必要なものです。
 「封鎖」自体が国際法上違法な暴力であり、私たちの人権概念に照らして、許されるものではありません。先にお送りした、ガザ市民社会の知識人らによる世界へのメッセージの中にもありましたように、封鎖とは「生きながらの死」であり、封鎖の解除は、ガザの人々すべての願いです。ハマースの要求は、ガザのパレスチナ人にも人間らしく生きる権利を認めよ、人間としての尊厳を認めよ、平等な人間性を認めよ、という当然の要求です。
 
  しかし、イスラエルはこれを無視しました。封鎖が解除され、10年間の休戦が実現することが、この地域の安定に大きく貢献することが明らかであるにもかかわらず、です。ハマースの休戦協定案を報道せず、犠牲者の拡大は、エジプトの停戦案を受け入れようとしないハマースに責任があるかのような報道ぶりは、まったく偏っているとしか言いようがありません。
  これ以上の死者を出さないためにエジプト提案の停戦(封鎖解除については停戦後協議)を受け入れろと迫るのは、一見、犠牲になる命を大切にしているように見えて、実は、すさまじく殺しておいて、これ以上、殺されたくなければ、封鎖の解除など四の五の言わずに、さっさと降参しろ、というヤクザの恫喝のように聞こえます。
 
  (2012年の攻撃のときの停戦は封鎖緩和が条件でした。しかし、イスラエルはそれを履行しませんでした。停戦の条件ですら履行しない者が、いったん停戦した後に協議して実効性ある答えが得られるわけがないとハマースが考えるのは、無理からぬことです。)
  PLOがハマース提案に対する支持を表明しましたので、封鎖の解除を条件とする停戦が前進するかもしれません。しかし、この停戦案をイスラエルが受け入れることは政治的敗北です。地上戦にまで踏み込み、イスラエル兵側にも大きな犠牲を出した挙句、封鎖解除という政治的勝利まで勝ち取られたとあっては、ネタニヤフ首相の大失策になります。そのため力でますますねじ伏せようとして、攻撃が激化するのではないかと心配です。
 
  イスラエルに対し、「一刻も早く攻撃をやめろ」だけではなく、封鎖の解除、そして、ハマース提案の休戦協定案を受け入れろ、ということを、国際社会が――私たちのことです――声を大にして訴え、もし、イスラエルがガザの違法な封鎖の継続を望み、ガザの人々を「生きながらの死」「緩慢な死」の状態にとどめおくことを望んで、この休戦案を蹴るならば、そのようなイスラエルこそを弾劾し、制裁する必要があるのだと思います。
以上