アルゼンチンの債務返済問題をめぐり、債務再編に応じず全額返済を求める米投資ファンド:NMLキャピタルなどの訴えを認めた米最高裁判決について、世界の100人以上の経済学者が7月31日、判決は「モラル・ハザード」(倫理の崩壊)を招くと批判する連名書簡を米議会に送りました。
アルゼンチンは2001年に破綻した際、民間の投資家から約1千億ドル(約10兆円)の借金を抱えていましたが、05、10年の2回にわたり、この投資家の93%(金額ベース)から、返済額を減らすことへの合意を取りつけ、合意した投資家には、当初より価値が約7割低い国債を新たに発行し、利子を払ってきました。
一方、NMLキャピタルは、減額に応じなかった一部の投資家から08年に国債を安く買い、全額返済を求めて提訴しました。
米最高裁は6月、アルゼンチンがファンドに全額返さない限り、減額に応じた投資家への利払いをしないよう命ずる下級審の判決を支持したため、これまで順調に利子を支払うことで返済を進めてきたものが頓挫し、債務不履行に陥ることになったものです。
アルゼンチンがヘッジファンドへの全額返済に応じれば、他の債権者からも同様の対応を求められかねないために、応じられないというという事情がありました。もしも応じればヘッジファンドと同様に債務カットに応じなかった債権者の分だけでも、追加的な返済負担は150億ドル(約1兆5300億円)に上り、アルゼンチンの外貨準備高の半分以上が失われることになります。
米議会への書簡は、「アルゼンチンを債務不履行に陥れた米最高裁の判決は誤りであり、金融に打撃を与えるものだという見解が経済学者の間で広く共有されている」と述べています。
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米ファンド擁護を批判 ノーベル賞経済学者ら100人
しんぶん赤旗 2014年8月2日
【ワシントン=島田峰隆】アルゼンチンの債務返済問題をめぐり、債務再編に応じず全額返済を求める米投資ファンドの訴えを認めた6月の米最高裁判決について、世界の100人以上の経済学者が7月31日、判決は「モラル・ハザード」(倫理の崩壊)を招くと批判し、米議会に対し、国際金融市場への悪影響を緩和する法的措置を取るよう求める連名書簡を送りました。
ノーベル経済学賞受賞のロバート・ソロー氏(マサチューセッツ工科大学名誉教授)やプリンストン高等研究所のダニ・ロドリック教授らが呼び掛けたもので、米シンクタンク経済政策研究所(CEPR)が発表しました。
書簡は、債権者の9割以上が再編に応じているなかで、投機を目的とする一部の米ファンドの主張を認めることは「交渉する道を選択した他の債権者の既存の合意まで破壊する」と強調。こうした事態を許せば「国際金融市場の機能に甚大な悪影響を与えうる」と懸念を示しました。
また米ファンドは、再編に応じなかった債権者から二束三文で債権を買い集め、債務全額の支払いを受けて大もうけしようとしていると批判。こうした手法は「金融の不安定化」を招くと指摘しました。
CEPRは「アルゼンチンを債務不履行に陥れた米最高裁の判決は誤りであり、金融に打撃を与えるものだという見解が経済学者の間で広く共有されている」と強調しています。
アルゼンチン交渉決裂、デフォルト不可避に
日経新聞 2014年07月31日
【ニューヨーク=越前谷知子、ブエノスアイレス=吉田健一】アルゼンチンの債務返済問題で、アルゼンチン政府と、債務再編に応じず13億ドル(約1335億円)超の債務全額返済を求めていた米投資ファンドとの協議は、妥結期限の30日中に合意に至らず決裂した。
アルゼンチンは2001年以来、13年ぶりの債務不履行(デフォルト)に陥ることが避けられない情勢だ。パリクラブ(主要債権国会議)との債務返済合意などで軌道に乗りつつあった同国の国際金融市場への復帰は再び遠のくことになる。
アルゼンチン政府と米ファンドのニューヨークでの交渉に立ち会った米裁判所指定の調停人は30日、「両者は合意に至らず、アルゼンチンはデフォルトになろうとしている」との声明を発表した。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は30日、アルゼンチン国債の外貨建て格付けを、投機的水準の「CCCマイナス」から、部分的なデフォルトを意味する「選択的デフォルト」に引き下げた。同国政府が、債務再編に応じている他の債権者への利払い期限となる30日中に、支払いができない見通しとなったためとしている。
協議後、ニューヨークで記者会見したアルゼンチンのキシロフ経済財務相は、同国の外貨準備は280億ドル以上で、利払いの意思も能力もあるとして「デフォルトではない」と強調。ファンドの要求通り支払った場合、ファンドの中には購入価格の16倍の利益を得る社もあるため、ファンド側を「ハゲタカ」と非難した。