13日に発表された4~6月期の前期比年率実質GDP成長率は-6.8%でした。
しかし優れた経済学者である植草一秀氏は、実態は更に厳しいものであるとして、以下のように述べています。
『 同時期の外需は輸入の激減で成長率がプラスになったので、それを除外すれば純国内需要の実質成長率は年率-10.5%である。その他に民間在庫品増加がGDP比1.0%のプラス寄与をしているので、それによる売れ残り分を差し引くと成長率を前期比で3.8%も押し下げることになり、売れ残りの大量発生を含めて国内最終需要の落ち込みを計算すると、年率-16%になる。
需要項目別の実質年率成長率は以下の通りである。
家計最終消費支出 -19.2%
民間住宅投資 -35.3%
民間企業設備投資 - 9.7%
財貨・サービスの輸出 .. - 1.8% ※1 』
まさに惨憺たるものです。
※1 13日付植草一秀ブログ 「-6.8% 成長どころでないGDP崩落の真実」
そしてこの事実を糊塗して真実を伝えないようにしているメディアが、日経新聞とNHKであると断じています。(同14日付ブログ「GDP報道に見る日経とNHKの救い難い劣化」)
夕刊フジはもともと政府寄りの姿勢を貫く新聞ですが、それでも14日付で経済アナリストの森永卓郎氏と経済ジャーナリストの荻原博子氏を登場させて、「GDP大減速…消費税10%凍結必至 アベノミクス効果に陰り」と題する記事を掲げました。
消費税10%は凍結するしかないというものです。
そもそも消費税8%へのアップは、このままでは国の経済が破綻するからという財務省主導の大プロパガンダ(悪宣伝)によって実現しましたが、増税分は社会福祉に回すという約束は当初から無視され、消費税のアップ分は法人税の大幅減税分に当てられようとしています。
財務省も政府も、もともと国の経済を正常化させようというような気持ちは持ってはいません。ただ消費税アップの口実に使うだけのことです。ですから一旦消費税が上がると、それらのことはもう話題にもしません。(財政赤字は不健全なことですが、ギリシャのように他国からお金を借りているわけではないので、そのこと自体で国が破綻するということはありません)
安倍首相は、企業が潤えばやがては従業員に及ぶからという「トリクルダウン」の理論を唱えていますが、そんな企業風土は小泉政権とそれに続く第一次安倍内閣時代に取られた新自由主義によって跡形もなく壊されました。当事者である安倍氏はそのことを自覚していないのでしょうか。
新自由主義は本来的に金持ち優遇に熱心で、イギリスのサッチャーは在任中に累進課税の最高税率を83%から40%まで減らしました。しかしそれによって一層豊かになった金持ちたちは、決してそれを社会が豊かになる方向に投資することなどはしませんでした。そこで生まれたのは想像を絶する規模の「マネーゲーム」でした。
社会の景気は一にかかって大衆の購買力に依存します。弱者への視点を持たずに、欺瞞の手法で好景気を演出しようとした「アベノミクス」は終焉させ、消費税は5%に戻し、政治の本来の目的である民生の安定に努めるべきです。
夕刊フジの記事と琉球新報の社説を紹介します。
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GDP大減速…消費税10%凍結必至 アベノミクス効果に陰り
夕刊フジ 2014年8月14日
消費増税の影響は想像以上に大きかった。アベノミクスで景気回復への期待感が膨らんでいたが、増税直後の4~6月期国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、東日本大震災以来という大幅な落ち込みとなった。安倍政権は、来年10月に消費税を8%から10%へ再び引き上げる予定でいるが、賃金上昇の実感がわかないなかでの再増税に、専門家からは「デフレ不況に逆戻りする」「10%は凍結すべきだ」と厳しい声が上がっている。
日本経済に急ブレーキがかかった。
内閣府が13日発表した4~6月期のGDPは、物価変動を除く実質で前期比1・7%減、年率換算は6・8%減と大幅に悪化した。
東日本大震災が起きた2011年1~3月期(年率6・9%減)以来の落ち込みで、消費増税の影響をモロに受けた格好。前回増税時の1997年4~6月期(年率3・5%減)よりも悪いという惨状だった。
安倍政権にとってアベノミクスを通じたデフレ脱却は最優先の課題で、政権幹部は「景気回復を腰折れさせるわけにはいかない」と断言する。
首相官邸は「想定の範囲内」(政府筋)と表向きは平静を装うが、サラリーマンにとって増税インパクトは大きく、これをきっかけに財布のヒモは一段と締まった。
ファミリーレストランを運営するロイヤルホールディングスの菊地唯夫社長は「4月、5月はあまり増税の影響がなかったが、6月下旬から出始めている」と話し、「じわじわ増税の実感が高まっている」。大手百貨店でも「サラリーマンがちょっと頑張って手が届く価格水準の商品が動いていない」と警戒感を強めている。
再増税に関しては、12年に成立した消費税増税法で来年10月に10%へ引き上げることが定められているが、同法の付則では経済状況の好転が増税の条件とされている。安倍政権は、7~9月期のGDPなどの経済指標を参考に12月に判断するが、厳しいとの見方は少なくない。
経済アナリストで獨協大教授(労働経済学)の森永卓郎氏は「状況はかなり深刻だ。物価は上昇し続けており、実質賃金は戦後最大級の落ち込みを記録している。今回のGDP悪化について、政府や官僚、御用学者らは『消費増税前の駆け込み需要の反動』と口をそろえるが、お金がないから消費ができないだけだ。状況が改善されていないのに今後、消費が急回復するなんてことはあり得ない」と指摘。
「注目は7~9月期のGDP2次速報値が出る12月。ここで安倍政権は、さらなる金融緩和に踏み切ることになるのだろうが、再増税すれば、物価はさらに上昇し所得は減る。Wパンチで国民生活は逼迫する」とみる。
その上で、森永氏は「消費税率を5%に戻すのが一番いい景気対策だが、現実的ではない。金融緩和に踏み切りつつ、消費税率引き上げを凍結するのが現時点で取れるベターな選択だ」と解説した。
生活経済のご意見番、経済ジャーナリストの荻原博子氏は「(企業の)収益が上がっていないのに消費税を上げてしまったから、景気が冷え込んでいる。実質賃金も12カ月連続で下がっている。こんな状況では消費税を10%に上げられないし、上げるべきではない。これ以上の消費税アップは無理難題だ」と話す。
アベノミクスの効果も表れていないと荻原氏は分析し、「円安で輸出が増えて、企業がもうかり、景気が良くなるというストーリーだった。だが、ガソリンの高騰など、円安のマイナスの副作用が目立っている。輸出も低迷し、自動車工業界の統計によると、4輪車の出荷台数は7カ月連続でマイナスとなっている。トヨタの好調は為替の好影響によるもの。輸出台数が減ったことで、下請けは厳しい状況が続いている」と話す。
10%の引き上げを強行するとどうなるのか。
「7割の人が勤める中小零細は収益が増えず、賃金を上げられない。すると、モノを買わなくなり、デフレは加速するだろう。安倍政権は、景気をよくするために10兆円規模のバラマキを行ったが、もうあのお金はない。アクセル(=バラマキ)をふかしながら、ブレーキ(=消費増税)をかけることはもうやめてほしい」(荻原氏)
景気回復の足取りがおぼつかない中、安倍政権は難しい判断を迫られそうだ。
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(社説)GDP6.8%減 生活者軽視の誤り示した
琉球新報 2014年8月15日
安倍政権の経済財政政策には一つの特徴がある。煎じ詰めると富裕層・大企業優遇、低所得層・生活者軽視で、この両者が表裏一体をなしているのだ。
その路線の誤りを示す結果が表れた。国内総生産(GDP)の実質成長率が4~6月期に年率換算で6・8%の大幅マイナスになった。その原因を突き詰めると、大企業優遇、生活者軽視路線に行き当たる。この路線の危険性はもはや明らかで、正反対に切り替えるべきであり、少なくとも再増税は危険だと知るべきだ。
政府は、増税前の駆け込み需要を反映した1~3月期のプラスと今回の結果を一体として見るべきだと力説し、今後は回復軌道へ戻ると見ている。だが中身を子細に見ると、楽観的に過ぎる。
最大の問題は4~6月の個人消費が前期比5・0%、年率換算で19%ほどの大幅減になっている点だ。比較可能な1994年以降では最悪だ。前回の消費増税(97年)時は前期比3・5%減だった。それ以降デフレの泥沼にはまり込んだことを思えば、それより大幅である点を軽視すべきではない。
しかも今回は輸出も設備投資もマイナスになっている。前回増税時はこれらはプラスだった。
安倍政権の経済政策は端的に言うと「トリクルダウン」理論に基づく。滴が上の杯に入り、上が満ちると下の杯に落ちるように、まず大企業が潤って中小零細企業にも波及し、やがて家計にも恩恵が至るという理屈だ。だが設備投資もマイナスである現実を見れば、この理論は破綻しかけている。
改善した雇用も非正規が中心で、賃金が物価上昇に追い付いていない。政権は成長戦略で法人税減税を打ち出したが、企業の内部留保を増やすだけではないか。
輸出が減少したのは、アジア向けが改善しないからだ。中韓両国との信頼関係を大きく損ねた安倍政権の体質の反映ともいえる。
消費税は低所得層には負担が重く、貯蓄が多い富裕層には有利な制度だ。累進課税の緩和で富裕層は所得税の負担も軽くなった。法人税も軽減一方だ。過去25年、日本はそうした逆進性が進み、格差が拡大した。
問題は、本来、消費意欲のある若年層が消費できない点だ。その方向性を逆回転させないと真の消費喚起にはならない。生活者重視に切り替えるべきなのだ。