7月27日に放映されたNHK「STAP問題検証番組」の製作意図の卑劣さは、言葉を失うほどのもので、公共放送が私人に対して行った前代未聞の個人攻撃でした。
公共放送に名を借りたこのような理不尽な攻撃は絶対に許されません。識者たちから厳しい批判※が出るのは極めて当然のことです。
※ 8月16日 NHK STAP問題スペシャル番組の「不正」と「罪」
ところが15日に放映されたNHKスペシャル番組「戦後69年 いまニッポンの平和を考える」でもまた、一見「政府側」3人に対して「反政府側」も3人の構成に見えて、その実は真の「反政府側」は鳥越俊太郎氏ただ一人(勿論司会者も政府側)で、そこに集中砲火が浴びせられるようにするという、実に周到で卑劣な仕掛けが作られていたことが明らかにされました。
そもそもNHKの討論番組では、一人当たりの発言回数(発言時間も)がほぼ均等にされるので、反政府側3人のうちの2人までが「隠れ与党側」であっては、とても対等な議論など出来ません。いかなる論者が登場してもそうなります。
この仕掛けによって、国民の大多数が反対している集団的自衛権の行使容認の問題を、あたかも政府側の言い分に理があるかのようにNHKは演出しました。公共放送が官邸の下請けとなって、こうした効果を巧妙に生み出したわけですが、これは放送法にも完全に違反する行為であり、許されないことです。
実はNHKNのこの卑劣な策謀は、「STAP問題検証番組」が極めて異常なものではあったものの単発の出来事であったのに対して、政治討論番組では何十年来繰り返し行われてきたものでした。その結果としてこのように巧妙で完璧なものに仕上がったのです。
これについて植草一秀氏が、NHK側の作戦を精密に分析していますので紹介します。
丁度推理小説の種明かしをするように、同氏の知識と慧眼が見事に真相を解明しています。NHKの堕落は留まるところを知りません。
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NHK『ニッポンの平和』に見る偏向番組の作り方
植草一秀の『知られざる真実』 2014年8月16日
トリック=偽計=詐術を用いて、人々の判断を誤導するのである。真相を見抜くものは騙されないが、多くの市民が詐術によって誤導されてしまう。
権力はマスメディアを活用して詐術を施す。消費税増税が日本経済に甚大な影響を与えているが、安倍政権は日本経済新聞とNHKをフル動員して「消費税増税の影響軽微」の大キャンペーンを展開してきた。
日本経済新聞の哀れなまでの堕落ぶりについては、何度も記述してきた。
NHKも8月13日のGDP大崩落の報道では、売上が前年比プラスの例外的存在の大丸東京店のデータを使って、「大都市圏の消費は堅調」という、事実無根の報道を7時の定時ニュースで垂れ流した。この国の報道機関の劣化ぶりは、第二次大戦中の劣化と同列のレベルにまで進行している。
日本軍の無条件降伏受け入れを決定したことを国民に発表した1945年8月15日から69年が経過した昨日、NHKはNHKスペシャルで「戦後69年 いまニッポンの平和を考える」と題する放送を行った。「偽計による幻想」を代表する番組の作りであった。
番組を見た視聴者の印象は、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏が、集中砲火を浴びせられているというものであったはずだ。実は、この図式こそ、番組編成の意図であったと考えられる。
私はNHKの政治番組である『日曜討論』に二桁の回数で出演してきた。
この討論形式の番組にはカラクリがある。
これまでの著書のなかに記述したことがあるが、生放送の番組であっても、放送前に番組の色彩を決定することができるのだ。昨日の放送は、まさに「あべさまのNHK」を象徴するつくりになっていた。番組の色彩は、結局のところ、出演者の顔ぶれで決まる。このキャスティングに、明白な「偽計」が凝らされている。
番組の主役は岡本行夫氏である。岡本氏は外務省OBである。外務省を早期に退職して独立したが、背後で岡本氏を全面支援したのは米国であると考えられる。
破格の条件で岡本氏は外務省を退職して独立したと考えられる。
横綱土俵入りの太刀持ち、露払いを務めたのが吉崎達彦氏と岩田温氏である。吉崎氏と岩田氏は、鳥越氏をどのように攻略するか、綿密な準備を事前に行ったはずである。
座席の配置は上座主賓席に岡本行夫氏が着席し、その横に太刀持ち吉崎氏、露払い岩田氏であるから、この3名の位置付けは鮮明である。吉崎氏は御用であることをカムフラージュする発言を示したが、実態は完全な御用である。自民党議員の私的勉強会の事務局を永年務めてきた経緯も存在する。
キャスティングのポイントは三つある。
第一のポイントは、野党筆頭席に鳥越俊太郎氏を据えたこと。
鳥越氏は知名度も高く、人気も高いから、番組の映像としてはもっともらしく見える。しかし、政府見解の論理構成を支える岡本氏を論破する中心人物ではない。想定問答を準備して水も漏らさぬ対応を取るタイプの論客ではない。番組は意図的に、鳥越氏対3名の御用論者の戦いの構図を構築したのである。
第二のポイントは、野党席に隠れ御用を忍び込ませたことである。隠れ御用を忍び込ませるなら、女性の方が効果的である。日本紛争予防センター理事長の瀬谷ルミ子氏が起用された。日本紛争予防センターはNGOであるが、設立の経緯を見れば、外務省との深い関わりが明白である。日本紛争予防センターが行う事業の資金源には、外務省所管の巨大予算が充てられているのである。
この瀬谷氏が安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定を全面否定するわけがないのである。事実、瀬谷氏の発言は閣議決定を肯定するものであった。
野党第2席に着席したのは東京大学教授の加藤陽子氏である。加藤氏は歴史学者で安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する立場を表明するが、加藤氏が起用された理由は次の点にあると考えられる。
それは、加藤氏が集団的自衛権行使容認の「新三要件」に、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」と記述されたことについて、「明白な危険」と表記されたことを高く評価している点である。この点を確認したうえで、NHKは加藤氏を野党第2席の出演者として選出したのだと考えられる。
それが証拠に、司会進行の三宅氏は、「新三要件」について明示したうえで加藤氏に質問を振った。画面には、周到に用意された「新三要件」のテロップが掲示されたのである。
第三のポイントは野党第1席に憲法学者を配置しなかったことである。
岡本氏に対峙して対論を行うには、集団的自衛権行使容認が憲法違反であることを論理的に緻密に主張する憲法学者が必要であった。鳥越氏はジャーナリストとして第2席に着席するべきだったのである。そして、第3席に加藤陽子氏が着席するべきであった。もし、対論がこの6名によるものであったなら、番組の内容はまったく異なるものになる。
この「誤導」による番組印象が視聴者に植え付けられる。
これを「偽計による幻想」と呼ぶのである。
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