2014年8月8日金曜日

抑止力より対話に力をと 防衛白書を各紙が批判 

 強大な軍事力を持てば他国は確かにその国に侵略しません。第二次大戦後アメリカはダントツの軍事力を持って今日に至っていますが、ではその隔絶した抑止力によって戦争とは無縁の平和国家が築けたのでしょうか。
 事実は全く逆であって、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガン戦争をはじめ、キューバやリビアなどの小国への干渉的戦争なども、すべてアメリカが自ら引き起こした戦争でした。
 
 そのアメリカに対して、これまで以上に更に密着すべく日本が「集団的自衛権の行使」を謳ったことは、その抑止力によって更に安全の度を加えるということではなくて、単にアメリカが行う戦争に参加させられる危険性が限りなく高まったということに過ぎません。
 
 7日、主な地方紙は以下のような社説を掲げ、抑止力論の危険性を指摘しています。
 
防衛白書 抑止一辺倒は危険だ      琉球新報
防衛白書 抑止力より対話に力を     北海道新聞
 
 琉球新報は、「中国や北朝鮮の脅威を強調しており、日米一体化による抑止力の強化を目指す内容・・・軍事力に頼った抑止力一辺倒の日本の対応が、アジアの不安定要因となっている・・・近隣諸国との関係改善を図り、緊張を緩和する姿勢が求められる」と述べています。
 
 高知新聞は「日米一体化による抑止力強化を目指す軍事一辺倒の対応には、対立の激化を招く危険性が潜む。・・・自国の安全を高めようと意図した国防力の増強が他国にとって脅威とみなされ、結果的に軍事的緊張が高まる」と述べています。
 
 北海道新聞は、「集団的自衛権の行使容認で日米同盟を強化することにより、抑止力を高めることを狙った・・・抑止力一辺倒で軍事的対応を強めれば、中国などアジア諸国の日本への不信を招き、軍拡競争に陥りかねない」と述べています。 
 
 信濃毎日新聞は、「日米の同盟強化で抑止力を高めようというのが政府の考えだ。力に力で張り合えば、軍拡競争がエスカレートしかねない。かえって地域が不安定になる。軍事への傾斜より、周辺国との対話の努力を求めたい」と述べています
 
 各紙が、異口同音に「抑止力論に走っては近隣諸国との軍事競争がエスカレートするだけだ」と述べているのは、世界の歴史がそのことを証明しているからに他なりません。軍事一辺倒の安倍政権の誤りは明白です。
 
 琉球新報と高知新聞の社説を紹介します。
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防衛白書 抑止一辺倒は危険だ
琉球新報 2014年8月7日  
 ことしの防衛白書は、集団的自衛権の行使容認に初めて言及し「歴史的な重要性を持つ」と指摘した。平和憲法を骨抜きにし、「戦争のできる国」へ転換をしたという意味で言うなら、確かに「歴史的」白書だ。
 白書は安倍政権がこの1年間で打ち出した新たな安全保障政策を網羅した。特に中国や北朝鮮の脅威を強調しており、日米一体化による抑止力の強化を目指す内容になっている
  軍事力に頼った抑止力一辺倒の日本の対応が、アジアの不安定要因となっていることに気付くべきだ。求められるのは外交を通じて近隣諸国との関係改善を図り、緊張を緩和する姿勢だ。
  昨年の白書は集団的自衛権行使について「憲法9条のもとで許容される範囲を超えるものであり、許されない」と明記した。しかし、今回からその文言が消えた。その代わり新3要件を満たせば「憲法上許容される」と転換した。武器輸出三原則も消え、米国などと武器の共同開発を積極的に進めると記述した。
  昨年の白書は「沖縄における在日米軍の駐留」の項目で辺野古埋め立ての申請書を県に提出したことに触れ「政府の考え方を丁寧に説明しながら沖縄の人々の理解が得られるよう、誠実に努力している」と記述していた。だが今回「理解を求める」が消え、「知事の埋め立て承認を重く受け止め、速やかに事業に着手する」と前のめりの表現になっている。
  世論調査で県内移設に県民の7割以上が反対していることを忘れてはならない。仲井真弘多知事の埋め立て承認も7割が「公約違反」と批判している。民意を無視し、辺野古沖に巡視船だけでなく、掃海母艦の派遣まで検討する強硬姿勢は断じて許されない。
  白書は自衛隊の南西地域への重点配備も強調した。基本的考えは「島(とう)嶼(しょ)を占領された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど島嶼を奪回する」と説明している。「島の奪回」は「戦場化」と同義であるが、住民の安全確保には触れていない。軍の論理が貫かれている。
  白書は中国の海洋進出を「高圧的」と非難するが、安倍政権の沖縄に対する姿勢こそ高圧的だ。国民の理解を得る努力を怠り、戦後日本の「平和国家」像を転換させた政治手法は危険極まりない。
 
 
【防衛白書 安倍政治を問う】 抑止力一辺倒では危うい  
高知新聞 2014年8月7日  
 2014年版防衛白書は、海洋進出を活発化させる中国に対する批判を一段と強め、北朝鮮の核開発や弾道ミサイルへの警戒感を強調している。 
 中国や北朝鮮の動きが懸念されるのは確かだ。ただし、脅威を強調して抑止力の強化にひた走る安倍政権の安全保障政策には危うさがつきまとう。 
 白書は、日本を取り巻く安全保障環境が「一層厳しさを増している」とした上で、安倍政権の実績として国家安全保障戦略の策定、防衛大綱・中期防衛力整備計画の改定、武器輸出の緩和などを挙げた。 
 特に、閣議決定した集団的自衛権の行使容認については、「歴史的な重要性を持つ」と高く評価している。 
 だが、日米一体化による抑止力強化を目指す軍事一辺倒の対応には、対立の激化を招く危険性が潜む。防衛省のシンクタンク、防衛研究所が4月に公表した「東アジア戦略概観2014」も、その点に触れている。 
 北東アジア情勢の先鋭化・深刻化の要因の一つに、「自国の安全を高めようと意図した国防力の増強が他国にとって脅威とみなされ、結果的に軍事的緊張が高まる」ことがあるとする。いわゆる「安全保障のジレンマ」だ。 
 戦略概観は打開策として、首脳レベルによる戦略対話、広範な分野における国際交流、危機管理メカニズムの構築や防衛交流・安全保障協力などを積み重ねる必要性を指摘する。その通りだろう。 
 だが、安倍政権の外交的努力は不十分だ。安倍首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げて各国を訪れ、安保政策への賛同を集めてきたが、肝心の中韓両国のトップと接触できない状態が続いている。 
 昨年末の靖国神社参拝は、周辺国とのあつれきを懸念する米国の「失望」さえ招いた。隣国との関係改善を後回しにしてきたツケといってよい。 
 こうした後回しは国民への説明にも当てはまる。外遊で「外堀を埋める」ような進め方ではなく、政策決定に先だって、国民に丁寧に説明し、国会で十分に審議すべきだった。 
 集団的自衛権の行使容認について、最新の世論調査では「説明不足」とする人が84%に上る。国民の理解を得ないまま、安全保障法制の整備などに突き進んではならない。