株価の日経平均は25年ぶりの高値を記録しています。
経済学者の高橋乗宣氏は、「日本経済一歩先の真相」で、経済状態と無関係に株価だけが上がっているのは「過剰流動性」によるものとしています。
日銀は異次元緩和と称し大量にカネを供給したものの、市中の経済は回っていないので、行き場をない緩和マネーが株式市場に向かうとともに、経営の苦しい各銀行も、窓口で顧客に預金を崩して投資信託を勧めるという、「株の運用」に商機を見いだした結果、株価が上昇したもので「株価バブル」だということです。
いずれにせよ緩和の出口戦略は依然として持っていないので、来年4月が任期の黒田総裁の後を引き受ける人はいません。結果として黒田氏が再任されることになるので、異次元緩和も継続されて日本経済は更に「バブル崩壊の日」に近づくことになります。
日刊ゲンダイのもう一つの記事によれば、長さだけは戦後2番目の「いざなぎ景気(57カ月)」を超えるものの、景気がいいのは一握りの大企業だけで、中小零細企業はバタバタ倒れているのが実態といいます。
大企業の景況感は上向いていますが、中小零細のサービス業の倒産件数は前年同月比1・5倍の51件で、小売業も同12・5%増の27件に上っています。規模別では、負債総額1000万~5000万円の小規模倒産が108件を占める一方、負債50億円以上の大型倒産は一切ないということです。
所得が増えず慢性的な消費不振のなかでは大企業もサービスや商品の低価格路線にシフトするしかありません。そうなると体力のない小規模なIT企業や飲食店、小売店などはその流れについていけずに倒産に追い込まれます。
安倍政権は大企業しか見ていないから、大企業中心の「偽りの景気判断」が続いているだけのことです。
(追記)
因みに、「いざなぎ景気」は1955年~70年の約5年間で、その間の実質経済成長率は73%、また「いざなみ景気」は2001年~07年の約6年間で、その間の実質経済成長率は9%でした。それに対して2012年~16年の約4年間(確定分)の実質経済成長率は4%に過ぎません。
(植草一秀「いざなぎ景気超え」詐欺実態は「いかさま景気」[8月26日]
なお経済学者の植草一秀氏はブログ「植草一秀の知られざる真実」⇒「経済低迷持続下で株価だけが急騰する理由」(11月11日)で、別の観点から株価の高騰は「バブルではない」とする見解を発表しています。興味のある方はそちらをお読みください。
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日本経済一歩先の真相
四半世紀ぶりの株高は異次元緩和が招いた実態なきバブル
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2017年11月10日
株高が止まらない。日経平均は実に四半世紀ぶりの高値を記録。市場関係者の中には「今の株高はバブルではない」と強気な意見も目立つが、はたしてそうなのか。
GDPの実質成長率は年間1%弱と低調続き。先行きも成長に転じる気配はない。安倍首相は「2020年ごろにGDP600兆円を達成する」と豪語し、実質2%以上の高成長を目指したはずだが、完全に掛け声倒れだ。
日本経済に明るい見通しはないのに、株価だけが上がっている。一体、何ごとなのか。
端的に言えば「過剰流動性」のワナだ。資金の流動性が正常な経済活動に必要な適正水準を上回り、その状態が「金余り相場」を招いたのだ。元凶は、日銀総裁による「黒田節」である。
異次元緩和と称し大量にカネを供給したものの、市中銀行は困り果てている。民間企業に旺盛な資金需要があるわけでもないし、マイナス金利政策の長期化で貸し出し業務の利ざやも縮小。まさに踏んだり蹴ったりの状況が収益を圧迫し、3大メガバンクでさえ、大規模リストラを余儀なくされている。
こうして行き場を失い、ダブついた緩和マネーが、株式市場に向かっている。経営の苦しい各銀行も窓口業務で顧客に預金を崩して投資信託を勧める苦肉の策に走り、株の運用に商機を見いだしている。なるほど、経済成長が伴わなくとも、株高になるわけだ。
実態なき株価上昇は、明らかにバブルだ。株価が永久に上昇を続けることはない。市場関係者は株価連騰に浮かれている場合ではない。バブルを招来させた責任を問われるべき黒田総裁の任期は来年の4月まで。さて緩和の出口戦略はどうするつもりなのか。
米FRBの次期議長にはパウエル現理事が指名された。リーマン・ショック以降の金融緩和の出口から抜け出した局面で、非常に無難な人事だ。
米FRBの人事と政策は素晴らしい。今後も米国の経済成長を支えていくのだろうが、対する日銀の人事は大変だ。
異次元緩和の出口が見えない中、次期総裁を引き受ける人は、まずいない。誰もいなければ、衆院選後に安倍首相が全閣僚を据え置いたように、黒田総裁も再任。異次元緩和も継続される。そうなれば、日本経済は再びバブル崩壊の日に近づく。あのミジメな「失われた20年」に逆戻りだ。
来日したトランプ大統領は安倍首相に貿易不均衡の是正のため、武器購入を迫り、「購入すれば、日本は北朝鮮のミサイルを撃ち落とせる」と言ってのけた。北朝鮮だって黙っていないし、トランプ大統領も日本を戦争に巻き込むつもりだ。
安保法制の変更で、自衛隊は他国軍隊と共同軍事行動が可能となっている。北朝鮮に向かって米日共同戦線を展開することになるやも知れない。韓国は消極的だが、安倍は「待ってました」とばかりに同調するにちがいない。
日本は経済と安全保障という2つの危機に苦しむことになる。
日経平均2万3000円突破も…中小零細企業は“倒産ラッシュ”
日刊ゲンダイ 2017年11月10日
中身スカスカの“狂騒”だ。日経平均株価が9日、25年10カ月ぶりに一時2万3000円を突破。内閣府も8日、9月の景気動向指数の基調判断を「改善を示している」とし、景気拡大は58カ月に達した。
戦後2番目に長かった「いざなぎ景気(57カ月)」を超えることが確実になったことで、テレビや新聞は大騒ぎだが、ちょっと待って欲しい。景気がいいのは一握りの大企業で、中小零細企業はバタバタ倒れているのだ。
民間の信用調査会社「帝国データバンク」の調べによると、東京都内の10月の企業倒産件数は前年同月比8.9%増の147件。9カ月連続で前年を上回っている。
大企業の景況感が上向く一方、中小零細のサービス業の倒産件数は前年同月比1.5倍の51件。小売業も同12・5%増の27件に上った。規模別では、負債総額1000万~5000万円の小規模倒産が108件を占める一方、負債50億円以上の大型倒産は一切なかった。
「慢性的な消費不振が原因で、大企業はサービスや商品の低価格路線にシフトしています。しかし、小規模なIT企業や飲食店、小売店などは体力がないため、その流れについていけず、倒産に追い込まれていくケースが多く見受けられます。今後も同様の傾向が続くとみられます」(帝国データバンク担当者)
■業績好調なのは一部の大企業だけ
具体的には、スマホアプリなどを開発する零細企業や広告代理店、町の定食屋や中小規模のスーパー、美容院などが倒産に追い込まれたという。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。
「一般家庭のサラリーマンの賃金が上がっていないのですから、飲食店や小売店が倒れていくのは不思議なことではありません。この4年で大企業の内部留保は100兆円も増えました。結局、業績好調なのは一部の大企業だけです。株価についても、相場を日銀とGPIFが下支えしている上に、外国人投資家が買いに走っている状態。日経平均が1日で数百円も上下していますから、“ギャンブル相場”の様相を呈しています。株価高騰は、実体経済を反映したものとはとてもいえません」
「いざなぎ超え」なんて中小零細にはまるで無関係。安倍政権が大企業しか見ていないから、偽りの景気判断が続いているだけだ。