「エンゲル係数」は家計の消費支出全体に占める食費の割合で、高いほど生活が苦しいことを示します。年配の人たちにはお馴染みの言葉ですが、高度経済成長期を経て全体として生活が安定してからはあまりいわれなくなりました。実際 日本の全世帯のエンゲル係数は20年以上に渡ってずっと23%台を維持していました。
ところがアベノミクスが行われた2013年以降はエンゲル係数が急上昇し、直近の2016年は25.8%と、29年ぶりの高水準になりました。
かつて国会で、日本の子供の相対的貧困率※が16%と高いことについて問われた安倍首相は、「絶対的貧困度は悪くない」と答えて、貧困問題についての無知をさらしました。貧困問題は同一時代・同一社会内での格差の問題として(相対的に)論じられるもので、世界の最貧国よりは上位にあるとか、江戸時代の貧農に比べればマシだなどと論じるものではありません。
(※注 アムネスティの統計なので「子供の相対的貧困率」とされますが、それは即ち「成人の相対的貧困率」のことです。)
その安倍首相は31日の参院予算委で、民進党の小川敏夫議員が「エンゲル係数が顕著に上昇している。国民生活は苦しくなったのではないか」と質したのに対して、「エンゲル係数は上昇傾向にあるが、物価変動のほか、食生活や生活スタイルの変化が含まれている」とかわしました。いつもながらの無意味な答弁です。
なるほど食生活や生活スタイルの変化という要素もなくはないのでしょうが、それが2013年~2016年の4年間に急激に起きたということでは全くありません。エンゲル係数の急激な上昇は、いうまでもなく第2次安倍政権発足後に実質所得が5%も落ちたことの反映です。
東京新聞によれば、エンゲル係数を年代別にみると、30~59歳は25%程度だが、60代は約29%、70代以上は約31%と、高齢者層の上昇が目立つということです。これは首相のいうように生活スタイルの変化などではなくて、アベノミクスの円安誘導により肉など食品の価格が上昇した影響をまともに受けたことを示しています。
自分は暇さえあれば超一流の料亭などで超豪華な食事を楽しんでいる中で、国民生活の実態を見る目を失って、国会答弁で愚かな御託を並べるなどということは厳に慎むべきです。
東京新聞の記事とLITERAの記事を紹介します。紙面の関係でLITERAの記事は前半のみを紹介しますので、全文は記載のURLからアクセスしてご覧になってください。
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【社説】 エンゲル係数 国民の暮らしを見よ
東京新聞 2018年2月3日
アベノミクスによって国民生活は苦しくなった-。国会論戦で「エンゲル係数」を基にした追及があった。所得の伸び悩みや節約志向、生活苦が表れた指標だ。首相は国民の暮らしを見ているのか。
家計の消費支出全体に占める食費の割合が「エンゲル係数」である。高いほど生活水準が苦しい。
直近の二〇一六年は25・8%(総務省調べ)と二十九年ぶりの高水準だった。四年連続の上昇だが、最近三年の伸びが著しい。G7(先進七カ国)の中ではトップのイタリアに肉薄している。
先月末の参院予算委員会で民進党の小川敏夫氏が「アベノミクスが始まって五年たつが、エンゲル係数は顕著に上昇している。国民生活は苦しくなったのではないか」と質(ただ)した。
安倍晋三首相は「エンゲル係数は上昇傾向にあるが、物価変動のほか、食生活や生活スタイルの変化が含まれている」とかわし、むしろ雇用の改善を強調してアベノミクスを正当化した。だが、これは論理のすり替えでしかない。
エンゲル係数の中身をつぶさに見ると、三十~五十九歳は25%程度だが、六十代は約29%、七十代以上は約31%と、高齢者層の上昇が目立つ。
これはアベノミクスの円安誘導により肉など食品の価格が上昇した影響をまともに受けたためだ。
年金生活者にとっては雇用の改善はほとんど意味を持たない。超低金利で利息収入は増えず、物価が上昇すれば生活は苦しくなるばかりである。
首相の一日の動静を記す新聞欄を見れば、安倍首相が一流の料亭やレストランで家族や芸能人、財界関係者らと頻繁に会食している事実を窺(うかが)い知ることができる。
その生活ぶりとエンゲル係数に対する認識は無関係ではあるまい、などと言うつもりはない。だが国民の目にはどう映るだろうか。
厳然たる事実はアベノミクスが五年続いても賃金は伸び悩み、税金や社会保険料の負担増で多くの国民は疲弊した。一方で株や土地などの資産を増やす富裕層との間で二極化が進んだ。
首相が述べた「食生活や生活スタイルの変化」とは総務省の分析結果であろう。すなわち節約志向が強まって食費以外への出費を抑えたり、急増する共働き世帯は調理済み食品や外食など時間節約の出費がかさんだことを指す。
つまり国民は総じて貧しくなった。アベノミクスをやめ国民の幸せを考えた政策に転換すべきだ。
“生活苦の指標”エンゲル係数アップに安倍首相がデタラメ言い訳!
直後にWikiのエンゲル係数解説が改ざん
LITERA 2018年2月3日
「エンゲル係数」がにわかに話題になっている。1月31日の参院予算委員会で、民進党の小川敏夫議員から安倍政権下でのエンゲル係数上昇を追及された首相が、詭弁を弄する無茶苦茶な答弁をしたからだろう。
小川議員は「生活の豊かさを示すエンゲル係数は顕著に上がっているという状況」「国が行った統計調査で、はっきり生活は悪くなっているということが出ている」などと指摘した。ところが安倍首相は、またぞろ聞かれてもいないのに有効求人倍率やベースアップなどをアピールしはじめ、エンゲル係数の上昇については「これは物価変動のほか、食生活や生活スタイルの変化が含まれているものと思います」と煙に巻いたのだった。
言うまでもなく、エンゲル係数は家計の消費支出総額中に占める食料費の割合のことで、一般に高ければ高いほど生活水準の低さ(生活の苦しさ)を表している。この数値が、第二次安倍政権のもとで急上昇しているというのは事実だ。総務省が公表している家計調査によると、2005年に22.9%(2人以上世帯)の最低を記録してからは長らく23パーセント台となっていた。ところが、アベノミクスが始動した2013年から急激な右肩上がり。2016年には25.8%を記録した。これは実に約30年前と同じ水準である。
しかし、その事実を指摘された安倍首相は、「生活スタイルの変化」などと言って誤魔化しにかかったわけだ。いやはや、戦後直後や高度経済成長期と比較するならまだしも、23パーセント台だった2006年から2012年までと、24パーセントから26パーセント弱まで急上昇した2013年以降では、人々の生活はそう大きく変わらない。安倍首相の“見たくないものは見ない”性質をモロに表している言い訳だが、これに対し小川議員はこう追撃した。
「エンゲル係数はアベノミクスが始まってから上がっている。これはやはり、政府が、生活が豊かになった、景気良くなったよと言いながら、国民が豊かになった実感をもたない、という声を聞きますが、まさにその声が裏付けられているわけじゃありませんか、国の調査によって。国民の生活が苦しくなってるんです」
「厳然たる事実ですよ、安倍総理。国が行った調査でエンゲル係数が上がっている。国民の生活が苦しくなっている。これが、アベノミクスの実質じゃないですか」
安倍首相の答弁直後に書き換えられたWikipediaの「エンゲル係数」
小川議員の言うとおりだろう。事実、マスコミ各社の世論調査でも、大多数がアベノミクスによる景気回復を実感していないという結果が出ている。たとえば1月のNHK調査では、「景気の回復を実感しているか」について「あまり実感していない」と「まったく実感していない」が合わせて76パーセント。読売新聞の調査でも、「安倍内閣のもとで、景気の回復を、実感していますか、実感していませんか」との質問に対し「実感していない」が73パーセントだった。
エンゲル係数が生活の豊かさ・苦しさを示す端的な指標である以上、その上昇は国民の生活苦という実感を意味している。安倍首相はアベノミクスによって国民生活が豊かになったと嘯くが、大ウソであることを正直に認めるべきだ。
まあ、アベノミクスに関しては、方々から失敗が指摘され続けてもなお、安倍首相は都合のいい数字だけを持ち出して、ひたすら成果を喧伝してきた。その態度を考えると、安倍首相が誤りを認めて軌道修正することなど期待できないが、他方で、今回のエンゲル係数に関する国会質疑をめぐっては、もうひとつ興味深いことが起きている。
小川議員が質問した1月31日参院予算委の翌日、ユーザー参加型のインターネット百科事典「Wikipedia」における「エンゲル係数」の項目が、まるで安倍政権に都合よくするかのように書き換えられたのである。
2017年10月5日に編集されたそれまでの版では、エンゲル係数の「概要」として〈一般に、エンゲル係数の値が高いほど生活水準は低いとされる。これは、食費(食糧・水など)は生命維持の関係から(嗜好品に比べて)極端な節約が困難とされるためであり、これをエンゲルの法則という。エンゲル係数の高低は生活水準を表す指標となっているが、価格体系や生活慣習の異なる社会集団の比較には必ずしも役だたない〉と常識的に記されていた。
それが2月1日の午前1時24分に、突如、あるユーザーがこう全面的に書き換えたのだ。
〈エンゲル係数の値が高いほど生活水準は低いとされてきたが、かつて各国の労働者の多くを占めていた農家・漁業域関係者が割合的に激減するなど都市化した現在では商品価格の水準・生活様式・食生活の内情・周辺環境が多様になったことで各家庭の前提条件に大きな相違があって比較にならなくなったとして重要度が下がっている。(以下略)〉
その後も“生活様式の変化等によりエンゲル係数の高低は重要でなくなった”という趣旨の記述が続く。安倍首相の答弁をなぞるような書き換えだ。しかもWikipediaは編集者の独自研究を載せない方針で、必ず出展を示すのがルールだが、記述の出展とされているのは小説であった。
同日午前5時3分には、別のユーザーが「小説をソースに書かれることではない」として記述を元に戻す編集を行った。しかし、同日午前7時32分には〈昨今では核家族や一人暮らしが増えて中食が増えるなどの要因により、一概にエンゲル係数の値が高いほど生活水準は低いとは言えなくなってきている〉等が加えられ、またすぐに削除されるなど編集合戦となり、同日9時には編集できないよう保護される事態となった。
すべてが安倍政権に都合よく書き換えられる? まるで小説『1984』
(中 略)
「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」は事実だった
(中 略)
(宮島みつや)