憲法9条改憲で首相が一番力を入れているのが、2項を残したまま“自衛隊を書き込む”案ですが、それでは後法優先の原理から2項が空文化し、無制限の武力行使が可能になります。
それに「自衛隊」を明記して、それが何のための組織でどのような権限を持つのかを書かないということはあり得ません。
目的や権限などをすべて政府の解釈に委ねるのでは、立憲主義憲法ではないからです。
7日の自民党憲法改正推進本部全体会合では9条改憲案として、
(1) 9条1、2項を残して自衛隊を明記
(2) 9条1、2項を残して自衛権を明記
(3) 9条2項を削除
と新たに「自衛権」の明記が加わり、3つの案に分かれたいうことです。
共産党の小池晃氏はそれに対して「自衛権を書けば個別・集団の区別なく自衛権行使が可能になり、違憲の安保法制を追認することになる」と指摘しました。
古来、あらゆる戦争はすべて「自衛のため」を口実にして引き起こされました。戦争国家のアメリカですらそうです。「自衛権」の明記が戦争防止の歯止めになるなどは全く絵空事です。
しんぶん赤旗が安倍首相を含めた自民党の直近の右往左往を描写しました。
鎧の上にまとう衣をどんな風に変えてみても、下の鎧は隠しようがないということです。
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政治考
“9条に自衛隊書いても変化なし”安倍首相の言い分は本当か?
2項空文化ごまかす
しんぶん赤旗 2018年2月13日(火)
「今、石破委員がこちらを見ておられるが、まだ(9条)2項を削除すべきだという議論もある。自民党総裁として一石を投じ波紋、議論が広がっている」(1月30日、衆院予算委員会)
安倍晋三首相は質問者の原口一博議員(無所属)にこたえず、与党席の石破茂元自民党幹事長にこたえるかのように述べました。
9条2項削除論では「フルスペック(無制限)の集団的自衛権行使」が可能になるが、自ら提案した「9条1、2項を残して自衛隊を書く」という改憲案では「2項の制限がそのまま残る」として、自衛隊の活動範囲に変化はないとしたのです。
5日の衆院予算委員会でも安倍首相は、自らの案について「9条第2項の規定を残し、自衛隊の存在を憲法に明記することによって、自衛隊の任務や権限に変更が生じることはない」と繰り返しました。(希望の党の、玉木雄一郎代表への答弁)
改憲問題での答弁を回避してきた昨年とは打って変わって、踏み込んだ答弁を繰り返している安倍首相。その首相が一番力を入れているのが、“憲法に自衛隊を書き込んでも何も変わらない”という議論です。
後の法律優先
この安倍首相の言い分は本当か―。
7日放送のBSフジ番組「プライムニュース」で、安倍首相の言い分をしきりに代弁する自民党総裁特別補佐の柴山昌彦衆院議員に対し、日本共産党の小池晃書記局長は、「自衛隊を明記すれば、1、2項を残したとしても、後からつくった法律が前の法律に優先するという法の原則によって、2項が空文化する。結局、無制限の武力行使が可能になる」と批判。これに対し柴山氏は、「新しくつくったもので旧来のものが死文化するという疑問は重々承知」と認めざるを得ませんでした。
立憲主義崩壊
元政府高官の一人も言います。
「自衛隊を書いて、それが何のための組織なのか、どのような権限を持つのかを書かないことはあり得ない。それがなければ、2項を残して、なぜ戦力に当たらないのかも説明できない」
国会では「希望」の玉木氏が、自衛隊という組織の存在を書くだけで、その権限・「自衛権」の議論をしないなら、「公権力の行使を縛るという立憲主義の観点から問題が残り続ける」(6日、衆院予算委)と“批判”しました。
軍事組織を憲法に書き込むのに、その権限や指揮権などをすべて解釈に委ねるなら、立憲主義を崩壊させる「デタラメ改憲」になりかねないという批判が、改憲容認派から飛びだした格好です。
自衛権明記「目標にできない」
国民の怒りを恐れる
7日には自民党憲法改正推進本部の全体会合が開かれ、9条改憲について議論が行われましたが、収拾はつかず、(1)9条1、2項を残して自衛隊を明記 (2)9条1、2項を残して自衛権を明記 (3)9条2項を削除の3案に主張が分かれ、党議員全体から条文案を「募集」するという事態に。
自民内の対立
自民党内では、自民党改憲案における2項削除論支持派と安倍首相提案支持派が対立し、党改憲案取りまとめが遅れています。自衛隊が「違憲」とされるのは9条2項の「戦力不保持規定」と矛盾するからであり、「2項削除が改憲の王道」(自民党議員)という主張に対し、「それではとても国民の理解が得られず、公明党との連携もできない」ため、安倍首相は「2項を維持して自衛隊を書く」という戦術転換をしてきたのです。
しかし、2項を残して自衛隊を書くこと自体が「矛盾」をはらむうえ、2項抹殺の狙いを隠すために「権限」を曖昧にすると、まともな改憲論として通用しないという隘路(あいろ)に陥って自民党内も混迷しているのです。
7日のBS「プライムニュース」では、自民党の柴山昌彦衆院議員は「自衛隊そのものは合憲とする、(権限は)どこまで許されるのか。すべてを書かなくちゃいけないか。そこ(権限)は法律に任せられる」などと繰り返し、権限を書かずに自衛隊(組織)だけを書くという案に固執しました。
一方、日本共産党の小池晃書記局長が、自民党内の議論について、安倍首相案への批判に加え、「自衛権を書けば個別・集団の区別なく自衛権行使が可能になり、違憲の安保法制を追認することになる。2項削除は言語道断」と批判。柴山氏は「集団的自衛権に対しては、国民的理解は浸透しなかった」「2項削除では、小池さんの言うように反対の人たちから『言語道断』となるかもしれない」として、「そういう形のものを最終目標とすることはできない」と吐露しました。
他方、6日の衆院予算委で安倍首相は、自衛隊違憲論に加え、安保法制をめぐる違憲論をどうするのかとただす今井雅人議員(希望の党)に対し、「自衛権自体をそこに書き込んでいく、自衛権の書き方について我々が解釈を変更したところについても書きこんで行くという考え方はあるんだろう」と答弁。安保法制による集団的自衛権のあり方を「自衛権」に盛り込んで書き込むことも選択肢の一つとする姿勢を示し、わざわざ「今井先生の提案は、私は歓迎したいと実は思っている」とまで述べました。
連携探る姿勢
改憲をめぐり、希望の党との連携をはかる姿勢を露骨に示し、「あとは、自民党の方々と憲法審査会で議論をしていただければ」と「与野党合意」の形成に期待を示しました。
しかし、改憲政党としての希望の党は、1%前後の支持率低迷に苦しみ、松沢成文参院議員や中山成彬衆院議員ら右派が分裂の動きを強め、安倍改憲に協力すべきでないという意見も抱えるなど、解体の流れにあります。
こうした矛盾の根底にあるのは、安倍改憲に対する国民の強い警戒感にほかなりません。(中祖寅一)