トランプ米大統領は23日、オーストラリア首相と会談後の共同記者会見で、北朝鮮について「制裁に効果がなければ第2段階に移行せざるを得ない」と述べ、「第2段階は手荒な内容になる」、それが実行されれば「世界にとって非常に不幸な事態となる。制裁が効果を上げることを望む」と語りました(産経新聞24日)
しかしそれはトランプ一流の「誇大宣伝」であり、ブラフ(こけおどし)です。
ジャーナリストの歳川隆雄氏によれば、トランプ政権の関係閣僚のティラーソン国務長官(外務相)とマティス国防長官は北朝鮮との交渉を優先する立場であり、それに、本来は対北朝鮮強硬派である筈のポンペオCIA(中央情報局)長官までがくみ(与)しているということです。
したがってトランプ氏のブラフにいちいち同調したり、南北の融和に異を唱えたりするのは愚かな行為で、安倍首相の「ことあれかし」の振る舞いは、米国の基調が対北対話路線にあるという認識を欠いたものなので、自らの着地点が見つからなくなるのは当然のことです。
平昌五輪の閉会式に訪韓した北朝鮮の高位級代表団は25日、閉会式に先立って、韓国の文在寅大統領と会談し、「アメリカと対話をする十分な用意がある。南北関係と米朝関係は一緒に発展すべきだ」と、米朝対話の再開に前向きな姿勢を示しました。
現代ビジネスとNHKの記事を紹介します。
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CIAまで北朝鮮「対話路線」に方針転換で日本が取り残される可能性
突然、はしごを外されるかも…
歳川 隆雄 現代ビジネス 2018年2月24日
(ジャーナリスト)
日本の報道でも「姿」を垣間見せるCIA
この間、新聞各紙はマイク・ペンス米副大統領と北朝鮮の金与正労働党第1副部長(宣伝扇動部)の幻に終わった米朝会談の背景について、詳しく報道している。
とくに読売新聞と日本経済新聞(共に2月22日付朝刊)の両紙はかなり踏み込んだ分析を行っている。
読売は、「北 2時間前に中止通告――与正氏らとペンス氏 幻の米朝会談、新たな制裁不満か」と題して、
<会談は韓国政府を介して提案。米中央情報局(CIA)は、北朝鮮側が、訪韓するペンス副大統領と会いたい意向であることを事前に把握した。北朝鮮からの会談提案を巡り、トランプ大統領やペンス氏、ケリー大統領首席補佐官らが協議し、ティラーソン国務長官とマティス国防長官も議論に加わった>
と、それまでの経緯を報じた。
日経は、「米朝接触計画 直前に北朝鮮断る――非核化を巡り解けぬ不信感、日本事前掌握か」と題して、
<では、米国と共同歩調をとる日本は事前に情報をつかんでいたのか。「(日米の間に)サプライズはないようにしているので。」日本政府関係者はこう話す。菅義偉官房長官は21日の会見で「<前略>必要な情報提供は受けた」と話した。一連の発言からは、日本も一定の状況を把握していたことがうかがえる>
と書いている。
CIAと北朝鮮の「チャンネル」はまだ生きている?
問題点の第一は、2月10日午後にソウルの大統領府(青瓦台)でペンス氏と金正恩委員長の妹・金与正氏、金永南最高人民会議常任委員長らが会談することが予定されていたと言うが、本当に北朝鮮側が韓国政府を通じて米側に打診したのかどうかである。
ここで想起すべきは、過去に米国が隠密裏に北朝鮮にアプローチした”前歴”があるということだ。それは、まさに読売記事にもあるCIAが絡んだ企図であった。
日時は特定できないが5年ほど前に、ダニエル・モルガン国家安全保障大学院総長のジョセフ・デトラニ氏が極秘裏に板門店から軍事境界線を越えて北朝鮮入りし、ピョンヤンで国防委員会の最高幹部と会談したことがあった。
二十年余もCIAで東アジア・中国担当分析官を務めたインテリジェンスのプロであるデトラニ氏は、息子ブッシュ政権の2003年には朝鮮半島和平担当大使として6ヵ国協議の米代表を務めるなど表舞台に登場している。
先述の極秘訪朝時に拓いたチャネルが現在も生きている可能性があり、それを通じて、今回の米朝接触計画はCIA主導で米国側から北朝鮮サイドに持ち込まれたのではないかと、筆者は疑っているのだ。
つまり、米国の日本の頭越しアプローチである。第二の問題であるこの点について、日経記事は<ペンス氏が訪韓前の安倍首相との会談で伝えていた可能性があり、両者は北朝鮮に「最大限の圧力」をかけ続ける方針で一致した>と報じたが、事実である。
安倍晋三首相は2月7日午後、訪韓直前に来日したペンス副大統領と官邸で会談した。
少人数会合、全体会合、そして懇談と3回に及んだが、共同記者会見直前に行われた約30分の懇談で、ペンス氏は安倍氏に対し金与正氏と会談する予定があると内々に伝えていたのだ。
「対話路線」派が勢いづく中、日本はどうなるか
その懇談には、日本側から安倍首相、森健良外務審議官(政務)、米側からペンス副大統領、エアーズ副大統領首席補佐官が出席した。安倍・ペンス両氏の事実上の差しの会談だった。
こうしたことから窺えることは、北朝鮮が平昌冬季五輪・パラリンピック後の4月早々にも実施される米韓合同軍事演習に強く反発しつつも、5月の大型連休頃まで大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を控えるようであれば、トランプ政権内で北朝鮮との交渉優先を唱えるティラーソン国務長官=マティス国防長官チームに、本来は対北朝鮮強硬派のポンペオCIA長官がくみして新たな米朝接触を試みる可能性があるということだ。
ワシントンからの情報によれば、ティラーソン=マティス・コンビの連携はさらに深まり、早期退任説が流布されていたティラーソン氏はここに来て国務長官続投に自信を強めているという。
日米協調による北朝鮮への圧力を最大限まで高めていく路線に強く拘る安倍首相だが、5月以降の状況次第ではトランプ政権によって梯子を外される可能性を排除すべきではない。
歳川 隆雄 ジャーナリスト
国際政治経済情報誌「インサイドライン」編集長。1947年、東京生まれ。上智大学英文科中退。「Japan Watchers(ニューヨーク)発行の「The Oriental Economist Report」の東京支局長も兼務。著書には、『外務省の権力構造』(講談社)、『日本の危機管理』(共同通信社)、『宗男の言い分』(飛鳥新社)など多数。
北朝鮮代表団「米と対話する用意」 ムン大統領との会談で
NHK NEWS WEB 2018年2月25日
北朝鮮の朝鮮労働党のキム・ヨンチョル副委員長をトップとする高位級代表団は、ピョンチャンオリンピックの閉会式に先立って、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領と会談し、「アメリカと対話をする十分な用意がある。南北関係と米朝関係は一緒に発展すべきだ」として、南北関係の改善とともに米朝対話の再開に前向きな姿勢を示しました。
北朝鮮が25日から3日間の日程で韓国に派遣したのは、朝鮮労働党で韓国との関係を統括する統一戦線部長を務めているキム・ヨンチョル副委員長をトップとする高位級代表団8人です。
ソウルから東部のピョンチャンに高速鉄道で移動した一行は、オリンピックの閉会式に先立って、午後5時からムン・ジェイン大統領と1時間にわたって会談しました。
韓国大統領府の発表によりますと、この中で、ムン大統領は「南北関係は今後、広範囲に拡大し、発展すべきだ」と強調し、北朝鮮側は「キム・ジョンウン(金正恩)委員長も同じ意志を持っている」と応じたということです。
そして、ムン大統領が「南北関係の改善と朝鮮半島問題の本質的な解決のためには、米朝対話が早期に行われなければならない」と指摘したのに対し、北朝鮮側は「アメリカと対話をする十分な用意がある。南北関係と米朝関係は一緒に発展すべきだ」として、南北関係の改善とともに、米朝対話の再開に前向きな姿勢を示したということです。
北朝鮮は、今月9日に行われた開会式にも、キム委員長の妹のキム・ヨジョン(金与正)氏をはじめとする高位級代表団を韓国に派遣し、ムン大統領に対してピョンヤンでの南北首脳会談の開催を提案したばかりで、その後、アメリカの動向を含めて報告を受けたキム委員長が、南北関係の改善の方向性を具体的に指示したと伝えられていました。