裁量労働制の労働時間に関するデータの捏造について、小沢一郎(事務所)は「政権に都合の悪い記録等は隠蔽する一方、都合の良いデータは捏造。行政の腐敗が止まらない」とツイートしました。上手いことを言うものです。
安倍首相は1月29日に「裁量労働制の労働時間の方が一般労働者より短いというデータもある」と答弁しました。しかしそのデーターが矛盾だらけであることを野党に突かれ維持できなくなったために、2月14日に自民党議員の指摘に応える形で「1月29日の答弁について、撤回をするとともにおわびを申し上げたい」と撤回しました。
ところが20日の衆院予算委では「データを撤回すると申し上げたのではなく、~ 、精査が必要なデータに基づいた答弁について撤回し、お詫びをした」のだと、データ-を撤回したのではないと述べました。驚くべき開き直りです。
そして「答弁案が厚労省から上がってくる。それを参考にして答弁した。全て私が詳細を把握しているわけではない」として、答弁撤回に到った主な責任は厚労省(厚労相)にあると述べました。
一方、厚労省の山越敬一労働基準局長は、以前に法案を審査した労働政策審議会に対し調査結果そのものは提示したものの、比較する形では示さなかったと説明しました。もしもそうだとすると、「裁量労働制の労働時間の方が短い」と比較「捏造」したのは政治家だったということになります。
29日の首相の答弁は「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」という表現で、改めて見直すと、それは如何にも言質を取られないことに極めて注意深く、またそのテクニックに長けている首相らしいものです。
首相は全てを承知したうえで敢えて29日にそのように答弁したと考えれば、首相にしては随分と弱気に見える表現になっていることに納得がいきます。
ではその後、野党からの批判を突っぱねた理由が不可解ということになりますが、そこは批判を黙って受け止めることが出来ない気性(あるいは幼児性)が狂わせたと考えられます。 (^○^)
ではその後、野党からの批判を突っぱねた理由が不可解ということになりますが、そこは批判を黙って受け止めることが出来ない気性(あるいは幼児性)が狂わせたと考えられます。
ところでこれらのデーターの捏造乃至誤用について、安倍首相は「労働時間の資料も含めて労働政策審議会で審議をした」ので実態把握のため再調査をする必要はないと述べ、加藤厚労相も「再調査をしなければ先に進まないということにはならない」と主張しました。
政治評論家の森田実氏は、「安倍政権が目指す労働政策というのは、~ 、戦前のように労働強化を進めるということで、関連法案はその一環です。3年間も国会審議で説明してきたデータがデタラメだったのであれば、ふつうなら内閣総辞職は当たり前、最低でも加藤厚労相はクビです。しかし、~ 、ウソがバレても平気の平左で、憲政史上、最悪の悪辣さです」(日刊ゲンダイ)と述べていますが、正にその通りです。
「働き方改革関連法案」は、裁量労働制の適用拡大以外にも、労働基準法、労働契約法、パートタイム労働法…など、8本の改正法案を政府は一括審議させる方針で、もしもこれらが通れば、労働環境もまた戦前に回帰しかねないものです。
しんぶん赤旗と日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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“ねつ造”データで「働き方改革」
一般労働者→最長の残業時間 裁量労働者→1日の労働時間
しんぶん赤旗 2018年2月20日
安倍晋三首相が裁量労働制の労働時間に関する国会答弁を撤回した問題で、厚生労働省が19日、答弁の根拠となった同省の調査データの検証結果を公表しました。一般労働者の労働時間が長くなるように「最長の残業時間」を使うなど“ねつ造”されていたことが判明。長時間労働にならないとする裁量労働制の対象拡大の根拠が崩れただけにとどまらず、労働時間データの“ねつ造”に対する安倍内閣の責任が問われる重大事態になっています。(深山直人)
問題となったのは、厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」。
首相はこのデータをもとに一般労働者の労働時間は9時間37分、裁量労働制(企画業務型)の労働時間は9時間16分になっているとして、1月29日の衆院予算委で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁しました。
その後、根拠データに対して野党側から次つぎと疑義が出され、14日に答弁を撤回、謝罪する事態に追い込まれました。
まったく違う調査方法
厚労省の検証結果によると、一般労働者の労働時間は1カ月のうち「1日で最も長い残業時間」について調査。これに対し、裁量労働制については、最も多くの労働者が属する1日の「労働時間の状況」などを調査しました。
一般労働者と裁量労働者についてまったく異なる調査方法だったことがはっきりしました。
安倍首相は、一般労働者も裁量労働者もともに、労働時間が「平均的な者」と考えられる人を選んで調査したと答弁してきました。しかし、一般労働者のほうが長くなるような調査を行っていたことが鮮明になりました。
検証結果では、一般労働者については1日の残業時間しか調査していないにもかかわらず、残業時間の平均に法定時間の8時間を加えて「平均労働時間」を算出していたことを認めました。
労働時間データについて実態をゆがめる調査をした上に、データを集計する時点でも加工を加えて実態を反映しないデータを作り出す“二重のねつ造”を行っていたのです。
検証結果では、なぜこうした“ねつ造”をしたのか、その目的も経緯も責任もまったく明らかにされていません。国会でも加藤勝信厚労相は「不適切」だと認めましたが、動機や責任についてはいっさい明らかにしませんでした。
日本共産党の小池晃書記局長は19日の記者会見で「裁量労働制の営業職への拡大を何が何でも押し通したい意図があったとしか思えない。まさにねつ造だ」と批判しました。
3年にわたりあざむく
厚労省は2015年以降、今回明らかになったデータを使って、裁量労働制で働く人が一般労働者より労働時間が短くなっていると繰り返し引用し、答弁してきました。3年間にもわたって国会と国民をあざむいてきた事実はきわめて重く、安倍政権の責任が厳しく問われます。
安倍首相は、「このデータのみを基盤として法案を作成していない」(14日)として法案を提出する姿勢を変えていません。しかし、論拠も崩れた上、データをねつ造した責任が浮上し、法案提出の資格そのものが問われています。野党からは、裁量労働制の拡大を盛り込んだ「働き方改革」法案の提出は断じて認められないとの声が強まっています。
巻頭特集
目玉法案に根拠なし 「働き方改革」で安倍政権は吹っ飛ぶ
日刊ゲンダイ 2018年2月20日
日本人選手のメダルラッシュに沸く韓国・平昌冬季五輪がなければ、テレビ・新聞は間違いなく、この厚労省データ問題の報道で大騒ぎになっているに違いない。
安倍首相が「『働き方改革』を断行」とブチ上げ、今国会の成立を目指している関連法案をめぐる審議で、厚労省が、みなし労働時間を採用する「裁量労働制」で働く人の方が、一般労働者よりも労働時間が短い――と示したデータの中身に疑義が生じ、安倍が答弁撤回と陳謝を余儀なくされた問題。
同省は19日、根拠としたデータ(2013年度労働時間等総合実態調査)を精査した結果を公表。それによると、一般労働者の残業時間については、1カ月のうち「最も長い日」のデータに法定労働時間の8時間を単純に加えて1日の労働時間を算出した一方、裁量労働制は通常の1日の労働時間を用いて比較していたという。前提条件の違う数値を比較してもデータに意味はない。統計のイロハだ。小学生の夏休みの自由研究だって、こんなズルはしないだろうから唖然ボー然だ。
野党6党が国会内で開いた合同会議では、厚労省の担当者が「異なるやり方で選んだ数値を比較したことは、不適切だった」と頭を下げたが、誰がどう見ても不適切レベルの話じゃない。裁量労働制の方が時短につながるという調査資料は他に存在しないのだ。合同会議に出席した元日本労働研究機構副主任研究員の上西充子氏は「意図、策略がある」と断言していたが、厚労省が恣意的にデータを「捏造」していた疑いが極めて強くなったワケだ。
■労政審から審議をやり直すのが当然だ
このデータ問題が悪質かつ見逃せないのは、厚労省がインチキを認めるまでの過去の国会審議でも、政府側の説明資料として度々、引用されてきたことだ。塩崎恭久前厚労相は2015年7月の衆院厚労委、17年2月の衆院予算委でそれぞれ、〈厚生労働省自身の調査によりますと、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べますと一般労働者よりも短いというデータもございまして、例えば一般の平均的な方が9時間37分働いていらっしゃいますが、企画業務型の裁量労働制の方は9時間16分ということで、約20分短いというデータもございます〉と答弁していた。
さらに、2013年度労働時間等総合実態調査は、「『働き方改革』関連法案」について「おおむね妥当」と加藤勝信厚労相に答申した、厚労省の労働政策審議会(労政審)が議論を進める土台にもなっている。つまり、この間、政府は国民に対して「裁量労働制=労働時間が短くなる」という誤った印象操作をずっと続けてきたのだ。
政府や厚労省は「労政審には(問題の)比較資料は提示していない」なんて言い訳しているが、詭弁にも程がある。少なくとも、この3年間、鉛筆ナメナメのデータによって貴重な国会審議の時間が奪われたのだ。それも「過労死法案」と呼ばれ、多くのサラリーマンの命を左右しかねない重要な労働政策についてである。「間違ったデータを使ってゴメン」で済む話じゃない。
労働問題に詳しい「ブラック企業被害対策弁護団」代表の佐々木亮弁護士(旬報法律事務所)はこう言う。
「比較できない数値を取り上げて根拠データを作るなど言語道断で、そのデータを基に安倍首相は、裁量労働制の方が労働時間が短くなるかのごとく答弁していました。法案の根底が崩れたわけですから、撤回、謝罪では終わらない。政府は法案提出を取り下げ、もう一度、労政審から審議をやり直すべきです」
結論ありきで都合のいい資料、情報ばかり出すのが安倍政権
昨秋、日産自動車や神戸製鋼所、SUBARU(スバル)……と、国内製造業大手の不祥事が相次いで発覚した。そろって基準のデータ数値をゴマカして製品を出荷していたことが判明し、重大事故につながりかねない安全性が問題視されて大量リコールに追い込まれたのだが、裁量労働制をめぐるデータ問題も、人の安全=命を問う意味では何ら変わらない。
「裁量労働制の拡大は労働時間を増やす」「労働時間の実態把握が難しく、労災の申請も難しい」――と、複数の労働者団体が労働者の健康が脅かされる恐れがあると懸念を示しているのに、安倍政権は国会でウソのデータを示してまで適用対象の拡大に前のめりになってきたのだ。データのインチキが明らかになった今、裁量労働制は即刻、「リコール=法案提出取り下げ」が当然なのに、「今国会での法案提出と成立の方針は全く変わりない」(菅官房長官)と強行突破するつもりだから狂っている。
「(安倍政権を支える)財界にとって裁量労働制は(人件費抑制などの)即効性が高い。(年収1075万円以上の高度専門職の割増賃金の規制を撤廃する)『高度プロフェッショナル制度』(高プロ)は拡大するのに時間がかかりますが、裁量労働制の拡大には賃金基準がないからです。ウソのデータを示そうが何だろうが、とにかく法案を成立させたいのでしょう」(佐々木亮弁護士=前出)
■問題だらけの改正法案を一括審議する愚
労働基準法、労働契約法、パートタイム労働法……など、8本の改正法案を一括審議する「働き方改革関連法案」。政府は、問題データだけを基に関連法案を作ったわけではないと説明しているが、裁量労働制の適用拡大以外にも、この法案は問題だらけだ。
例えば、残業の「月100時間」の上限は、国の労災認定の目安となる過労死ラインと変わらない上、建設業や運送業、医師は法律施行後5年間は適用が猶予される。高プロについても、経団連は当初、年収400万円以上を対象にしていたから、いったん導入されれば年収ラインがどんどん引き下げられるだろう。
安倍が1月の施政方針演説で「いよいよ実現の時が来た」と力説した「同一賃金同一労働」も、厚労省が昨年9月に労政審に示した法案要綱のイメージでは、導入に不可欠な「均等待遇」の原則はもとより、「同一労働同一賃金」の文言すら明示されていない。要するに法案の枠組みは、労働者の権利を確保する視点や具体的な中身はほとんど未整備なのだ。こんな欠陥だらけの抱き合わせ法案を安倍はよくもまあ、「目玉」なんて威張っているものだ。
政治評論家の森田実氏がこう言う。
「安倍政権が目指す労働政策というのは、労働者を社会の中心的な役割に位置付け、権利を守ろうと築き上げてきた戦後の日本とは異なり、戦前のように労働強化を進めるということ。関連法案はその一環です。大体、3年間も国会審議で説明してきたデータがデタラメだったことが分かったのに、謝罪して法案を押し通そうなんて、国民を愚弄していますよ。ふつうなら内閣総辞職は当たり前。最低でも加藤厚労相はクビです。しかし、多数議席をいいことにやりたい放題。憲法も国会もオレ様の思い通りと考えているから、情報隠しも、ウソがバレても平気の平左。憲政史上、最悪の悪辣さです」
18日のTBS系「時事放談」で、片山善博元総務相は今回のデータ問題について「今の政権は結論先にありきで数の論理に走る。その結論に都合のいい資料や情報だけを提示して、都合の悪いものは出さない傾向がある。役所の方も政権に都合のいい情報だけをあげている傾向が見える。そういうことが凝縮された例では」と言っていたが、その通りだろう。
こうなったら、すべての野党は国会審議を拒否するべきだし、国民も本気で怒りの声を上げるべきだ。