NHKが、憲法9条の改憲問題について、老若男女14人が集まり、2日間にわたって真剣に議論し、模擬の国民投票まで行った「催し」をレポートしました。
「自衛隊を明記する」ことについても、簡単には護憲でまとまらない様子が分かります。
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憲法9条ガチで議論してみた 国民投票 あなたはどうしますか?
NHK NEWS WEB 2018年2月21日
戦争をせず、戦力を持たないことを定めた憲法9条。それを変えるかどうか、私たちが判断する時が来るかもしれません。今の国会でその改正議論が本格化する中、先週、東京都内で賛成、反対の立場の市民が集まり、いわばガチンコで議論しました。2日間に及んだ議論から見えたものはいったい何だったのでしょうか。(社会部記者 中島俊樹)
有権者も無関心ではいられない
2月15、16日の2日間、東京 永田町の参議院議員会館にインターネットなどの呼びかけで集まった男女14人。年齢は18歳から73歳。大学生、主婦、自営業などさまざまです。
議論のテーマはずばり憲法9条をどうするか。
2日間、合わせて6時間半にわたって議論し、最後に投票を行います。主催したのは、憲法や国民投票を研究する市民グループです。
中心メンバーのジャーナリスト今井一さんは、狙いについて、「本質的な議論がないままものすごいスピードで手続きが進み、投票日を迎えてしまうことが懸念されます。国民投票が行われるのなら、主権者がよく勉強し、よく話し合って選択するのが大切だと思います」と語りました。
9条 何が問題なの?
憲法9条をめぐる議論はおよそ70年前の制定直後から続いています。
そもそも9条の何が問題になっているのでしょうか。
(憲法9条)
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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多くの場面で問題になってきたのが2項の「戦力を保持しない」という規定です。政府が「必要最小限度の実力組織」と位置づける自衛隊が、憲法が否定する「戦力」に当たるのかどうか、長く論争が続いてきました。
国会議員も登場
参加者は議論に先立って、各党の国会議員から憲法と自衛隊のあり方について意見を聞きました。
自民党の衆議院議員、船田元さん。安倍総理大臣が提起した、9条の1項と2項を残しながら自衛隊を明記する案を主張しました。「自衛隊が憲法のどこにも出ていない状況を甘んじて見過ごすわけにはいきません。2項を外した方が整合性がとれると思いますが、2項を残した方が、国民の理解が得やすい」(船田衆議院議員)
立憲民主党の衆議院議員、山尾志桜里さん、自衛隊の明記には反対し、その活動や規模を制約するよう改憲すべきと提案しました。「自衛権を制約することを、国民の意思で明らかにすることが大切です。必要最小限の範囲で自衛権を行使するとはっきり書くことで、憲法解釈が壊されることを防ぐ」
共産党の参議院議員、山添拓さん。9条を変えてはいけないと訴えました。「9条の平和主義は理想で、現実とは距離があります。だからといって現実に合わせて憲法を変えるのでしょうか。戦争できる国づくりは許せません」(山添参議院議員)
自衛隊 憲法に書くべき?
議論が始まると、自衛隊の明記についてさまざまな意見が飛び交いました。
18歳の男子学生。安倍総理大臣が提起した9条の1項2項を残して自衛隊を明記する考えに賛成すると発言しました。
「自衛隊が戦力かどうかとか、いろいろ解釈でもめるのは本当に“うざい”。ちゃんと自衛隊はこうだよと書きたい」
この主張に対し、20歳の女子学生から反対の声が上がります。「うざいからとおっしゃっていますけど、皆さんも将来的に、戦争に行かなければならなくなるかもしれません。そういう状況に近づけていると思いませんか?」
その言葉にしばらく首をひねった男子学生。こんな言葉を返しました。
「たぶん、その通りだと思う…。でも戦争に行かせようとしてるかどうかは分からない」
人の命に関わる判断
白熱した初日の議論。参加者はあす9条改正の賛否について立場を決めて投票しなければなりません。
「まだ判断できない」とつぶやいた49歳の女性が初日の議論を終えて語った言葉が印象的でした。
「戦争になった時に何が起きるかを具体的にイメージできません。戦争になれば実際に殺す人がいて、殺される人がいるかもしれません。それを受け止めるだけの覚悟が自分にあるかどうか…。あと1日考えて見たい」
一方、当初は自衛隊を明記することに賛成だった18歳の男子学生は「まだ判断できない」と、立場を変えました。その理由については「もともと、9条についての知識がないまま来ていたので、この場に来ている人たちの意見を客観的に聞いて、後で決めたいと思います」と述べました。
2日間、合わせて6時間半に及んだ議論を終え、参加者は投票に臨みました。
投票で震えた手
「自衛隊を明記すべき」かどうかで揺れていた18歳の男子学生。最終的に「明記すべき」と書いて投票しました。
私が驚いたのが彼が投票用紙を持つ手が震えていたことです。
「自信がなかったからだと思います」
その理由をこう素直に打ち明けてくれた学生。
そしてこう続けました。
「本当の国民投票がくる前に最低限の知識は身につけたい。結果がどうなっても、自分はこれに投票したと自信を持って言えるようになりたいです」
判断に迷っていた49歳の女性は9条を維持する選択をしました。「憲法は国民が国に求めるルールだと思う。自分だけではなく、若い世代や、これから生まれてくる人をイメージして、今の有権者としての責任を果たしたいと思った。本当に国民投票があるとしたら真剣に考えないと怖いですね」
議論の先に見えたのは
取材をした14人が最後にそろって語ったのは、「今回が模擬投票でよかった」、という言葉でした。
国民投票は自分たちの代表となる議員を選ぶ選挙と違い、国の未来を左右する判断に有権者が直接関わることになります。その1票を投じる責任の重さをみんなが理解したのだと感じました。
もし国会で憲法改正の発議がされれば、国民投票はその2か月後から半年後の間に行われることになります。
国民投票に備えるには、憲法についての立場や主張の違いを超えた幅広い議論が必要だと今回の取材で実感しました。
私たちもその議論に役立つ情報を有権者にしっかりと届けたいと思います。