4日付の赤旗日曜版に、憲法学者の小林節・慶大名誉教授による、安倍政権の「9条加憲」戦術を批判する記事が載りました。
一つは、「9条の1項(戦争放棄)、2項(戦力不保持)は『そのまま』で、3項に『自衛隊』を書き込むだけだ」という言い分はウソであり、ローマ法以来の原則である「新法は旧法を改廃する」によって、「改憲された9条は、1項、2項ではなく、3項を基準に解釈すべきものとなる」ということです。それによって自衛隊は直ちに海外で武力行使できる「軍隊」に変わるということで、このトリックを多くの国民が知ることが大事だという点です。
もう一つは、憲法に明記されている国の機関は、衆院、参院、内閣、最高裁判所、会計検査院だけで、警察庁も海上保安庁も消防庁も書かれていません(「行政権」として書かれているだけ)。そんな中で憲法9条に「自衛隊」を書き込む必要などはなく、それを書き込もうというのは極めて不自然なことです。敢えてそれをすれば特別待遇の「天下の国軍」になり、文字通り海外で武力行使ができる国になるという点です。
小林教授は講演の名手として知られていますが、非常に分かりやすく説得力のある説明です。後半では野党共闘のあり方に話が及んでいます。
以下に紹介します。
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安倍9条改憲 野党共闘をどうみるか
しんぶん赤旗 日曜版 2018年2月4日号
安倍9条改憲、野党共闘をどうみるか。憲法学者の小林節さんに話を聞きました。(田中倫夫記者)
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安倍改憲を問う
加憲で2項“死ぬ”トリック見破ろう
小林節・慶応大学名誉教授(憲法学)小林節さん
私は共産党のみなさんとは立場が違い、現憲法でも自衛隊は認められていると思っています。その私も、安倍(晋三)首相の9条改憲には大反対です。日本が、海外で戦争できる国になるからです。
首相は、9条の1項(戦争放棄)、2項(戦力不保持)は「そのまま」で3項に「自衛隊」を書き込むだけだといいます。ウソです。
首相が書き込もうとしているのは、災害救助で評価されている自衛隊ではない。憲法違反として歴代政権が認めてこなかった集団的自衛権の行使を容認した「閣議決定」と、それに基づく「戦争法」を実行する「自衛隊」です。海外で武力行使ができる事実上の「軍」なのです。
ローマ法以来の法格言は「新法は旧法を改廃する」です。つまり改憲された9条は、1項、2項ではなく、3項を基準に解釈すべきものとなる。変わらないどころか憲法は大きく変えられます。このトリックを多くの国民に伝えることが大事です。立場の違いを超え、安倍9条改憲阻止で力を合わせましょう。
憲法には警察も海保もない
自衛隊だけ書きこんだら「天下の国軍」になりますよ
自民党は改憲に向け、「参院選合区解消」や「教育充実」など四つを検討項目として示しましたが、9条改憲以外はアドバルーンです。
なぜなら自民党にとっての改憲の一丁目一番地は9条2項の削除だからです。2項は「戦力は持てない」「交戦権は行使できない」としています。つまり海外で武力行使はできないというのが2項です。自民党はこの2項を削除することで、自衛隊を海外で武力行使できる「軍隊」にしようとしています。
2項を削除すると、自衛隊はアメリカの「2軍」として活動することになります。「イスラム過激派」など日本にとっては縁もゆかりもない人々を敵に回してたたかい、そのための兵器を大量に買わされることになる。まったく愚かなことです。
しかし2項を削除する改憲は国民の評判が良くない。そこで安倍(晋三)首相が考えたのが、現行の1項2項はそのままで、新3項に「自衛隊」を明記するという昨年5月の提案です。「1項2項はそのまま」という首相のウソ、トリックを見抜かないとだめです。
ローマ以来の法の常識
日本共産党も指摘していますが、「新法は旧法を改廃する」はローマ法以来の法の常識です。
改憲でできた新9条は、新3項に書かれた、海外での武力行使が可能な「自衛隊」を基準に解釈されます。そうすれば、新3項と矛盾する1項、2項は″死ぬ″ことになります。
実は憲法に明記されている国の機関は、衆院、参院、内閣、最高裁判所、会計検査院だけです。都道府県だって「地方公共団体」としか書かれていない。警察庁も海上保安庁も、消防庁も書かれていない。「行政権」として書かれているだけです。
そのような中で憲法9条に「自衛隊」を書き込んだらどうなるのか。「天下の国軍」になりますよ。文字通り海外で武力行使ができる国になるのです。
9条改憲以外の改憲項目はナンセンスです。 教育の無償化は法律と予算で決めればいいだけの話。このことを提案している大阪維新の会を改憲に引っ張り込むためのリップサービスです。
「緊急事態条項」についていうと、今でも「災害対策基本法」では、非常事態だと「公共の福祉」のためには、みなさんに我慢を求めることができます。新たに[緊急事態条項」で、首相に立法権、財政権まで集中しなければならない非常事態とは何か。わが国から他国に戦争を仕掛けるときぐらいでしょう。
大規模災害時に国政選挙ができない場合の国会議員の任期延長も必要ない。参院の半分はどんな場合でも3年間は任期が残っている。参院で緊急集会をすればいいだけの話です。
参院の合区解消などというのは一部の地域の話です。二票の「格差是正」で県が合区されたことは、改憲の理由にはなりません。
律義に筋を通している
共産党抜きの野党共闘などありえない
昨年秋の総選挙で共産党は後退したかのようにみえます。しかしこれは跳び上がる前にしゃがんでいる状態です。律義に筋を通していることで今、共産党には国民の支持が集まりつつあります。野党は、共産党抜きの野党共闘などありえないことを大きな共通認識にすべきです。
先日、共産党以外の野党国会議員が集まる会合がありました。会合で私は「野党共闘しないと来年の参院選は勝てない。どうして共産党を排除するのですか」と質問しました。だれもまともに答えられませんでした。共産党抜きの野党共闘など自民・公明にたいして決定的に弱いことは明らかです。
定数1の選挙区では、自民・公明が連携している以上、野党も一本化しないと勝ち目がない。一本化すると「安倍一強」など吹き飛びます。
野党は大筋の政策合意をする。比例票をもとに小選挙区や1人区の候補者を案分して、相互支援、相互協力を徹底して選挙をするべきです。共産党が出ることが決まったら、その選挙区ではちゃんと全野党が推す。街頭でも全野党が手をつないで訴えるべきです。
共産党が過去2回の国政選挙のように、一方的に候補者を降ろさないことが大事です。ギプ・アンドこアークの原則で話し合い、各野党がすべて前進するようにすることです。
安倍9条改憲阻止は歴史的なたたかいです。改憲されると、憲法が権力を縛るという立憲主義を理解していない人たちに国が乗っ取られてしまいます。市民と野党が力を合わせ、9条改悪を阻止しましょう。