NHKは、北朝鮮の微笑外交を「米韓同盟の分断を図る狙いがあるのは間違いありません」と断定しました。日本の政府もメディアも何故か南北朝鮮の融和に批判的ですが、勿論誤っています。
二つのブログ紹介します。
一つは植草一秀氏のブログで、「東アジアでの拠点と利権を死守するため南北の融和を阻止しようとしている米国に、日本政府は単純に追随している」と述べています。
そして安倍首相が「米韓合同軍事演習を延期すべきではない」と文大統領に申し入れ、文大統領に「それは自分たちの主権、内政に関連した問題だ」と不快感を示されたことは赤恥もので、インド、パキスタン、イスラエルの核保有に何の抗議もしていない日本に北朝鮮の核保有を非難する資格はないとしています。
もう一つは「世に倦む日々」氏のブログで、南北統一を望んだ盧武鉉元大統領の側近であった文大統領が、核・ミサイル問題で米朝の対立が極限まで緊迫し、国連安保理で北朝鮮が孤立無援になったこの時期に、北の金与正氏との間であっと言う間に雪解けを起こし、盧武鉉時代の頃の関係までに引き戻した文在寅の勇気は素晴らしく、胆力のある政治家だとしています。
それに対して韓国のマスコミは、盧武鉉時代の末期から日本同様にメディアが親米化し、CIAの工作に取り込まれ、政府が少しでも米国の意向に逆らう政策姿勢を示すと、それを徹底的に叩いて支持率を落とすようになったと指摘しつつ、日本のメディアが、この南北融和を繰り返し五輪の「政治利用」だと誹謗中傷を続けていることに対して、「不当な政治利用」かどうかはIOCが判断(バッハ会長は是認)することで、誹謗中傷する日本の言論こそが不当な政治行為であって、IOCが進める「平和の祭典」の精神を否定する態度であると述べています。
因みにかねてから「平昌五輪が朝鮮半島の明るい未来への扉を開くことを願う」と語っているIOCのバッハ会長は12日、北朝鮮への訪問を検討していると明らかにしました。
お知らせ
都合により14日は、記事の更新が午後になります。ご了承ください。
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平昌五輪 南北融和進展で 安倍赤恥外交の孤立
植草一秀の「知られざる真実」 2018年2月12日
韓国の平昌で開幕した冬季五輪・パラリンピック。
安倍首相が開会式に出席したが、開会式の主役の座は北朝鮮・朝鮮労働党第1副部長の金与正氏に完全に奪われた。
金与正氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の実妹で北朝鮮の実質ナンバー2の地位にある者と見られている。金与正氏は金正恩委員長の特使として韓国の平昌五輪の開会式に合わせて訪韓した。北朝鮮の金一族直系の人物が韓国に入るのは初めてのことである。
金与正氏は韓国の文在寅大統領と会談し、文在寅大統領の北朝鮮訪問を正式に招請した。
文在寅大統領と金与正氏は2月11日夜に、五輪に合わせて訪韓した北朝鮮の三池淵管弦楽団によるソウルでの公演で、席を隣り合わせにして観覧した。
文大統領は与正氏などの北朝鮮側特使に対話・交流の継続と拡大を求め「心を合わせ、難関を突破しよう」と話した。
五輪開催を契機に南北の対話、融和の端緒が開かれることは意義のあることである。
一連の対話が北朝鮮主導で進展していることを批判する主張があるが、東西の対立によって分断された朝鮮半島の人々が平和の確立と国家の統一を求めていることは間違いない。
現在の基本図式は、融和を進展させようとする北朝鮮および韓国の意向に対して、東アジアでの拠点と利権を死守しようとする米国が、南北の融和を阻止するとともに、東アジアの軍事的緊張を人為的に高めようとしているというものである。
日本は東アジアの一国として、この地域の平和と安定を第一に位置付け、対話による問題の平和解決を目指すべき立場にあるが、日本独自の外交路線を確立できずに、単純に米国に隷従する姿勢を示している。
11月9日に実施された日韓首脳会談で、安倍首相は平昌冬季五輪・パラリンピック期間中は延期となった米韓合同軍事演習の五輪期間後の対応について、「演習を(さらに)延期する段階ではない。予定通り実施することが重要だ」と主張した。
これに対して、韓国の文在寅大統領は、
「(安倍)首相の話は、北朝鮮の非核化で進展があるまで演習を延期してはならない、という意味だと理解する」としたうえで、「これはわれわれの主権、内政に関連した問題だ。首相が直接取り上げるのは困る」と述べた。安倍首相は文在寅大統領に「内政干渉をするな」と釘を刺された。
韓国が軍事演習をするのかどうかは韓国の問題であって、韓国が決めることだ。
文大統領の「内政干渉である」との発言は毅然としたものであり、正当なものである。
このような内政干渉の発言を平然とする安倍首相の姿勢は「恥ずかしい外交」と言わざるを得ない。
今後の進展がどうなるのか未知の部分は多いが、南北が対話を進展させて、融和を深めることは建設的なことである。
安倍首相は北朝鮮の核武装を問題視しているが、第2次大戦後の核保有のあり方についての考察が必要不可欠なのであり、北朝鮮がなぜ核武装に突き進むのかの原因に踏み込んで考察しなければ、本当の問題解決にはなり得ない。
戦後の核保有体制は、戦勝5大国が核兵器を独占保有するというものである。これが「核拡散防止条約=NPT」の体制である。
これに対して、戦勝5大国も含めて、すべての核兵器保有を禁止するとの立場をかたちにしたものが「核兵器禁止条約」の体制である。
日本は国連が決議して制定した「核兵器禁止条約」に参加せず、背を向けている。
重大な問題は、NPTの体制が、戦勝5大国だけが核兵器を保有するという体制を敷きながら、現実には、5大国以外に核保有国が存在することである。インド、パキスタン、イスラエルが核保有国であると見られている。
日本が北朝鮮による核保有を許さないとの主張を示しているときに、同時に、インド、パキスタン、イスラエルの核保有を非難し、「圧力」をかけているなら、一つの筋は通っているということになる。ところが、安倍政権はインドの核保有を非難しているのか。イスラエルの核保有疑惑を追及し、核保有を非難しているのか。
この点が何よりも重要な部分なのだ。
北朝鮮の核武装を排除するべきと考えるのは順当だが、北朝鮮がなぜ核武装に突き進むのか、その理由を考察しなければ、現実的な平和解決の道は閉ざされてしまうことになる。
(以下は有料ブログのため非公開)
不当な政治利用かどうかはIOCが判断することだ
- 血は水よりも濃い
世に倦む日々 2018年2月12日
血は水よりも濃い。北朝鮮が遮断していた板門店の南北直通電話の回線が再開され、連絡が繋がったという報道があったのが1月3日だった。古いWindows XP の画面の上に電話のアイコンが表示され、韓国側の担当者がPCの画面を見ながら受話器を握っていた。そこからわずか1か月。あっと言う間に準南北首脳会談がソウルで実現する運びとなった。北朝鮮は、最高会議委員長(国家元首)の金永南と金正恩の実妹で特使の金与正を代表団として五輪開会式に派遣、翌日、青瓦台で3時間にわたる会談が和気藹々とした雰囲気の中で行われた。2泊3日の代表団の滞在中、文在寅夫妻はつきっきりの対応に努め、9日の各国首脳レセプションと五輪開会式、10日の大統領府での会談と昼食会、さらに江陵での晩餐会と女子アイスホッケーの試合観戦、11日の三池淵管弦楽団のソウル公演の観覧と、ずっと一行に密着してもてなし続けている。幾度も金与正と文在寅の映像がテレビで流れ、平昌五輪のニュースは金与正を主役にした南北融和の外交の時々刻々で一色となった。全く予想していなかった事態だ。最初に板門店の38度線が北側から踏み越えられ、「青筋」の異名をとる李善権が「平和の家」に入ったのが1月9日である。
そこから2週間後の1月21日、モランボン楽団団長の玄松月が陸路、軍事境界線をバスで超えて入って韓国内を視察、2月6日に三池淵管弦楽団の一行が海路、さらに万景峰号で江原道の墨湖港に入港、最後に2月8日に金与正らの代表団が「大鷹」機に乗って空路から仁川空港に降り立った。陸、海、空と、3本のルートでの往復を計画的かつ演出的に着々とやっている。このスピード感には驚かされる。血は水よりも濃い。一瞬で途絶えていたすべてのパイプが復活し、事務が遺漏なく動き、準備が整えられ、平昌五輪を舞台にした南北融和のドラマが演じられた。世界中に配信されて注目を集めた。ドラマの主人公となったのは王女の金与正。保守政権の間の10年、南北の交流は閉ざされ、特に延坪島砲撃事件後は厳しい緊張と対立が続いていたはずなのに、本当にあっと言う間に国家トップ間で雪解けを生じさせ、盧武鉉時代の頃の関係までに引き戻してしまった。しかも、核ミサイル問題で米朝の対立が極限まで緊迫し、国連安保理で北朝鮮が締め上げられて孤立無援になった時期にである。文在寅の胆力と技量に感心させられた。よく一瞬の機会を捉え、電光石火の早業で南北融和の政治をキャリーしたものだ。南北統一を願い、関係改善を果たそうと心に秘めつつ、雌伏してきた盧武鉉直系の執念が爆発している。
信じられないようなラディカルなテンポで、あれよあれよと南北の融和外交が進展した。これが民族のマジックの為せる業であり、政治のリーダーシップの姿と呼ぶべきものだろう。韓国国内のマスコミで、この文在寅政権の南北融和に好意的な記事を書いているのは、基本的にハンギョレだけだ。盧武鉉時代の末期から、韓国も日本と同じようにマスコミが親米化の傾向を露わにし、ハンドラーズ(CIA)の工作に取り込まれ、政府が少しでも米国の意向に逆らう政策姿勢を示すと、それを徹底的に叩いて支持率を落とすようになった。朝鮮日報も東亜日報も中央日報も、米韓同盟を絶対視する米国の手先の言論機関に成り果て、日本のマスコミと同じように大衆を属米盲従方向に洗脳するようになった。だから、今回の文在寅の勇気は素晴らしいもので、胆力ある政治だと大いに評価できる。ここまで大胆にやるとは思わなかった。国民を引っ張ろうとしている。米国の圧力とマスコミのネガティブな論調の中で、太陽政策の方向へ、金大中と盧武鉉の方向へ国民を牽引しようとしている。信念を貫いている。盧武鉉の魂が文在寅の中で生きていることが窺える。南北合同チームが入場する開会式を見て感激した国民は、民族の自覚と昂奮を新たにし、分断国家の悲劇と国民の使命を思い返し、指導者に頷いて南北融和政策を支持することと信じたい。
金与正が手渡した親書の内容は詳細が伝わっていない。日本の報道では、
(1)食糧人道支援、
(2)経済制裁の緩和、
(3)米韓合同演習の延期さらには中止、
が要請されているのではないかと観測されている。韓国政府が(1)(2)(3)に踏み切れば、現在の北朝鮮包囲網は崩れ、国連安保理で決議されて実行中の強力な制裁も穴があいて有名無実の方向に向かう。文在寅は状況を見て慎重にハンドリングしながら(1)(2)(3)の方向に寄せ、北朝鮮に核放棄を求め、米国に北朝鮮との対話を促すだろう。米朝の間に割り込もうとするだろう。この方向性は、中国とロシアが支持し、EUも支持するもので、北朝鮮が核ミサイルの挑発を封印して南北対話の外交に活路を見出そうとするのなら、中国・ロシア・EUは(1)(2)(3)を容認するに違いない。私が北朝鮮指導部なら、平昌五輪の閉会式に再び金与正を訪韓させ、韓国マスコミを集めてプレスブリーフィングを開催、民族の正装である白いチマチョゴリ姿で登壇させる。その戦略を布石し、サプライズを演出して韓国の老若男女の歓心を掴み、再び世界から脚光を浴びる。そして、3月1日に計画した共同イベントの中身を発表する。文在寅の訪朝は、何より韓国国民の世論が支持しなくてはならない。文政権への批判と牽制を生理とする韓国マスコミを押さえるためには、世論調査で高い支持率を得ることが必要だ。
そのことは、南北統一の民族の悲願を訴えてテハンサラム(大韓民族)の覚醒を導くことで、また、なお俗化されない北朝鮮に残影が残るところの、古き良き文化的伝統への郷愁へ国民の感情を誘うことで達成される。金与正の風貌と仕草が感じさせるのは、両班の高貴な家柄の娘が漂わせたであろう気品と高慢で、すなわち、われわれに失われた世界への想像力を掻き立てさせるものだ。今の韓国の女性たちは、どれもこれも同じ整形仕様とメイクに加工されていて、同じ顔がマスプロダクションされて都会の空間とテレビの画面を埋めている。それは現代韓国の美意識がセレクトした標準イメージだが、昔の朝鮮美人のルックスとは類型が異なるものだ。したがって、長い歴史を持ち、伝統への愛着が人一倍強い国民性ながら、同時にめまぐるしく変化する社会環境に適応してストレスフルに生きている韓国人は、色白でプレーンな金与正の容貌とナチュラルな髪型を見たとき、癒しと郷愁を感じ、民族のアイデンティティ(同一性)を意識する経路に自然に導かれる。北朝鮮の政治の目的と論理からすれば、金与正の魅力は、韓国をドライブする上で最も効果的な切り札だと言えよう。キーワードは民族。北朝鮮からすれば、4月に米韓軍事演習が始まる前に、民族の外交攻勢で韓国社会をもう一押しして成果を得たいだろう。
日本のマスコミは、この平昌五輪に合わせての南北融和に対して、繰り返し「政治利用」のレッテルを貼って誹謗中傷を続けている。11日に放送された関口宏のサンデーモーニングもそうだった。平昌五輪に北朝鮮の選手と応援団と代表団を呼び、南北合同で入場行進し、代表団を開会式に招いて握手し、南北融和の会談や行事を行うことは、関口宏の視線からは「五輪の不当な政治利用」なのだそうだ。ならば問いたい。日本のマスコミが「不当な政治利用」という場に、常にIOC会長のバッハが同席し、率先してエンドース(裏書保証)している図をどう説明するのか。南北の合同入場も統一旗も、すべてローザンヌでバッハが積極的に認めて後押しした決定だった。1月20日にバッハはこう言っている。「五輪の精神は敬意や理解だ。平昌冬季五輪が朝鮮半島の明るい未来の扉となることを願う」。このバッハの意思の下で文在寅と北朝鮮は南北融和の五輪外交を進めた。バッハの姿勢は開会式のスピーチでも明確に現れていて、「(五輪の)団結力の素晴らしい例が、韓国と北朝鮮による合同入場だ。彼らに感謝したい」と褒め称えている。そして、文在寅と金与正が観戦した女子アイスホッケーの試合に自ら同席し、南北の仲介者たる存在感を世界に発信していた。IOCが韓国と北朝鮮の融和を支援している。
その事実がどうして「政治利用」として非難されるのか。そもそも、それが「不当な政治利用」かどうかは、IOCが判断することではないか。ジャッジする権限を持つ立場はIOC会長のバッハである。つまり、韓国と北朝鮮が五輪の場で融和外交するのが不当なのではなく、それを誹謗中傷する日本の言論こそが不当な政治行為なのであって、IOCが進める「平和の祭典」の精神を否定する態度に他ならないのだ。