2018年2月12日月曜日

「核の傘」論の批判的再検討 ICAN 川崎哲氏

 トランプ米政権が2日に発表した核戦略の中期指針「核体制の見直し」(NPR)は、小型核兵器の開発を進め、通常兵器で攻撃された場合でも核兵器で反撃することや、先制核攻撃自体も排除しないとする驚くべきものです。
 ところがそれに対して河野外相は3日午前に早々と「わが国は厳しい安全保障認識を共有するとともに、高く評価する」というこれまた驚くべき談話を発表しました。自民党のアメリカ追随にはもう全く驚きませんが、唯一の戦争被爆国である日本がアメリカの先制核攻撃を含む方針に全面的に賛成するとは・・・そこまで落ちたのかという感じがします。

 日本はこれまで毎年の国連での核兵器禁止決議などでは常にアメリカと同一行動をとって不賛成・棄権の立場を貫き、そのあとで申し訳のように「核兵器廃絶決議案」を提案してきました。その流れから昨年は「核兵器禁止条約」にも「不参加」を決めました。その後に提出した「核兵器廃絶決議案」では、さすがに賛成国の数が大幅に減ったのは当然のことでした。 
 そうした行動が、常に「日本はアメリカの核の傘の下にある」からということを口実にしてきたのはご承知の通りです。

 7参院国際経済・外交に関する調査会に招聘されたICANの川崎 (あきら)氏は、米国の「核抑止力」を根幹とする安全保障政策を再検討するよう日本政府に求めるとともに、核兵器禁止条約への参加の条件や影響を調査する委員会の設置を行うべきと提言しました

 日本は「核の傘」の下にあることを「錦の御旗」にして全ての核禁止行動から逃げていますが、それは何も政治家だけがそうであるということではなくて、数十年来外務省などの官僚たちが強硬に主張し続けていることです。川崎哲氏が昨年の「核兵器禁止条約」への勧誘活動で大いに悩まされたのはそのことでした。

 その後、調査会における発言の原稿の全文(約6900語)がインターネットに掲載されました。

 紙面の関係で、核抑止力=核の傘論 に関する部分を抜粋して紹介します。
 極めて緻密に考察されていて、目からうろこが落ちる思いがします。
 全文(原文)にアクセスするには、上記のURLをクリックしてください。
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核兵器禁止条約と日本の役割 核抑止力=核の傘論に関する部分を抜粋 事務局)
201827 川崎 
(前 略)
 これらを踏まえ、日本がこれから具体的に検討し行動すべき点について、いくつかの提案を行いたいと思います。次のページをご覧ください。

 第一に、核抑止力を批判的に再検討することです。日本は、国家安全保障戦略により「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠」としています。しかし一方で、核兵器の使用は「国際法の基盤となる人道主義の精神に反する」という政府見解を維持しており、近年の核兵器の非人道性に関する共同声明や国際会議にも参加しています。すなわち日本は、核兵器という非人道的な手段によって国家の安全を保障するという政策をとっているといえます。日本のこのような政策が現状のままでよいのか、変更や制限を加える必要がないかということが議論されるべきです。
 論点として、核抑止力に依存することの道徳性、有効性、必要性、そして核抑止が破れた場合の対応が挙げられます。

 まず道徳性についてです。核抑止政策は、核兵器の使用を前提とした政策です。核兵器の非人道性に対する国際的認識がここまで高まった今日、唯一の戦争被爆国である日本が、核兵器の使用は正当な防衛手段であるとのメッセージを発し続けることがいかなる意味を持つのか。日本の道義的立場との関係で、その是非が問われなければなりません

 次に有効性についてです。核兵器は大国間の戦争を抑止してきたといわれますが、実際には核戦争の引き金が引かれる寸前までいった事例は数多くあります。抑止のバランスはきわめて脆弱なもので、人類は幸運に支えられてきたにすぎません。さらに歴史上、核保有国や同盟国に対して戦争がしかけられた例も数多くあります。また、米国の強大な核兵器は、北朝鮮が核兵器を開発することを抑止しませんでしたし、911テロも抑止しませんでした。自爆をおそれない勢力は、核兵器にはまったく抑止されません。

 さらに必要性についてです。日本が核抑止力を必要とする根拠として、よく北朝鮮の核の脅威が挙げられます。しかし、北朝鮮の脅威が核以外の通常戦力で抑止できないという合理的な根拠が十分に示されているとはいえません。政府は核による抑止力が「必要不可欠」であると述べていますが、その根拠は何でしょうか

 そして万が一核抑止が破綻し、核兵器が使われた場合、何が起きるかについても現実的に検討しなければなりません。甚大な破壊と放射能汚染により人道上の救援も不可能であることは、広島・長崎の惨害の記憶からも、また今日の科学的研究成果からも明らかです。核戦争が地球規模の気候変動と飢饉、通信網の破壊と世界経済の破綻をもたらすとの報告もあります。偶発的な核使用や核兵器に関わる事故、テロやハッキングなどにより、意図せず核爆発が起きるリスクも現実のものです。こうした事態に対する責任の所在も明らかにされていません

 これら批判的な観点を踏まえ、今日の安全保障にとって核兵器が果たす役割を再検討する必要があります。検討の結果、核兵器の必要性を今すぐに完全否定できないという結論が出たとしても、核兵器の先制不使用など、一定の制限をかける措置は可能なはずです。ところが米国は、先の「核態勢見直し(NPR)」で核兵器の役割をむしろ拡大する路線を打ち出しています。通常兵器やサイバー攻撃にも核で反撃するといった内容が含まれており、これは核のリスクをいたずらに高めるものです。日本は本来、こうした動きに警告を発しなければなりません。

 政府は、核兵器禁止条約は核抑止力の正当性を否定するものだから参加できないと言います。確かにこの条約は、核兵器を非正当化するために作られたものといえます。しかし日本がこれに対する反動として核兵器の正当性を発信するというような態度をとることは、唯一の戦争被爆国の外交姿勢として大いに疑問です。
(後 略)