2018年2月11日日曜日

9条改憲 急ぐ首相の論理は矛盾だらけだ

 首相が憲法改正を叫びまわる・・・これほど憲法(99条)を無視した話もありません。最初の頃こそ首相と党総裁の立場を使い分けようとしていましたが、いまではなりふり構わずに言い続けています。
 しかし「普通の軍隊を持ちたい」という本心を隠して国民を謀ろうとするものなので、その言い分は滅茶苦茶で突っ込みどころが満載となります。

 愛媛新聞が「9条改憲急ぐ首相の論理は矛盾だらけ」とする、また東京新聞が「9条改正論議 切迫性欠く自衛隊明記」とする社説を載せました。

 曰く
9条2項を維持した上で、自衛隊の存在を明記しても自衛隊の任務や権限に変更が生じることはないというのが正しければ、憲法を変える理由にならない。
自衛隊を明記すれば9条は空文化しかねない。加える条文次第でどのようにでも自衛隊の役割を拡大でき、現段階で問題がないと言っても何の保証にもならない。
・首相は「命を賭して任務を遂行する者の正当性を明確化することは国の安全の根幹に関わる」と主張するが、それだけでは改正を要する十分な理由にはならない。
などです。

9条に自衛隊を書き込んでも何も変わらない」ということに対しては、希望の党さえもが、「そうであれば立法事実(理由)がない。立法事実がない改正はありえず、安倍首相の言う9条改正には反対だ」と述べています

 首相は勿体ぶって、自衛隊を憲法に明記する必要性について、「命を賭して任務を遂行する者の正当性を明確化することは国の安全の根幹に関わる」と説明していますが、それは愚かな主張であって、「世に倦む日々」氏は、憲法に明記されている国の機関は、衆院、参院、内閣、最高裁判所、会計検査院だけで、消防や警察は別に載っていないことを前提に、次のように批判しています。
自衛隊員は命を賭けて国民を守っているから・・・云々も愚かな詭弁であって、それなら消防隊員や警察官も全く同じ立場なので、特別職の国家公務員の集団である自衛隊を憲法に明記する必要があると言うのなら、消防隊員や警察官のためにも特別に条文を書き込む必要がある」

 同じことは憲法学者の小林節氏も述べています。要するに主要な機関以外は、憲法ではなく法律に謳えばことが済むというわけです。
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社説9条改憲 急ぐ首相の論理は矛盾だらけだ
愛媛新聞 2018年2月10日
 根拠も必要性も不明瞭な、矛盾だらけの改憲論議を、強く危惧する。

 年始会見で9条改憲発議の早期実現に意欲を示した安倍晋三首相が、議論の加速に向け、国会で積極発言している。これまで首相と自民党総裁の二つの顔を使い分け、追及をはぐらかしてきたが、戦術を一変。戦力不保持と交戦権否認を定めた9条2項を維持した上で、新たに自衛隊の存在を明記するとの持論を展開、議論を深めるのは「義務」だと強い表現で与野党に協議を迫った。党の憲法改正推進本部は首相(党総裁)案での意見集約へ議論を開始。来月の党大会で改憲案を公表するという急ぎぶりだ。
 憲法99条は首相を含めた国会議員の憲法尊重、擁護義務を定めており、国会に対して改憲議論を義務だと迫ることには違和感が募る。さらになぜ今改憲が必要なのか、何を変えたいのかという必然性も見えてこない。

 首相の説明は矛盾だらけで、理解に苦しむ。「2項維持」案は、戦力不保持と自衛隊の存在との整合性が取れない。「自衛隊の任務や権限に変更が生じることはない」と首相は強調するが、仮に発言通りなら、法を変える理由にならない
 明記する以上、位置づけは変わるはずだが、説明を避ける姿勢を憂慮する。実際に自衛隊を明記すれば9条は空文化しかねない。加える条文次第でどのようにでも自衛隊の役割を拡大でき、現段階で問題がないと言っても何の保証にもならない

 しかも今後、国民投票で否決されれば、自衛隊自体の合憲性が揺らぎ、混乱を招く。にもかかわらず首相は「合憲であることは変わらない」と主張する。どうであれ合憲と言うなら改憲の必要はない。その場しのぎの説明を聞いていると、改憲自体が目的化しているように映る。

 自民党内では、石破茂元幹事長を軸に、2項を削除して自衛隊を「国防軍」にする2012年の党草案を推す議員も多い。平和を根底から覆すこの案に国民の反発は必至だ。改憲を急ぐ首相が石破氏をけん制する裏には、公明党と国民の賛成を取り付けやすくする狙いが透ける。

「改憲は、結党以来の党是」「いよいよ実現の時」。首相はそう繰り返す。しかし、自由党と民主党が合併して結党した当時の事情を知る河野洋平元衆院議長は、両党の自主憲法に対する意見は合わず、政策綱領など主要文書では触れなかったと反論。その後「タカ派でも国民の思いをすくい自制してきた」と言う。「9条改憲を求める国民の声は聞こえてこない。憲法は権力者の権力行使に制限を付ける意味を持つ。権力の頂点から改憲の号令がかかるのはおかしい」。「身内」である河野氏の指摘を重く受け止めるべきだ。

「命を賭す」自衛隊の正当性を示すため改憲すると強調する首相。命を懸けさせるのを前提にせず、そうさせないよう平和を築くのが政治の役目である。


【社説】 9条改正論議 切迫性欠く自衛隊明記
東京新聞 2018年2月10日
 なぜ憲法九条改正が必要なのか、その切迫性は、やはり感じられない。それでも強引に改正しようとするのなら、内容ではなく、改正の実績づくりを優先した「改憲ありき」と批判されて当然だ。

 憲法改正を「党是」としてきた自民党の近年の議論を振り返る。
 野党当時の二〇一二年、現行憲法を全面改正する改憲草案を発表し、九条に関しては戦力不保持の二項を削除し、国防軍の保持を明記した。政権復帰を目指して支持層固めを意識した内容だ。

 政権復帰後の安倍晋三首相は昨年五月、一項の戦争放棄と二項を残しつつ、自衛隊の存在を明記する案を提唱。東京五輪が行われる二〇年を「新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。
 党憲法改正推進本部は首相の意向を受け、衆参両院の憲法審査会に提示する党の改憲案を、三月二十五日の党大会までに取りまとめるよう議論を進めている。
 石破茂元幹事長らは改憲草案通りの二項削除を主張しているが、二項を維持して自衛隊の存在を明記する首相案が優勢だという。

 国会議員は憲法について大いに議論すべきではあるが、九条を改正しなければならない切迫した事情がどこにあるのか。
 首相は「命を賭して任務を遂行する者の正当性を明確化することは国の安全の根幹に関わる」と主張するが、それだけでは改正を要する十分な理由にはなるまい

 歴代内閣は自衛隊を合憲とし、安倍内閣でも変わらない。「直ちに憲法改正しないと日本の安全保障が成り立たないという状況ではない」(井上義久公明党幹事長)との主張には説得力がある。

 首相は、憲法に自衛隊の存在を明記しても「任務や権限に変更は生じない」と述べた。自衛隊を明記する改憲案が否決されても、合憲とする「政府の一貫した立場は変わらない」とも答弁している。
 自衛隊の存在を憲法に明記してもしなくても、明記した改憲案が国民投票で承認されてもされなくても何も変わらないのなら、改憲案を発議し、国民投票にかける意味がどこにあるのか

 憲法は主権者たる国民が権力を律するためにある。改正しなければ国民に著しい不利益が生じる恐れがあり、国民から改正を求める意見が湧き上がる状況なら、国会は堂々と改憲論議をすればよい。
 そうした状況でないにもかかわらず、権力の座にあるものが、やみくもに進めようとする改憲論議は、あまりにも空疎である