トランプ米政権が2日に発表した核戦略の中期指針「核体制の見直し」(NPR)は、相手国への核攻撃抑止や反撃に限らず、通常兵器で攻撃された場合でも核兵器で反撃することを排除しないだけでなく、先制核攻撃自体も排除しないとしています。
米国は既に戦闘機から投下できる小型核爆弾(広島型原爆の1/50)を開発済みですが、更に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に用いる小型核の開発に取り組むと共に、長期的には核を装備した海洋発射巡航ミサイル(SLCM)を開発するとしています。
その一方で、世界最大規模の核爆弾B83も退役(放棄)させないとしています。
要するに「柔軟な核オプション(選択肢)を拡大する」という言い分のもとに、今後は『好き勝手に核兵器を使う』ことを宣言したわけで、昨年国連で採択された「核兵器禁止条約(核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用及び威嚇としての使用の禁止ならびにその廃絶に関する条約)」の精神に真っ向から反するものです。
これは世界の理性に挑戦するものなのに、世界は何故沈黙しているのでしょうか。北朝鮮が、自国の防衛のために核開発を進めていることをあれだけ強烈に非難し、厳しい経済制裁を科している世界は、何故アメリカのやりたい放題の方については、非難し制止しようとしないのでしょうか。
世界の中で突出して北朝鮮の核開発を非難している日本も、なぜ米国のこの方針については非難しないのでしょうか。
追記)河野外相はさっそく3日午前、「今回発表された新たな核戦略は北朝鮮による核・ミサイル開発の進展など安全保障環境が急速に悪化していることを受け、アメリカによる抑止力の実効性の確保とわが国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメント・関与を明確にしており、わが国は厳しい安全保障認識を共有するとともに、高く評価する」という全面的賛成の談話を発表しました。
北朝鮮のすることはすべてダメで、米国のやることならなんでも良いというのでは、無原則もいいところです。これでは安倍政権が海外から信頼されることはあり得ません。
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米、核なき世界の理想放棄 トランプ政権指針 通常兵器に核で報復も
東京新聞 2018年2月3日
新核戦略指針のポイント
・核使用は、核以外の戦略的攻撃を受けた場合も含む
・先制不使用政策を否定
・世界は大国間の競争に回帰
・中国、ロシア、北朝鮮、イランの脅威指摘
・低爆発力の小型核導入
・海洋発射型の核巡航ミサイルを研究開発
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画像「新核戦略指針のポイント」 ⇒
【ワシントン=石川智規】トランプ米政権は二日、核戦略の中期指針「核体制の見直し」(NPR)を発表した。相手国の核攻撃抑止や反撃に限らず、通常兵器に対する反撃にも核兵器の使用を排除しない新方針を追加。爆発力を抑えた小型核弾頭などの新たな核兵器の開発にも道を開くなど、核兵器への依存拡大を鮮明にした。「核なき世界」を目指したオバマ前政権が二〇一〇年にまとめたNPRからの大きな方針転換となる。
新たなNPRでは、ロシアや中国の核戦力増強や、北朝鮮やイランの核開発などを踏まえ、「過去のいかなる時よりも多様で高度な核の脅威に直面している」と指摘。予測不能の脅威に対応するために「柔軟な核オプションを拡大する」として、米国が保有する核兵器の近代化や新たな核戦力の開発を宣言した。
具体的には、敵国の重要施設などへのピンポイント攻撃を想定し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に用いる小型核の開発に近く取り組むと明記。長期的には核を装備した海洋発射巡航ミサイル(SLCM)を開発する方針も示した。前政権のNPRでは新たな核弾頭の開発を否定していた。
核兵器の使用基準は「米国や同盟国の利益を守るための極限の状況に限る」との前政権を踏襲しながら、「極限の状況は米国や同盟国の国民、インフラ、核施設、警戒システムに対する重大な戦略的非核攻撃も含む」とも追記した。通常兵器での攻撃にも核兵器で報復する余地を持たせたほか、核兵器による先制攻撃をしない「先制不使用」を否定するなど、核兵器の役割を拡大した。
トランプ氏は声明で、「他の核保有国は保有量を増やし、新たな兵器を開発してきた」と他国を批判。今回のNPRにより「二十一世紀の脅威に対処する」と新方針を正当化した。
「核体制の見直し」 軍拡競争進める恐れ
東京新聞 2018年2月3日
<解説>トランプ米政権が二日に公表した新核戦略指針「核体制の見直し」では、オバマ前大統領が希求した「核兵器なき世界」の理想を捨て、核の役割拡大を打ち出した。二〇二一年に期限を迎えるロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉も一層困難になり、軍拡競争の引き金となりかねない。
核増強へ方針転換した理由に挙げるのは、最近の安全保障環境の急速な悪化だ。核・ミサイル開発を強行する北朝鮮に加え、ロシアや中国も、小型核の配備など核の近代化を進めているとして、トランプ大統領は「比類なき力こそが確実な防衛手段になる」と強大な軍事力に基づく「力による平和」を追求する。
だが、オバマ氏が主導してきた核軍縮の旗振り役の役割を放棄し、核使用のハードルを下げる姿勢を強めれば、各国に核増強や核保有の口実を与える。核兵器禁止条約の制定に貢献し、ノーベル平和賞に輝いた非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の取り組みも踏みにじる。
北朝鮮が核開発を急ぎ、核戦争の懸念がこれまで以上に高まっている。先制不使用も否定するトランプ政権の核への偏重が、国際社会をより不安定化させる恐れがある。(ワシントン・後藤孝好)
米、核実験を状況次第で再開も 「地政学的問題」条件に 最大爆弾の退役延期
時事通信 2018年2月3日
【ワシントン時事】トランプ米政権が2日公表した「核態勢の見直し」(NPR)は、「地政学的問題が生じた時に備えて核実験を再開できる態勢を維持しなければならない」と明記した。中国やロシアによる新たな核兵器開発に対抗するため、将来の核実験実施の可能性に含みを持たせた形だ。また、米国が保有する最大の核爆弾B83の退役を無期限延期した。
「核なき世界」を掲げたオバマ前政権は前回の2010年版NPRで「核実験を行わず、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准と発効を追求する」と打ち出していたが、トランプ政権はこれを大きく転換。軍縮推進派からは「他国に核実験実施の口実を与える恐れがある」と批判する声が上がっている。
(中 略)
非営利団体「軍備管理不拡散センター」のジェームズ・マキオン研究員は「『地政学的問題』という文言は今回新たに付け加えられた条件だ」と指摘。「これが何を意味するのか説明はなく、歴代政権の核実験自粛の流れに完全に逆行する」と批判する。
トランプ政権のNPRはまた、20年代半ばの退役が予定されていたB83について、「ふさわしい代替手段が見つかるまで、当初予定されていた退役時期を超えて維持する」と方針を変更した。B83は最大1・2メガトン(TNT火薬換算)の威力を持つ核爆弾で、広島に投下された原子力爆弾の80倍の威力を持つとされる。延期の理由には言及していないが、多様な核戦力を維持する方針の一環とみられる。