2019年2月8日金曜日

アベノミクスの徹底検証が急務 幻想の中にいる国民の悲劇

 政府の統計不正はGDPの計算にも及んでいます。かつて「スピードを落とせないバスに乗っているのと同じ」と痛烈にアベノミクスを批判した、「アベノミクスによろしく」の著者明石順平弁護士氏は「GDPのかさ上げは、勤労統計の調査方法を変更することで賃金を上振れさせたのと構図がソックリ」と述べています。
 
 日刊ゲンダイが「アベノミクスの徹底検証が急務 幻想の中にいる国民の悲劇」と題する記事を出しました。
 同紙は、GDPの偽装だけでなく「消費者物価指数にも疑義」があるとして、食料品では価格は据え置きでも内容量を減らすなどの手法で、消費者はこの1年で平均5%もの物価上昇を感じているのに、それには目を瞑り、パソコンや自動車などについては、年々性能が著しく上昇していることをとらえて、「価格を性能で割る」という驚くべき操作を加えて、「価格が著しく低下」したとするなど、国民の実感からは大いに乖離した手法が行われている報じています。
 すべては消費者物価の上昇率を低く見せることで、実質賃金の低下率を抑えようという発想からです。
 安倍政権に迎合するため官僚が考え出したものですが、こうした欺瞞・不正は海外からも見抜かれて日本への不信は増大する一方です。いずれ株の大暴落につながることでしょう。日刊ゲンダイは「幻想の中にいる国民の悲劇」と呼んでいます。
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アベノミクスの徹底検証が急務 幻想の中にいる国民の悲劇
日刊ゲンダイ 2019年2月6日
(阿修羅文字起こし より転載)
 ついに根本厚労相が白旗を揚げた。昨年1~11月の平均の実質賃金の伸び率がマイナスになったという野党の試算を、5日の衆院予算委員会で事実上認めたのである。
 
 根本は「名目(賃金)を機械的に消費者物価で割り出すことで出された前提の限りでは、おっしゃる通りだ」とシブシブながら答弁。一方で安倍首相は「総雇用者所得では、名目でも実質でもプラスになっている」と相変わらずの強弁だったのだが、もはや万事休すだ。「アベノミクス偽装」が底ナシだということは、次々と白日の下にさらされている。
 
「毎月勤労統計」だけでなく、GDP(国内総生産)のかさ上げ疑惑も深刻だ。安倍が2015年9月に「GDP600兆円の達成」と掲げたタイミングでGDPの算出方法が変更され、15年度のGDPが31兆円も増えているが、「その他」の項目が7・5兆円も増えているのは不自然だと国会で野党が追及した。
「その他」は過去、GDPを押し下げるマイナス要因だったのに、安倍政権になった途端、プラスになっているというのだから怪しさは極まりない。
 
 以前からこの問題を指摘してきた「アベノミクスによろしく」の著者で弁護士の明石順平氏は「GDPのかさ上げは、勤労統計の調査方法を変更することで賃金を上振れさせたのと構図がソックリ」と言った。15年10月に経済財政諮問会議で麻生財務相が毎勤統計などの調査手法を見直すよう求めた事実もあり、安倍や麻生が「統計をいじってアベノミクスをよくするなんてできない」と否定しても、簡単には納得できないのである。 
 
■「消費者物価指数」にも疑義
 政府統計のおかしさは、実質賃金の計算に使われる「消費者物価指数」にもある。「物価は統計以上に上がっているのではないか」と指摘するのは経済評論家の斎藤満氏だ。
「昨年12月の消費者物価上昇率は前年同月比0・7%の上昇ですが、日銀の『生活意識に関するアンケート調査』では、消費者はこの1年で平均5%もの物価上昇を感じています。なぜここまでの乖離があるのか。物価指数自体が実態にそぐわない問題があるのではないでしょうか」
 
 斎藤氏によれば問題は2つある。
 1つは目に見えない「実質値上げ」だ。価格は据え置きでも内容量を減らす。メーカーの企業努力ともいえるが、同じ値段でもパンがひと回り小さくなったり、牛乳パックの形状が変わって容量が1割少なくなっていたり。消費者実感では値上げと同じだ。ところが、物価指数では、例えば、パンは15年の100に対し、直近は103と3年間で3%しか上がっていないことになっていて、「実質値上げ」は見落とされているという。
 
 もう1つは、電気製品など「教養娯楽耐久品」と自動車の価格で、恣意的な値下げ評価が行われていることだ。例えば、パソコン。直近の物価指数は101・1で、19年前の2000年1月は8379。現在20万円のものが19年前は1600万円していた、という計算になる。あり得ない話だ。統計上こうなるのは、パソコンの19年間の機能向上分を価格に置き換え、それを実質的な値下げと判断しているからだという。20万円のパソコンが統計上は19年前の80分の1の2500円程度とみなされているのだ。
「消費者に景気回復の実感がないのは、物価が上がっていると感じていることもあるでしょう。消費者物価指数がもっと上がっているとすると、実質賃金もその分を割り引く必要があり、実質賃金はさらに下がる可能性があります」(斎藤満氏=前出)
 
 これでは、国民生活は苦しくなる一方だ。斎藤氏は総務省の「労働力調査」が雇用を過大表示し、失業者を過小表示していて、国政調査と乖離があることも指摘している。有効求人倍率についても、分母である求職者数の減少が背景にあるのに、安倍政権がただ「全都道府県で1倍を超えた」と改善をアピールすることに疑問を呈する。
 これだけの疑わしい統計があるのである。アベノミクスの徹底検証が絶対に必要だ。
 
安倍首相の「この道しかない」が統計を歪めた 
 政権交代すれば景気が悪くなる――。こう解説する市場関係者やアナリストが少なくなかったことが、安倍1強が長く続く一因でもあった。アベノミクスが終われば株価は暴落する、という漠然とした恐怖感によって、国民は消極的支持に過ぎない安倍政権にしがみつかされてきたのである。
 
 だが、「アベノミクスで景気拡大」などというのは幻想だ。安倍政権の6年間で株価が上昇したのは、世界経済の好調が続いたという外的要因が大きい。加えて、日銀が異常な金融緩和で円安誘導し、ETF(上場投資信託)を爆買い、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も国民の虎の子の年金を突っ込んで“官製相場”をつくり上げ、必死に株高を演出してきたのである。そこに海外投資家が乗っかったまでで、株価が上がるのなら何でもアリとばかりの「禁じ手」を使ってきたのが実態だ。マトモな経済政策の帰結ではないのである。
 その間、庶民にはトリクルダウンも起きず、むしろ賃金は下落、夢ばかり見させられて、結局、何の恩恵もない。
 それなのに統計すら粉飾する口先ペテン首相に騙され、日銀やGPIFの禁じ手も黙認、歓迎してきたのだからオメデタイとしか言いようがない。
 
 シグマ・キャピタルのチーフエコノミスト、田代秀敏氏がこう言う。
『アベノミクスで景気拡大』というのが幻想なのは、冷静に考えれば分かることです。このところ中国経済の減速と日本の企業業績の悪化が伝えられていますが、つまり日本の景気は米国や中国に依存していることの証明であり、世界経済がダメになれば、日本経済もダメになるということです。中国・米国・欧州の景気上昇が同時期に来たのが12年11月だっただけで、アベノミクスは関係なかったのです。それなのに、安倍首相が『アベノミクスしかない』『この道しかない』と訴え、政策の選択肢を許さなかったことで、本来、相対的であるべき統計が恣意的に歪められてしまった。そして、検証に必要な行政文書も捨てられてしまっている。とんでもないことです」
 
■フェイク統計でヘッジファンドは「日本売り」
 アベノミクスで景気拡大どころか、いまや統計不正の広がりで、アベノミクスは信用失墜と同義語と化し、株暴落の引き金になりかねない。
「ヘッジファンド向けのインターネットメディア『ゼロヘッジ』が、『日本の経済統計の40%はフェイクニュース』だという記事を掲載しました。これを読んだヘッジファンドのマネジャーは『日本売りのチャンスだ』と思ったことでしょう。いつ仕掛けるか、タイミングを計っているんじゃないですか」(田代秀敏氏=前出)
 
 欺瞞と不正が横行する堕落した政権より、正確な統計で国民のための経済政策を真摯に遂行する政権の方がいいに決まっている。政権交代すれば景気が悪くなる、というのは逆だろう。国民は今こそ悪い夢と幻想から目覚める時である。