2019年2月6日水曜日

東京新聞・望月記者への官邸の攻撃に新聞労連が抗議

 昨年末、首相官邸・報道室長名で内閣の記者クラブ加盟社に「東京新聞の特定の記者」による質問内容が事実誤認であるとしたうえで、「内外の幅広い層の視聴者に誤った事実認識を拡散」すると訴える申し入れ書を配った件について、5日、ようやく新聞労連が抗議声明を出しました。
 
 声明によると官邸が「事実誤認」だと述べた件は、望月記者が辺野古埋め立てにおいて「現場では赤土が広がっている。どう対処するか」などと質問したことを指すようですが、「赤土」が投入されたことは現場を見た百人が百人認めるもので「事実」そのものです。「事実誤認」は官邸側にあるのであって笑止というほかはありません。とはいえ考えてみれば官邸がそんなデタラメの上に胡坐をかいて、上述のような高姿勢に出られるのは恐ろしいことです。記者クラブは自らの堕落を大いに反省すべきです。
 
 新聞労連は声明で、「今回の申し入れは、明らかに記者の質問の権利を制限し、国民の『知る権利』を狭めるもので、決して容認することはできない。厳重に抗議する」とし官房長官の記者会見で司会役の報道室長が質問中に数秒おきに「簡潔にお願いします」などと質疑を妨げていることについても問題であるとし、官邸側が「事実をねじ曲げ、記者を選別」していることに、「ただちに不公正な記者会見のあり方を改めるよう、強く求める」と述べています。
 
 問題発生から40日近くが経過しあまりにも遅きに失しましたが、新聞労連は一応筋を通したことになります。
 毎日新聞の記事と声明の全文を紹介します。
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新聞労連、官邸の「記者の質問は事実誤認」指摘に抗議
毎日新聞 2019年2月5日
 日本新聞労働組合連合(新聞労連)は5日、首相官邸側が菅義偉官房長官の記者会見での東京新聞記者の質問を「事実誤認」などと指摘したことに対し、抗議声明を発表した。 
 昨年12月26日の会見で、記者が沖縄県・米軍普天間飛行場の移設工事を巡り「現場では赤土が広がっている。どう対処するか」などと質問。これに対し、官邸側は内閣記者会に「事実を踏まえた質問をしてほしい」と要請していた。 
 新聞労連は声明で「赤土の広がりは現場を見れば明白」などと主張し、「官邸の意に沿わない記者を排除するような申し入れは容認できない」と訴えた。
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首相官邸の質問制限に抗議する
2019年2月5日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 南 彰
 首相官邸が昨年12月28日、東京新聞の特定記者の質問行為について、「事実誤認」「度重なる問題行為」と断定し、「官房長官記者会見の意義が損なわれることを懸念」、「このような問題意識の共有をお願い申し上げる」と官邸報道室長名で内閣記者会に申し入れたことが明らかになりました。 
 記者会見において様々な角度から質問をぶつけ、為政者の見解を問いただすことは、記者としての責務であり、こうした営みを通じて、国民の「知る権利」は保障されています。政府との間に圧倒的な情報量の差があるなか、国民を代表する記者が事実関係を一つも間違えることなく質問することは不可能で、本来は官房長官が間違いを正し、理解を求めていくべきです。官邸の意に沿わない記者を排除するような今回の申し入れは、明らかに記者の質問の権利を制限し、国民の「知る権利」を狭めるもので、決して容認することはできません。厳重に抗議します。 
 
 官房長官の記者会見を巡っては、質問中に司会役の報道室長が「簡潔にお願いします」などと数秒おきに質疑を妨げている問題もあります。このことについて、報道機関側が再三、改善を求めているにもかかわらず、一向に改まりません。 
 
 なにより、「正確な事実を踏まえた質問」を要求する官邸側の答弁の正確性や説明姿勢こそが問われています。2017年5月17日の記者会見で、「総理のご意向」などと書かれた文部科学省の文書が報じられた際に、菅義偉官房長官は「怪文書のようなものだ」と真っ向から否定。文書の存在を認めるまで1カ月かかりました。こうした官邸側の対応こそが、「内外の幅広い層に誤った事実認識を拡散させる」行為であり、日本政府の国際的信用を失墜させるものです。官邸が申し入れを行った18年12月26日の記者会見でも、菅官房長官は「そんなことありません」「いま答えた通りです」とまともに答えていません。
 
 日本の中枢である首相官邸の、事実をねじ曲げ、記者を選別する記者会見の対応が、悪しき前例として日本各地に広まることも危惧しています。首相官邸にはただちに不公正な記者会見のあり方を改めるよう、強く求めます。
 
《追記》 
 そもそも官邸が申し入れのなかで、東京新聞記者の質問を「事実誤認」と断じた根拠も揺らいでいます。
 記者が、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設をめぐり、「埋め立て現場ではいま、赤土が広がっております」「埋め立てが適法に進んでいるか確認ができておりません」 
と質問したことに対して、官邸側は申し入れ書のなかで、
「沖縄防衛局は、埋立工事前に埋立材が仕様書どおりの材料であることを確認しており、また沖縄県に対し、要請に基づき確認文書を提出しており、明らかに事実に反する」「現場では埋立区域外の水域への汚濁防止措置を講じた上で工事を行っており、あたかも現場で赤土による汚濁が広がっているかのような表現は適切ではない」
――と主張しました。
 
 しかし、土砂に含まれる赤土など細粒分の含有率は、政府は昨年12月6日の参議院外交防衛委員会でも「おおむね10%程度と確認している」と説明していましたが、実際には「40%以下」に変更されていたことが判明。沖縄県が「環境に極めて重大な悪影響を及ぼすおそれを増大させる」として立ち入り検査を求めていますが、沖縄防衛局は応じていません。「赤土が広がっている」ことは現場の状況を見れば明白です。偽った情報を用いて、記者に「事実誤認」のレッテルを貼り、取材行為を制限しようとする行為は、ジャーナリズムと国民の「知る権利」に対する卑劣な攻撃です。
 
 新聞労連は今年1月の臨時大会で、「メディアの側は、政治権力の『一強』化に対応し、市民の「知る権利」を保障する方策を磨かなければなりません。(中略)いまこそ、ジャーナリストの横の連帯を強化し、為政者のメディア選別にさらされることがない『公の取材機会』である記者会見などの充実・強化に努め、公文書公開の充実に向けた取り組みを強化しましょう」とする春闘方針を決定しています。今回の東京新聞記者(中日新聞社員)が所属する中日新聞労働組合は新聞労連に加盟していませんが、国民の「知る権利」の向上に向けて、共に取り組みを進めていきたいと考えています。