2014年6月14日土曜日

高村氏が自衛権発動3要件の変更案 公明党は同調するのか

 自民党の高村副総裁は、集団的自衛権の行使可能にするため、他国への武力攻撃であっても自衛権の発動が認められるとする、新たな「自衛権発動の3要件」のたたき台を示しました。
 それに対して公明党執行部は、昭和47年1972年)の政府見解を引用して、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態」に極めて限定して、容認する方向で党内調整に入る方針だということです。
 
 昭和47年(1972年)の政府見解で確認されている自衛権発動の3要件は
  1 わが国に対する急迫不正の侵害があること(急迫性、違法性)
  2 他にこれを排除して、国を防衛する手段がないこと(必要性)
  3. 必要な限度にとどめること(相当性、均衡性)
というもので、その起源は米国国務長官だったダニエル・ウエブスター氏(1782~1852年)が提唱した「ウェブスター公式」にあります。
 それは数学の公理のように直感的にその正しさが確信できるものであり、これに他に何かを加えたりあるいは差し引いたりすることを拒否する完璧性をもっています。
 
 高村氏の提案は、その第1項を「わが国への武力攻撃が発生したこと、または他国に対する攻撃が発生し、わが国の存立が脅かされ・・・・云々」に変更しようというものです。「他国に対する攻撃」が一体何故わが国の存立が脅かされる急迫の侵害になるというのでしょうか。
 それはウエブスター公式に「風が吹けば桶屋が儲かる」式の論理を適用しようという、噴飯ものの提案で、とてもまともに取り扱えるような代物ではありませんが、公明党はそれを容認する方向であるということです。
 
 昨年末には、民主勢力が絶対に認められないとした特定秘密保護法を成立させるのに同調し、今度は集団的自衛権の行使容認の閣議決定に協力しようというのでしょうか。
 
 元内閣法制局長官阪田雅裕氏は、1972年の政府見解の都合の良いところだけ引用することの不当性について、非常に短い文章ですがこれ以上はないほど完璧に論じつくしています。
 NHKニュースと併せて紹介します。
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高村氏 自衛権発動の3要件 たたき台示す
NHK NEWS WEB 2014年6月13日 
集団的自衛権などを巡る与党協議で、自民党の高村副総裁は、集団的自衛権の行使も可能にするため、他国への武力攻撃であっても、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある場合は、自衛権の発動が認められるとする、新たな「自衛権発動の3要件」のたたき台を示しました。
 
集団的自衛権の行使を巡り、公明党執行部は、昭和47年1972年の政府見解を引用して「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態」に極めて限定して容認する方向で、党内調整に入る方針を固めました。
こうしたなか、自民・公明両党は、13日、国会内で、集団的自衛権などを巡る6回目の与党協議を行いました。
この中で、自民党の高村副総裁は、集団的自衛権の行使も可能にするため、公明党執行部の意向も踏まえ、憲法9条の下で認められる自衛権の発動要件を見直す、新たな「自衛権発動の3要件」のたたき台を示しました。
たたき台は、3要件のうち、第1の要件を大きく見直し、これまでわが国に対する急迫不正の侵害があることとしていた要件を、わが国か他国に対する武力攻撃が発生し、これにより、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあることとし、他国への武力攻撃であっても、限定された場合に集団的自衛権の行使も可能にする内容となっています。
また、第2の要件は、武力攻撃を排除し、国民の権利を守るためにほかに適当な手段がないこととし、第3の要件は、これまでと変えず、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこととしています。
高村氏は、たたき台を示したうえで、新たな「自衛権発動の3要件」が骨格になる、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定の文案を、来週17日の次回の協議で示して具体的な議論に入りたいという考えを伝えました。
これに対し、公明党の北側副代表は、「公明党内では、まだ集団的自衛権について十分な議論をしておらず、閣議決定の文案の提示時期も含めて慎重に検討したい」と述べ、持ち帰って検討する考えを示しました。
高村氏は、協議のあとの記者会見で、「自民党内には、『3要件に、根底から覆されるおそれがあるという文言を入れたのは言い過ぎだ』という意見もあるが、一定の歯止めになると思う」と述べました。
 
昭和47年1972年政府見解と新「自衛権発動の3要件」
集団的自衛権の行使を巡って、公明党執行部は、昭和47年の政府見解を引用して、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態」に極めて限定して、容認する方向で党内調整に入る方針です。
昭和47年の政府見解とは、政府が、集団的自衛権と憲法の関係について示したもので、自衛権の行使は、「あくまでも外国の武力攻撃によって、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として、初めて容認される」としています。
そして、見解では「憲法のもとで武力行使が許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、他国に加えられた武力攻撃を阻止する、いわゆる集団的自衛権の行使は憲法上許されない」として、集団的自衛権の行使は認められていないと結論づけています。
こうした見解とともに、歴代政権が受け継いできた「自衛権発動の3要件」とは、憲法9条のもとで自衛権を発動し、武力を行使する要件をまとめたもので、▽わが国に対する急迫不正の侵害があること、▽これを排除するためにほかの適当な手段がないこと、▽必要最小限度の実力行使にとどまるべきという3要件を満たす場合にのみ、自衛権の発動が許されるとしています。
 
同盟国など他国に対する武力攻撃は、第1の要件である「わが国に対する急迫不正の侵害」には該当せず、集団的自衛権の行使が、憲法上許されないとする根拠の1つとなってきました。
高村副総裁が13日示した新たな「自衛権発動の3要件」では、第1の要件を大きく見直しました。
そして、昭和47年の政府見解の表現を使い、わが国か「他国」に対する武力攻撃が発生し、これにより、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあることとしています。
このように、新たな第1の要件には、「他国」に対する武力攻撃が新たに加わり、他国への武力攻撃であっても、限定的に武力の行使を認め、集団的自衛権の行使も可能にする内容となっています。
 
高村副総裁が、新たな「自衛権発動の3要件」に昭和47年の政府見解の表現を使ったのは、この政府見解を引用し、集団的自衛権の行使を極めて限定して、容認する方向で党内調整に入る公明党に配慮し、理解を得たいというねらいがあるものとみられます。
 
 
まともな理屈でない 元内閣法制局長官 阪田雅裕氏
朝日新聞 2014年6月13日
 72年の政府見解は、集団的自衛権を行使でない理由を述べてる。結論は明らかにだだと書いてある。一部を切取ることが許されるなら、どんな解釈も可能になるが、見解はあくまでも全体判断すべきものだ。そもそも集団的自衛権とは、ちとだけ使うという便利なものではない。その行使は戦争に参加することだから、日本が「必要最小限度の範囲」で武力を使ったつもりでも、相手からは敵国と見なされる
 憲法9条あるい前文や13条をどう読んでも集団的衛権は否定されているという結論にしかならない。行使を認めるなら、それは憲法解釈とは言えず、憲法の無視だ。政府や自民党は「無視するとは言えないので、理屈らしきものとして72年見解を持ち出してきた。だが解釈を変える論理としては耐えられず、まともな法律論ではない。
 公明党が検討中とされる理屈も理解できない的自衛権を使うのは、日本危倹が及んでいない状況が前提になる。日本が攻撃を受けていないのに、国外で起きている事態を「国民の権利を根底から覆す事態」などとみなせるのか、全くナンセンスだ。