集団的自衛権行使容認に向けての、閣議決定の日取りに関する安倍首相の発言には変転ただならないものがありますが、最終的に、今国会会期中に閣議決定をしたいとする安倍首相の強い意向が表明されました。
政府・自民党はそれを受けて、会期末の22日までに閣議決定する準備に入ったということです。
安倍首相は6日、訪問先のローマで記者団に「与党として決めるべき時に決めていくべきだ」と語りました。
6日の与党協議会では、座長を務める自民党の高村氏が政府側に閣議決定の原案を作成するよう要請しました。
安倍首相は8日、首相公邸に自民党関係者らを呼び、今国会中の閣議決定に向けて検討を加速するよう指示しました。
政府は次回10日の与党協議会で、公明党への説得材料として、集団的自衛権の無制限な行使に歯止めをかける方策を提示し、議論本格化させたいとしています。
そもそも政府の憲法解釈の変更によって集団的自衛権を認めることは、法治国家が当然踏むべき憲法上の手続きをないがしろにするもので、到底許されません。しかし首相にはそうした憲法感覚は全くなく、民意への顧慮もありません。またもともと首相の意向に異論を唱えるような人たちは取り巻きから排除されています。
狂気の集団と化す条件は揃っています。
毎日新聞は社説で、「自民党と公明党は、党としての成り立ちも、支持基盤も、重視する政策も異なる」が、自民党は選挙が有利に戦えるという打算から、また公明党は政策決定に関与できるということから連立を組んで来た筈であるとして、「公明党はそれでも与党であり続けることを優先し、渋面を浮かべながらも(自民の強制を)受け入れるのだろうか」と述べています。
「平和志向」という国の根幹を「戦争志向」に変えてしまえば、もはや民生の安定などはありません。
いま野党の幹部たちは、公明党に与党内でのブレーキ役を期待してエールを送っています(朝日新聞)。野党が「与党の一部」に期待を掛けるとは異常な話ですが、狂気の首相の下の自民党に多数を与えてしまった現実の中では、それもまた止むを得ないことです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
集団的自衛権巡る与党協議 調整活発に
NHK NEWS WEB 2014年6月9日
集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を巡り、自民党は、政府が今の国会の会期中に閣議決定できるよう、その文案や閣議決定にあたって行使の要件を明確にする指針の作成を急ぎたいとしています。
これに対し公明党は、会期中の合意は難しいとしており、今週、調整が活発になる見通しです。
集団的自衛権などを巡る与党協議で、自民・公明両党は10日から集団的自衛権に関する本格的な議論に入ることにしています。
これを前に安倍総理大臣は8日、総理大臣公邸で、谷内国家安全保障局長らから与党協議の現状について報告を受け、今月22日までの今の国会の会期中に集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定することを目指して与党側との調整を加速させるよう指示しました。
自民党はこうした安倍総理大臣の意向を踏まえ、政府が会期中に閣議決定できるよう公明党と調整する考えで、高村副総裁は政府に対し、『集団的自衛権』という文言を盛り込んだ閣議決定の文案の作成作業を進めるよう求めています。
さらに自民党は、公明党が集団的自衛権の行使について「当初は必要最小限度の範囲で容認しても、いずれ拡大しかねない」と懸念していることから、公明党の了解を得るためにも閣議決定にあたって行使の要件を明確にする指針を示したいとしており、政府側との調整を急ぐ方針です。
高村氏は8日、記者団に対し「『国の平和と安全を維持し、国の存立を全うするために必要な場合』か、『国民の命と暮らしを守るために必要な場合』に行使を容認するということでいいと思うが、公明党の理解が得られないので政府に指針を考えたらどうかと申し上げている」と述べました。
一方、公明党の北側副代表は、8日のNHKの日曜討論で「まずは集団的自衛権の行使の必要性があると言っている事例について、今の法制やこれまでの憲法解釈のなかで、何ができて何ができないのかをはっきりさせる必要がある」と述べました。
公明党は、10日からの与党協議で、政府が示した8つの事例ごとに個別的自衛権や警察権で対応できないか検討し、その後、集団的自衛権を行使しなければ対応できないと判断した事例について、どうするのか議論したいという考えで、残り2週間を切った今の国会の会期中の合意は難しいとしており、今週、調整が活発になる見通しです。
高村氏「会期中に閣議決定へ努力」
NHK NEWS WEB 2014年6月8日
自民党の高村副総裁は東京都内で記者団に対し、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定には、「集団的自衛権」という文言を明記し、公明党の了解を得たうえで、今月22日までの今の国会の会期中に決定できるよう努力する考えを示しました。
この中で、高村副総裁は、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定について、「『集団的自衛権』ということばを公明党の了解を得て入れたいというのが私たちの考えだ。公明党の了解を得ることも、今の国会の会期中に閣議決定することも、『集団的』の3文字を入れるのも絶対だ。これが成り立つかどうか、今、ギリギリ不可能を可能にする努力をしている」と述べました。
また、高村氏は、集団的自衛権の行使の拡大にどう歯止めをかけるかについて、「『国の平和と安全を維持し、国の存立を全うするために必要な場合』か、『国民の命と暮らしを守るために必要な場合』に行使を容認するということでいいと思うが、公明党の理解が得られないので、政府に指針を考えたらどうかと申し上げている」と述べ、閣議決定に当たって、行使の要件を明確にする指針を示す方向で、政府側と調整していることを明らかにしました。
(主張) 集団的自衛権―乱暴極まる首相の指示
毎日新聞 2014年6月8日
これはあまりにも乱暴ではないか。
集団的自衛権の行使を認める閣議決定を今国会中にする。そのための公明党との協議を急ぐように ― 。安倍首相が自民党幹部にこう指示した。会期末は22日。首相は、延長は考えていないと言っている。
政府の憲法解釈の変更によって集団的自衛権を認めることはそもそも、法治国家が当然踏むべき憲法上の手続きをないがしろにするものだ。
それを、たった2週間のうちに行うのだという。認めるわけにはいかない。
首相の指示を受けて自民党は、行使容認に難色を示す公明党との協議を強引に押し切ろうとしている。
おとといの協議では、自民党側が終了間際になって、それまで議論されていなかった集団的自衛権にからむ「事例」をいきなり持ち出した。さらに、閣議決定の文案を用意するよう政府側に求めた。
政府が示した15事例に、どれほどの必然性があるのか、判然としない。公明党を容認論議に誘い込むための「呼び水」という意味合いが強いのに、その検討ですら駆け足ですませようとしている。
自民党と公明党は、党としての成り立ちも、支持基盤も、重視する政策も異なる。そこから生じる意見の違いを埋めてきたものは何か。
選挙協力や政策決定への関与といった打算も互いにあるだろう。ただ、少なくとも表向きはていねいな政策協議があってこそだったのではないか。
自民党は、10年以上にわたって培われてきた公党間の信義をかなぐり捨ててでも、強行するというのだろうか。
公明党は、それでも与党であり続けることを優先し、渋面を浮かべながらも受け入れるのだろうか。
安倍首相は、集団的自衛権容認に向けての検討を表明した先月の記者会見で語った。
「私たちの命を守り、私たちの平和な暮らしを守るため、私たちは何をなすべきか」
「今後のスケジュールは、期限ありきではない」
その後、与党協議や首相の国会答弁で、ペルシャ湾での機雷掃海や、国連決議に基づく多国籍軍への後方支援の大幅拡大などが次々と示された。
あげくの果てが、いまの国会中に閣議決定するという自民党への指示である。
与党間の信義という内輪の問題にとどまらない。国民に対してもまた不誠実な態度だ。
野党幹部、公明に続々エール 与党内でのブレーキ役期待
朝日新聞 2014年6月8日
集団的自衛権の与党協議が進むなか、野党幹部から相次いで、行使容認に慎重な公明党へのエールが飛び出した。与党内でのブレーキ役を期待したものだ。
民主党の細野豪志前幹事長は7日、愛知県豊田市での党会合で「公明党が(行使容認の)閣議決定にお付き合いするのか、それとも平和主義と立憲主義を守るのか。原点に立ち返り、国民的な議論が必要だと(与党内で)かじをとることを期待している」と語った。
岡田克也元外相も三重県四日市市で講演し、「具体的な事例を議論した結果、行使を認めなければ日本の国益に深く関わることになるなら、(民主党が)限定的に認めることはありだ。公明党の山口(那津男)代表や結いの党の江田(憲司)代表と共通する考え方だ」として「公明党にエールを送りたい」と語った。
一方、公明党の連立離脱を誘うような発言も。みんなの党の浅尾慶一郎代表は7日、東京都内で「野党の中でどうくっつくかよりも、(集団的自衛権を巡って)自民党と公明党が離れて大きな政界再編が起きる方が国民の期待感は大きい」と記者団に語った。