2014年6月5日木曜日

無制限の後方支援 それこそが安倍首相の本音

 政府は日、与党協議の場で、憲法上禁じられてきた「他国による武力行使との一体化」の判断基準を緩和する提案をしましたが、そのようにして多国籍軍への自衛隊の国際協力が、無制限に行えるようになることこそが安倍首相の本音だと、五十嵐仁氏が彼のブログ「転成仁語」で指摘しました。
 
 これまで自民党が示した15事例などはほとんど現実性のないものでしたが、後方支援(の拡大)ということになれば、中東での紛争など沢山の事例があります。
 今後も同様の紛争が生ずる可能性があるので憲法上の制約がなくなれば、いくらでも自衛隊は多国籍軍への後方支援を求められることになります。
 
 うした紛争に積極的に参加し、自衛隊が幅広く役割を果たせるようになることこそ安倍首相が目指していたものであり、いよいよ本音が出てきたというわけです
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集団的自衛権行使容認についての安倍首相の本音が出た
五十嵐仁 転成仁語 2014年6月4日 
 集団的自衛権行使容認に向けての自民党と公明党の与党協議が続いています。昨日の協議では、多国籍軍への自衛隊の国際協力で「活動は非戦闘地域に限る」としてきた制約を外す方針が示されました。これがやりたかったんですね、安倍首相は。
 
 いよいよ、本音が出てきたと言って良いでしょう。これまで自民党が示した15事例は、北朝鮮によるミサイル発射とか朝鮮半島での紛争の勃発とか、ほとんど現実性のないものでした。
 しかし、昨日示された事例は中東での紛争に絡むもので、湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争など、過去に例があります。今後も、同様の紛争が生ずる可能性があり、そうなれば自衛隊は多国籍軍への参加を求められるにちがいありません。
 集団的自衛権の行使が容認されれば、自衛隊はこのような紛争への関与を断ることができなくなります。というより、そのような紛争に積極的に参加し、自衛隊が今まで以上に幅広く能動的な役割を果たせるようにすることこそ、安倍首相が目指している集団的自衛権行使容認の目的なのです。
 
 昨日の協議では、「国連安保理決議に基づき、侵略行為を制裁する多国籍軍の武力行使への支援」についての説明で、内閣法制局が1997年に示した後方支援の可否を判断する「一体化」4条件をさらに具体化するとして新たな方針が示されました。
 それによれば、過去の自衛隊派遣で設けた非戦闘地域について、今後は「自衛隊の活動範囲を一律に区切らない」とし、これまで活動できなかった戦闘地域でも支援活動ができるとしています。その際の基準を新たに4つ設けていますが、それは次のようなものです。
 
(1)支援する部隊が戦闘行為を行っている
(2)提供する物品が他国の戦闘行為に直接用いられる
(3)自衛隊の活動場所が他国の戦闘行為の現場に当たる
(4)後方支援が戦闘行為と密接に関係する
 
 この4つの条件を全て満たした場合にだけ、自衛隊は支援できないというわけです。逆に言えば、この4つの条件の一つでも欠けていれば、支援活動は可能だということになります。
 現に戦闘中でなければ支援は可能、戦闘中であっても戦闘に直接用いられる物品・役務でなければ支援は可能、戦闘行為の現場でなければ支援は可能、戦闘行為と密接な関係がなければ支援は可能、というわけです。どのような戦場であっても、戦闘が一時的に停止していれば、食料・水の補給や輸送、医療への支援などができるようになります。
 これに対して、公明党幹部は「戦闘地域での戦闘以外は何でもできるようになる」と否定的な考えを示したそうですが、まさにその通りです。一時的に戦闘がやんでいても、このような支援活動を行えば自衛隊が狙われ、戦闘が始まることは十分にありうることです。
 
 また、政府は「駆け付け警護」「外国でテロなどに巻き込まれた邦人の救出」についての説明でも、憲法解釈で禁じられている「国または国に準じる組織」への武器使用という基準は「認定の方法を変える」とし、自衛隊の武器使用に対する制約を事実上緩和する考えを示しました。
 さらに、グレーゾーン事態のうち離島での不法行為の対処、公海上の日本の民間船への襲撃対処の2事例について、あらかじめ閣議決定し、自衛隊が迅速に対処できるよう海上警備行動を発令しておく、閣議決定を閣僚が電話で済ませられるよう手続きを簡素化するなどの案を示しています。
 いずれも、自衛隊の活動領域を拡大し、武力行使を可能とする方向での見直しです。「駆け付け警護」で武器使用が緩和されれば、戦闘に巻き込まれ「他国の武力行使と一体化」する危険性が生ずるでしょうし、準有事であるグレーゾーンをブラックにすれば「準」が取れて直ちに有事となり、武力衝突に発展する危険性が高まるということが分からないのでしょうか。
 
 集団的自衛権の行使容認は1990年ころから検討されてきました。それは、「日本周辺の安全保障環境の激変」によるものではなく、多国籍軍への自衛隊の積極的関与を可能にすることを目的としたものです。
 今回の与党協議での新たな提案は、このことを明瞭に示しています。湾岸戦争のトラウマとイラク戦争での屈辱が、政府と安倍首相を駆り立てている要因なのだということを。
 集団的自衛権の行使とこの4条件が認められていれば、湾岸戦争でも自衛隊を派遣することができたでしょうし、イラク戦争では自衛隊の派遣先が「非戦闘地域」に限られることはなく、アフガン戦争でも海上給油活動以上の支援活動ができたにちがいありません。
 
 そして、自衛隊は戦闘に巻き込まれ、戦争での死傷者を出すことになっていたでしょう。イラクとアフガンの戦争で7000人の若者が死んだアメリカやアフガンで1000人の若者が命を失ったNATO諸国のように……。
 このようにして死傷者が出て初めて日米同盟は本物になると、安倍首相は考えているのでしょう。共著『この国を守る決意』(扶桑社)の中で、軍事同盟は「血の同盟」であるべきだと主張していたように……。