2014年6月25日水曜日

集団的自衛権 無責任極まる与党協議

 集団的自衛権の行使容認などを巡る与党協議は、自衛権発動の3要件の①で、「他国」を「日本と密接な関係にある他国」に、「おそれ」を「明白な危険」に修正するということで、公明党が合意に向かうということです。
 3要件の②で、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」という下線部の余計な敷衍をして、政府が、海外での戦争に参戦できる余地を残したままにです。
 
 25日の毎日新聞と朝日新聞は、それぞれ集団的自衛権に関する与党協議を批判する社説を掲げました。
 どちらも厳しい言葉を並べていますが、何処となく諦観を感じさせるものがあります。
 自公の2党だけで、たとえ不条理であっても何でも決められるという、現状の空しさが反映されています。
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社説集団的自衛権 無責任極まる与党協議
毎日新聞 2014年06月25日
 集団的自衛権の行使容認などを巡る与党協議は、多くの問題をうやむやにしたまま合意しようとしている。政府・自民党は9回目となる24日の与党協議で閣議決定案の修正案を示した。自衛権発動の新たな3要件案について、公明党に配慮してより限定的内容に修正したものだ。
 他国への攻撃が国民の権利を覆す「おそれ」がある場合に集団的自衛権の行使を容認するとしていたのを、「明白な危険」がある場合に修正した。「他国」も「我が国と密接な関係にある他国」に変えた。
 だが公明党の要求で多少、限定的表現になっても、集団的自衛権の行使は政府の判断次第で、歯止めがかからないことに変わりはない
 
 与党協議にはごまかしが多い。
 協議対象となった15の具体的事例のうち自公が明確に合意したのは、グレーゾーン事態と呼ばれる武力攻撃に至らない侵害への対応だけだ。
 国連平和維持活動(PKO)に参加している他国部隊や文民要員を救援する駆けつけ警護は、公明党内になお慎重論がある。与党協議では議論が煮詰まらないまま、公明党が目立って異論を唱えなかったことから、事実上、認める方向になった。
 集団的自衛権の事例は、行使が必要という自民党と、個別的自衛権や警察権で対応できるという公明党の溝が今も埋まっていない。
 例えば、海上交通路での機雷掃海を集団的自衛権で認めるかどうかの議論は決着していない。
 
 それなのに自民党が、国連の集団安全保障としても機雷掃海などの武力行使をできるようにしたいと唐突に提案した。公明党の反発で閣議決定には明記しないことになったが、閣議決定案の修正案は読み方次第で参加の余地を残している
 公明党は当初、事例ごとに個別的自衛権や警察権で対応できないか検討し、できない場合に集団的自衛権の行使容認について検討すると言っていた。だが、首相の意志の固さを見て、行使を一部認めたうえで限定する方針に転換した。事例は結論の出ないまま脇に追いやられた。
 
 与党協議は密室の協議だ。政府はどんな活動が可能になるのかあいまいなまま閣議決定してしまえば、あとは政府の判断で何でもできると考えているようにみえる。政府と与党は15事例について、できるできないをはっきりさせるべきだ。
 首相は閣議決定について「期限ありきではない」と語っていたが、その後、態度を変え、豪州訪問に出発する前の7月4日までの閣議決定を目指している。戦後の安全保障政策の大転換を議論するのに、この種の期限を設けるのはおかしい。政府も与党もあまりに無責任だ
 
 
(社説)集団的自衛権―命かかわる議論の軽さ
朝日新聞 2014年6月25日
 新たな提案を出したかと思えばすぐ引っ込める。
 集団的自衛権など安全保障政策の与党協議の混迷は、もはや見るにたえない
 国連決議にもとづく集団安全保障の一環としての武力行使に、自衛隊も参加できるようにしたい。中東・ペルシャ湾での機雷除去を念頭に、自民党が公明党にこう提案したのは、20日のことだった。
 だが、これに公明党が猛反発すると、自民党はきのうの協議では棚上げ。一方で集団的自衛権を認める座長私案を公明党の求めに応じて修正し、両党は合意に向け一気に歩み寄った。
 
 政府や自民党としては、議論を足踏みさせるよりは、合意を優先させたということだ。狙い通り、来週には閣議決定されそうな運びになった。しかも自民党は、機雷除去をあきらめたわけではなさそうだ。
 
 一連の協議のありようは、驚くほどに軽い。
 戦争のさなかのペルシャ湾で、自衛隊に機雷除去をさせるべきかどうか。まさに隊員の命がかかった問題だ。
 かつて占領下の日本で、こんなことがあった。
 朝鮮戦争が始まった1950年、政府は占領軍の強い要請を受け、海上保安庁による「日本特別掃海隊」をひそかに朝鮮半島沖に派遣した。憲法9条に反するとの声を、吉田茂首相が押し切った。
 ところが一隻の掃海艇が機雷に触れて沈没、隊員1名が亡くなった。「戦後ただひとりの戦死者」と言われる。
 
 集団安全保障は、平和や秩序を壊す国に対し、国連加盟国が経済や軍事的手段で制裁する仕組みだ。日本が憲法の枠内でどこまで協力するかは、本来は時間をかけて正面から議論すべき重いテーマである。
 
 先の与党協議では、多国籍軍の後方支援にあたっての新たな条件が突然示され、やはり公明党の反発ですぐさま別の条件に置き換えられた。
 自民党はとっかえひっかえ取引カードを繰り出しているだけではないか。誠実さを疑う
 「安倍政権での議論を十分だと思いますか」。朝日新聞の世論調査で、「十分ではない」と答えた人は76%だった。
 
 集団的自衛権に集団安全保障。ただでさえわかりにくい言葉が飛び交い、議論の焦点もくるくる変わる。こんな協議を見せられれば、多くの人が不十分だと思うのは当然だ。賛否以前の問題である。
 この状況のまま、本当に閣議決定に踏み切るのか。