2014年7月10日木曜日

閣議決定は過去の見解を「つまみ食い」したもの

 共同通信は、9日、「憲法解釈変更は過去の見解つまみ食い 法的整合性は綱渡り」(主旨)とするQ&A形式の記事を掲げました。そして憲法改正の手続きを取るべきであった述べています。
 
 ところで閣議決定では、新たな自衛権行使の3要件(新3要件)を次のように定めました。
 ①日本に密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
 ②日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない
 ③必要最小限どの実力行使にとどまる
 
 これまで自衛権発動の3要件とされていたものは下記のとおりです。
  1. 急迫不正の侵害があること(急迫性、違法性)
  2. 他にこれを排除して、国を防衛する手段がないこと(必要性)
  3. 必要な限度にとどめること(相当性、均衡性)
 
 これは1837年当時、アメリカの国務長官のいわゆる「ウェブスター見解」において表明された自衛権正当化の要件をベースにして、自衛権の発動と限界に関する要件を3つにまとめたものです
 
 自衛権である以上、「1.」のように自国が「(現に)急迫不正の侵害があること」が要件になることは、自明のことであって論議の余地などありません。
 それに対して新3要件の「①」の方は、一挙に他国の戦争に介入できるように拡大されたもので、そこには「自明性」はないどころか、どんなに多言をもって説明されたとしても、その胡散臭さが解消することはありません。
 
 では「2.」はどうでしょうか。わざわざ「日本の存立を全うし、国民を守るために」という言葉が、「他に適当な手段がない」という本文に付加されています。
 明らかに不用な文言ですが、決して無意味に付け加えたのではありません。これによって、本来は第三者の調停をまてば平和裏に解決できる場合でも、「日本の存立を全うし国民を守るために」は、この際相手を叩き潰すことが必要だから・・・というような言い訳が、これによって可能になるからです。驚くべき周到さです。
 
 以下に共同通信の記事を紹介します。
 この種の批判記事は、もっともっと新聞紙上に登場して欲しいものです。
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【Q&A 憲法解釈変更】 過去の見解つまみ食い 法的整合性は綱渡り
共同通信 2014年7月9日
 集団的自衛権の行使は、従来の憲法解釈を変更して容認されました。行使容認に賛成する人の中にも、憲法改正の手続きを取るべきではなかったのかと疑問視する声があります。
 
 Q 政府はどういう理由で憲法解釈を変更したのですか。
 A 1日の閣議決定は「安全保障環境の変化に対応し、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、これまでの憲法解釈のままでは必ずしも十分な対応ができない恐れがある」と説明しました。内閣官房のホームページは「政府の憲法解釈の基本的考え方を変えるものではなく、必ずしも憲法を改正する必要はない。立憲主義に反しない」としています。説得力を欠く印象は否めません。
 
 Q 変えなかった「基本的考え方」とは。
 A 外国の武力攻撃によって国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される「急迫不正の事態」に対処するため、やむを得ない措置として必要最小限度の範囲の「自衛の措置」を憲法が認めているとの論理です。1972年の政府見解に盛り込まれたもので、今回の閣議決定にも類似の表現があります。
 
 Q 同じ表現ではないのですか。
 A 全く同じではありません。閣議決定にある武力行使の3要件は「密接な関係にある他国」への攻撃で、国民の権利が根底から覆される「明白な危険」があり、他に適当な手段がなければ、必要最小限度の「実力行使」を憲法が許容しているとの内容です。
 
 Q 似ているから法的整合性があるのですか。
 A それはどうでしょう。72年見解は結論として集団的自衛権の行使は認めないとしていました。今回の閣議決定は結論が逆です。都合の良い部分だけつまみ食いしたと言われても仕方ありません。さらに、憲法が許容する武力の行使について「国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」と回りくどい表現を用いています。国民に分かりづらく、綱渡りの論理といえます。
 
 Q なぜ憲法改正の手続きを踏まなかったのですか。
 A 憲法改正には衆参両院議員の3分の2以上の賛同が必要です。実現するには時間や政治的労力がかかると考えているからだと思います。
 
 Q 公明党は憲法解釈変更に慎重な立場ではなかったのですか。
 A 当初の姿勢を変えました。連立政権維持を優先したようです。安倍晋三首相や与党は、武力行使3要件は、自衛隊の行動の「明確な歯止めになる」と主張しています。しかし、抽象的で裁量の余地が大きく、時の政府の判断で拡大解釈される懸念は消えません。