2014年7月16日水曜日

集団的自衛権歯止めは確認できず 首相答弁の不誠実

 4日の集団的自衛権・衆院集中審議を見て、15日の地方紙社説は、「範囲拡大が懸念される南日本新聞)」、「首相答弁で疑念は消えず高知新聞)」、「行使の要件やはり曖昧だ徳島新聞)」、「拡大解釈の恐れ明らか秋田魁新報)」(以上全て見出しの抜粋)などと、首相の答弁で無制限の範囲における国外での武力行使に、何の歯止めもないことが明らかにされたとしています。
 
 さらに信濃毎日新聞は「首相の答弁 説明になっていない(同上)として、国外での武力行使を伴う集団的自衛権の行使について、平然と「受動的な姿勢に変わりなく、専守防衛を維持していく」と答弁したことを取り上げて、「なぜそう言えるのか、今回も納得のいく説明はなかった」と批判しています
 確かに、「戦闘行為に他ならない」停戦前の機雷除去=掃海作戦が、首相にかかると「掃海作戦は受動的なものだから問題ない」となってしまうなど、「まやかし」のレベルは半端ではありません。
 
 中央紙はそこのトップスが官邸に押さえ込まれているので、政策はそこそこ批判するものの、首相個人の特に人格にかかわるような批判はしません。その点地方紙にはそうした制約はないので、報道関係者の真の思いが率直に書かれています。
 
 それにしても、答弁(や発言)の不適切さ・不誠実さがこれほど指摘される首相は初めてではないでしょうか。
 
 高知新聞は、直近の共同通信社の緊急世論調査で、国民過半数が首相の進め方に対し疑問を抱いていることが明らかになったことを取り上げて、一国の指導者として心すべきは国民との意識のずれを埋めることではないかと述べました
 首相の誠実性の欠如を指摘したものです。
 
 南日本新聞は、「集団的自衛権・衆院集中審議 範囲拡大が懸念される」とする社説を次の言葉で結んでいます。
 
 現時点での集団的自衛権行使に反対する民主党の海江田万里代表、岡田克也元外相らに対する答弁では正面から受け止めることを避けるような姿勢が目立った。
 これでは、戦後の安全保障政策の大転換に対する国民の理解が深まるわけがない。
  (後 略)
 
 信濃毎日新聞と高知新聞の社説を紹介します。
 
 15の各紙社説(一部)
集中審議 首相答弁で疑念は消えず     .       高知新聞
自衛権衆院審議 行使の要件やはり曖昧だ         徳島新聞
自衛権集中審議 拡大解釈の恐れ明らか          秋田魁新報
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(社説)安保をただす 首相の答弁 説明になっていない 
信濃毎日新聞 2014年7月15日
 安倍晋三首相ら政府側が一方的な説明を繰り返し、議論はかみ合わない。もどかしいやりとりだった。
 集団的自衛権をめぐり、衆院予算委員会の集中審議が行われた。首相は、中東のシーレーン(海上交通路)で機雷を取り除く作業にも参加できるとの考えを示すなど、踏み込んだ答弁をしている。
 政府が憲法解釈の変更を決めてから初めての国会論戦だった。武力行使の新たな3要件などについて各党がただした。疑問や矛盾を掘り下げるべき場だったのに、そうならなかったのは問題だ。
 新要件は、他国に対する武力攻撃によって「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に自衛隊の武力行使を認める。
 自国が攻撃されて初めて武力行使する「専守防衛」とは相いれない。にもかかわらず、首相は受動的な姿勢に変わりなく、専守防衛を維持していく」と答弁している。なぜそう言えるのか、今回も納得のいく説明はなかった。
 憲法解釈上、認めてこなかった海外での武力行使に道を開きながら「基本的な考え方は変わっていない」と主張してもいる。まやかしと言うほかない
 「明白な危険」については、攻撃国の意思や能力、事態の発生場所、規模などを総合的に考慮して判断すると説明した。つまりは時の政府の考え方一つだ。
 首相は、米艦防護など与党協議で示した8事例の全てに対応できるとの見解を示した。このうち中東・ホルムズ海峡での機雷除去については、石油の供給不足で「国民生活に死活的な影響が生じ、わが国の存立が脅かされる事態は生じ得る」と述べている。
 経済への影響も理由になるとすれば、集団的自衛権の行使の対象はさらに広がる。
 集団的自衛権の行使容認で、自衛隊員が戦闘に参加する可能性は高まる。戦死者が出ることも覚悟しなくてはならない。この点も首相は「隊員の安全と憲法論議は別問題」などと述べるだけで、正面から答えなかった
 首相は、きのうの政府与党連絡会議で「国民の理解が十分でないことも事実だ」と述べている。強引に閣議決定しながら、無責任な発言ではないか。丁寧に説明するというなら、国会で質問にきちんと答えるべきだ。
 
 
(社説)【集中審議 】首相答弁で疑念は消えず  
高知新聞 2014年07月15日
 安倍内閣による集団的自衛権の行使容認の閣議決定後、初の国会論戦がきのう、閉会中の集中審議として衆院予算委員会で行われた。 
 歴代政府が積み重ねた憲法解釈を一内閣が変えることなどへの国民の反発は根強いが、安倍首相らの答弁は疑念解消とは程遠かった。海外での武力行使に歯止めがかからなくなる恐れのある事態も浮かんでいる。 
 集中審議はきょう、舞台を参院予算委員会に移して行われる。衆院での審議を踏まえ、閣議決定の意味するものを多角的に掘り下げてほしい。 
 閣議決定後、安倍首相は外遊先などで集団的自衛権の行使容認を踏まえた法整備の必要性を語っている。 
 しかし今、一国の指導者として心すべきは国民との意識のずれを埋めることではないか。共同通信社の緊急世論調査では、多くの国民が首相の進め方に対し疑問を抱いている
 行使容認を憲法改正ではなく解釈変更で対応したことに「妥当」は31・7%で、「妥当ではない」は60・0%に達した。閣議決定前の協議も「十分ではない」が80%を超えている。 
 このずれをどう埋めるかが国会論戦で問われている。しかし、初日の論議を見る限り成果は乏しい。 
 安倍首相は与党推薦候補が敗北した滋賀県知事選について閣議決定の影響を認めた。その一方で「一つの閣議決定にこれだけ慎重に議論を重ねた例はない」と拙速批判には反論する。 
 9条の解釈変更で安全保障政策が変質するとの見方には、閣議決定は従来の政府見解の枠内にあるとして理解を求めた。武力行使3要件は「受動的」「限定的」だから「専守防衛の基本は維持している」とも強調する。 
 そんな説明も個別ケースに入ると様相が変わってくる。衣の下からよろいが見え隠れするのだ。 
 
 首相は中東・ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合、3要件を満たせば停戦前でも掃海活動に参加できるとの認識を示した。海外派兵には当たらないとしているが、3要件が歯止めになるのか早くも疑問符が付いた。 
 岸田外相は、米国への攻撃も3要件に当たる可能性があるとする。 
 2001年の9・11テロ後、米国は自衛権を行使し、アフガニスタン攻撃に踏み切った。今後、同様の事態が起きた場合、日本は当時と同じ対応が可能なのか。論議はこれからだ。