「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」と、73歳の女性が詠んだ市民の俳句を、さいたま市の三橋公民館が月報に掲載することを拒否した問題で、稲葉康久・市教育長は29日の定例会見で、「世論を二分しているものは月報にそぐわない。今後も掲載しない」と述べました。
29日には有識者や住民代表で構成される「さいたま市公民館運営審議会」(2ヶ月毎に開催)が開かれて、掲載拒否問題が約1時間にわたり話し合われ、「公民館運営の根本に関わる問題だ」、「すべての作品を、政治的かどうか判断しなければならなくなる。行政が介入するべきではない」などと、公民館や市教委の対応に対して厳しい意見が相次ぎました。教育長の発言はそれを無視したものでした。
文芸作品などで公序良俗に反するものは掲載できないとする基準は、これまで一般に認められてきましたが、「世論を二分するものはテーマにしてはならない」というのはあまりにも暴論です。この考え方は町の施設を護憲団体の集会には貸さないという、近年広がりつつある一部の市町の対応と同根のもので、建前上は「世論を二分している問題だから」としていますが、事実上、政府の意向に反するものだからというのが理由になっています(しかも憲法9条の問題について言えば、二分されている少数側の意見である「改正」をごり押ししようとしているのが、他ならぬ政府側です)。
そもそも全ての問題は原則として「A」と「非A」に二分されるので、そうなればあらゆるテーマが該当することになります。中国の例を見るまでもなく、文芸の世界に行政が口出しをすることは最も慎むべきことです。
発表することを認めない さいたま市の掲載拒否は、戦前に行われた「検閲」そのものです。教育長は自分が発言した内容を分かっているのでしょうか。
発表することを認めない さいたま市の掲載拒否は、戦前に行われた「検閲」そのものです。教育長は自分が発言した内容を分かっているのでしょうか。
この問題について大田尭東大誉教授は、「そもそも公民館は誰もが自由に利用ができ、意見を言える開かれた場。公民館側が掲載の可否を判断するのは、パブリックの域を超えている」と述べています。
また高橋哲哉東大教授は、「公民館側の対応は批判的な表現や言論を萎縮させ、戦時中の言論統制を思い出させる。俳句のような芸術の表現の場で、政治的中立の名の下に、制限を加えるのは憲法を超越した権力になっている」と指摘しています。
安倍内閣の反動政治が、こんな形で行政のすみずみにまで及ぼうとしています。
東京新聞の記事と、問題発覚(7月5日)直後のさいたま新聞を紹介します。
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「九条守れ」俳句、今後も不掲載 世論二分なら排除
東京新聞 2014年7月30日
「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」と詠んだ市民の俳句を、さいたま市大宮区の三橋(みはし)公民館が月報への掲載を拒否した問題で、稲葉康久・市教育長は二十九日の定例会見で、「世論を二分しているものは月報にそぐわない。今後も掲載しない」と述べた。
市教育委員会は、今後の月報で俳句を掲載するかどうかを再検討していたが、掲載されないことがほぼ確実になった。
市教委は今回の問題を受け、各公民館での市民の文芸作品などの掲載について、独自の基準づくりも進めている。稲葉教育長は「集団的自衛権の問題が背景にあり、掲載すべきではなかった。今後もこの立場をご理解いただく」と話し、「世論を二分するような」テーマの作品は載せない基準にする考えを示した。
掲載拒否は、六月下旬に公民館が作者の女性らに連絡して判明。市教委は今月八日にいったん「今後も掲載しない」としたが、市民らから「表現の自由が萎縮する」などの批判が出て、十五日、一転して再検討の方針を明らかにした。
清水勇人(はやと)市長も十七日の会見で「世論が大きく分かれる問題で一方の意見を載せると、市の意見だと誤解を招く。(掲載拒否は)おおむね適正だ」と述べた。
◆「多様な学び 行政介入すべきでない」公民館審議会
今回の掲載拒否問題への批判は、日に日に高まっている。市教委や市に掲載を求めている団体職員武内暁(さとる)さん(66)=さいたま市中央区=は「世論を二分するものを、なぜ載せてはいけないのか。公民館の主役は住民。基準で縛ろうという発想がおかしい」と憤る。
二十九日に開かれた「さいたま市公民館運営審議会」でも、有識者や住民代表の委員から、公民館や市教委の対応に厳しい意見が相次いだ。
審議会は大学教授、NPO法人や住民の代表ら十三人が、公民館の運営のあり方を話し合う。この日の会合では掲載拒否問題を約一時間にわたり議論。委員長を務める安藤聡彦(としひこ)・埼玉大教授(社会教育学)は「公民館運営の根本に関わる問題だ」と指摘した。
大高研道(おおたかけんどう)・聖学院大教授(同)は「『梅雨空-』の句を問題にすれば、(公民館の月報などに載せる)すべての作品を、政治的かどうか判断しなければならなくなる。公民館は多様な学びの場を保障するのが役割で、行政が介入するべきではない」と批判した。
稲葉教育長の定例会見は審議会の会合後にあった。教育長の発言を聞いたある委員は「審議会の議論とはまったく逆の方向だ。何が世論を二分しているかなど判断できるはずがないし、するべきではない」と反発した。 (岡本太)
「九条守れ」俳句掲載拒否 市に意見100件超、大多数が批判や苦情
埼玉新聞 2014年7月8日
さいたま市大宮区の三橋公民館が、毎月発行する公民館だより7月号の俳句コーナーに、公民館で活動するサークルが選んだ憲法9条を題材にした市民の作品掲載を拒否した問題で、市に寄せられた意見が7日までに104件に上ったことが8日、市教委への取材で分かった。大多数が批判や苦情だったという。
掲載が拒否されたのは、さいたま市大宮区の女性(73)が詠んだ俳句「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」。
意見は電話やファクス、メールで、市内にある公民館59カ所を所管する市教委の生涯学習総合センターや三橋公民館に寄せられた。同センターによると、公民館の判断に理解を示す内容も一部あったが、大多数が批判や苦情など否定的なものだった。
同センターは掲載を取りやめた理由として、「世論が二分されているものは、一方の意見だけを載せることはできない。公民館の考えだと誤解されてしまう可能性もある」などと説明するが、市民の理解が得られない対応だったことが浮き彫りになった。
市教委には現在、市内全館で発行している公民館だよりの明確な掲載基準などはないという。同センターは早ければ、今月中にも一定のルール作りを行う予定だが、「従来の考えを踏襲することになる」との方針を示した。
■「戦時中の言論統制」
三橋公民館が公民館だよりに憲法9条をテーマにした俳句の掲載を拒否した問題で、東京大学名誉教授の大田尭さんと東京大学大学院教授の高橋哲哉さんは、埼玉新聞の取材に「戦時中の言論統制を思い出させる」などと述べた。
さいたま市南区で6日に行われた映画上映会に出席した大田さんは「そもそも公民館は誰もが自由に利用ができ、意見を言える開かれた場。公民館側が掲載の可否を判断するのは、パブリックの域を超えている」と話した。
高橋さんは「公民館側の対応は批判的な表現や言論を萎縮させ、戦時中の言論統制を思い出させる。俳句のような芸術の表現の場で、政治的中立の名の下に、制限を加えるのは憲法を超越した権力になっている」と指摘した。