小林 節 慶大名誉教授が大阪日日新聞に「集団的自衛権行使『違憲』訴訟の方法」と題する記事を載せました。
それによると、まず日本の違憲審査制度は、ドイツのような憲法裁判所型ではなく、司法裁判所型であるため、実際の民事・行政訴訟か刑事訴訟になった場合にだけ、憲法上の争点も判断される制度であるということです。
今回の閣議決定により、「平和的生存権」が既に害されたとして、国民多数が集団で国家賠償請求訴訟を提起することも考えられるものの、そんな実害(訴えの利益)は存在しないとして、訴えそのものが却下(門前払い)されてしまう可能性が大きいということです。
そして、高度に政治的な問題は司法の判断になじまないとして憲法判断を避けた砂川事件最高裁判決(判例)での「統治行為論」を挙げて、主権者国民が決定を下すべき事柄であるとするならば、結局は憲法を無視する内閣は総選挙で倒すしかないと述べています。
日本における(最高裁の)違憲立法審査権の実態を知らされます。
ただ、幸いなことに安倍内閣の支持率は「黄信号」といわれる40%台に下がり、「赤信号」といわれる30%台に落ちるのも間近になりました。あと一息という感じです。
不正な政府に対して、民主勢力が力を合わせて倒閣運動を行うことは常に必要なことです。
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一刀両断 集団的自衛権行使「違憲」訴訟の方法
小林 節※(大阪日日新聞) 2014/7/29
※ 慶大名誉教授・弁護士
憲法9条が、1項で戦争(他国と意見の違いについて武力で決着をつけること)を放棄し、2項で戦力(正式な軍隊)と交戦権(海外で戦争を遂行するために不可欠な権利)の不保持を明記している以上、わが国が「海外派兵」できないことは自明である。だから、わが国は「海外派兵の禁止」「専守防衛」(侵略の対象にされた場合にだけは自衛行動をとる)を国是としてきた。
だからこそ、同盟国を守るために海外派兵することが不可欠な集団的自衛権は現行憲法の下では行使できないとされてきた。
ところが、今回、安倍内閣は、場合によっては集団的自衛権も行使できる…と閣議決定した。これは明白な憲法違反である。
そこで、憲法81条に、一切の国家行為の違憲性は最高裁が審査し得る…と規定している点を捉えて、あの閣議決定に対する違憲判決を得よう…とする声が全国であがっている。その代表格が山中光茂・松阪市長である。
ところが、あの閣議決定に対する違憲訴訟は法技術的にかなりの無理がある。
まず、わが国の違憲審査制度は、ドイツのような憲法裁判所型ではなく、アメリカのような司法裁判所型である。だから、実際の民事(含む行政)訴訟か刑事訴訟になった場合にだけ、その審理に必要な限りで憲法上の争点も判断され得る制度である。
だから、例えば、海外派兵される隊員が出発の朝に部隊を離脱し懲戒処分を受け、その無効を争う訴訟や派遣される部隊の国内での移動を妨害して公務執行妨害で公訴を提起され無罪を争う訴訟で、その前提問題として、自衛隊の海外派兵の違憲性を争うことになる。
他に、今回の閣議決定により、憲法前文が保障する「平和的生存権」が既に害された(既に不安が始まり心が害されている)として、国民多数が集団で国家賠償請求訴訟を提起することも考えられる。しかし、そんな実害(訴えの利益)は存在しないとして、訴えそのものが却下(門前払い)されてしまう可能性は大きい。
さらに、いずれにせよ、戦争と平和という国家の存続に関する歴史的決断は、非民主的な司法部の判断になじまず、内閣・国会ひいては総選挙で主権者国民が決定を下すべき事柄である(統治行為論)という最高裁判例の壁がある。だから、憲法を無視する内閣は総選挙で倒すしかない…という現実をあらためて直視すべきであろう。