2014年7月13日日曜日

軍事突出の安倍外交を憂える

 東京新聞は12日の社説で「軍事突出が過ぎないか 安倍外交を憂える」とする社説を掲げました。
 安倍首相の国内外での軍事突出の発言は、心あるひとたちが等しく憂慮しているところです。
 
 安倍首相は、旧日本軍兵士約16万人が戦死したパプアニューギニア北部ウェワクを訪れて、献花後記者団に、不戦を誓うと同時に、アジア世界の友人とともに、世界平和の実現を考える国でありたいと英霊の前で誓った」と述べました。
 世界平和の実現を考える国とは、世界の憲兵を任ずるアメリカか、「大東亜の平和のために」南方に侵出した、旧日本軍の精神が乗り移ったかのような発言です。
 
 また今回の外遊で、オーストラリアなど3国に集団的自衛権の行使容認の意義を説明し支持を取り付けたとしていますが、それは国内での議論に先立って、外国から「お墨付き」を得ようとしたものに他なりません。
 
 そしてオーストラリアの国会でも、「日本はこれまで内向きであったが、今後は世界の恒久平和を願う国として高い国力にふさわしい貢献を行おうとする意思があると述べました。世界の平和のために、これからは外に向かって出て行くことを明確にしました。
 これまで海外に侵出したあらゆる国家が、等しく自国の防衛と平和の構築を口実にしてきたという歴史を知らないのでしょうか。
 
 社説は、「首相は軍事に傾倒せず、憲法擁護の義務を負っていることを忘れてはならない」と結んでいます   (※ 憲法99条
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社説軍事突出が過ぎないか 安倍外交を憂える
 東京新聞 2014年7月12日
 国民の命と暮らしを守るのは政府の崇高な使命だ。しかし、安倍晋三首相が進めている最近の外交政策を見ると、軍事面が突出し過ぎてはいないか。
 安倍首相はきのうパプアニューギニア北部ウェワクを昭恵夫人とともに訪れ、戦没者の碑に献花、黙とうした。かの地は、第二次世界大戦中、旧日本軍兵士ら約十五万八千人が戦死した激戦地だ。
 首相は献花後、記者団に「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」と誓うと同時に、こう語った。「アジア、世界の友人とともに、世界平和の実現を考える国でありたいと英霊の前で誓った」
 
外国盾に反対論封じ
 安倍首相はきょうニュージーランド、オーストラリア、パプアニューギニア三カ国歴訪から帰国する。「集団的自衛権の行使」を一転、容認する一日の閣議決定後、初めての外国訪問だった。
 首相は三カ国首脳に、集団的自衛権の行使容認の意義を説明し、それぞれ支持を取り付けた、という。行使容認が悲願だった首相には、力強い「援軍」に違いない。
 ただ、公正なやり方ではない。
 政府がいくら憲法解釈を変え、行使容認に転じたとしても、自衛隊が実際に活動内容を拡大するには法整備が必要だ。それは国会の仕事であり、国会議員を選ぶ有権者の理解も不可欠だろう。
 国内では、海外での武力の行使は行わないという日本国憲法の平和主義を根本から変える解釈変更には、反対論が広がっている。
 国会での議論が本格化する前に外国から「お墨付き」を得ることで、国内の反対論を封じ込めようとしているのなら見過ごせない。
 消費税増税やTPP(環太平洋連携協定)交渉参加などを例に挙げるまでもなく、国際公約を盾に既成事実化を図るのは、政府、官僚の常とう手段でもある。
 
9条内向き論の錯誤
 安倍首相は外交の原則に「積極的平和主義」を掲げる。この言葉の意味するところは、日本の軍事的役割の拡大にほかならない。
 日本の首相として初めてオーストラリア連邦議会で演説した際にも、安倍首相はこう語った。
 「こと安全保障に関し、日本は長らく内向きだった。しかし日本には今や一つの意思がある。世界の恒久平和を願う国、世界有数の経済力を持つ国としてふさわしい貢献を、地域と、世界の平和を増すため行おうとする意思だ」
 首相は、平和主義に基づく戦後日本の安全保障政策は「内向き」であり、集団的自衛権の行使を認めたり、武器やその技術を輸出することこそが、日本にふさわしい貢献と言いたかったようだ。
 しかし、これには異議を唱えねばならない。
 憲法九条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。
 自衛隊は保有するものの、「専守防衛」に徹し、防衛力整備も必要最小限度にとどめてきた戦後日本の安保政策は、三百十万人もの国民の命を失い、周辺諸国に多大な損害を与えた、先の大戦の痛切な反省に基づいたものだ。
 戦後日本の誠実な歩みこそが、国際社会から「高い評価と尊敬」を得て、日本の外交力、特に軍縮・核不拡散分野、非軍事的貢献での発言力強化につながってきた。
 平和主義は国際社会に対する能動的な宣言であり、「内向き」と考えることは錯誤も甚だしい。
 安倍内閣は今年に入り、原則禁じてきた武器輸出を一転拡大する新しい指針を決め、集団的自衛権の行使容認にも踏み切った。年内には「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」再改定も目指す。日米同盟関係は強化され、自衛隊の活動は米軍の戦闘作戦行動と、より一体化する。
 首相が、米国の同盟国であるアボット豪首相との間で日豪の「特別な関係」を確認したのも米国を軸とする軍事関係強化の一環だ。
 途上国を支援する政府開発援助(ODA)も、軍事的用途を避けてきたこれまでの方針を、民生目的や災害援助なら軍隊への支援もできるよう見直す方向だという。
 
首相に憲法擁護義務
 首相の念頭には中国の軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発、米国の力の相対的低下があるのだろう。しかし、軍事的対応の強化だけが解決への道ではあるまい。
 平和主義をおろそかにすれば、国際社会の信頼を損ね、多くの弊害をもたらすことになるだろう。
 憲法九条を持つ日本にふさわしい平和貢献とは何か。激動する国際社会の中で、それを考え、実現することは容易ではないが、やり遂げることは指導者の役割ではないか。首相は、軍事に傾倒せず、憲法擁護の義務を負っていることを、忘れてはならない。