14,15日の衆参両院での集中審議を見て地方紙が、16日も、政府を批判する社説を掲げました。地方紙の社説は、首相の答弁や閣議決定に対して冷静な口調ながらも忌憚のない批判を展開しています。従ってそれを読むだけでも、取り上げられたテーマがどのように評価されていて、どこに問題があるのかを概括的に理解することが出来ます。
沖縄タイムスは、「自衛権集中審議 すでに『歯止め』がない」と題して、次のように論じています。
集団的自衛権の行使を「受動的」「限定的」な範囲にとどめるというのは国際的には通用しない。
武力行使の新3要件はあいまいで政権の裁量次第でいかようにでも解釈できる。
海峡のタンカー航行妨害などの経済的な要因を集団的自衛権行使の理由にするのは、「専守防衛」を逸脱する。どれだけの経済的ダメージを受ければ行使に踏み切るかも判然としない。
「敵国」敷設の機雷を除去することは「受動的」ではないし、機雷掃海では沿岸国の領海に入らざるを得ない。
日米同盟が大きな影響を受ける場合も武力行使ができるとなれば、米国主導の戦争に巻き込まれ、米国の世界戦略に深く組み込まれる。
安倍首相が8事例や集団安全保障への参加もできると踏み込んだのは、閣議決定の範囲を飛び越えたものである。
他国を守るために自衛隊員に戦死者が出ることに絶対に触れようとしないのは、戦争のリアリティーを隠すものである。
限られた字数の中で見事に問題点を整理しています。
佐賀新聞は「自衛権集中審議」と題して、「首相は新たな『武力行使の3要件』が『厳格な歯止めとなる』と説明するが、むしろ際限なく広がる可能性さえ感じた」として、以下のように述べています。(上記と重複する部分は除きました)
首相は審議で新たに「明白な危険」の判断基準として、「わが国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被る犠牲の深刻性、重大性」を挙げたが抽象的である。
政府は具体的な法整備を来春以降に先延ばしする一方で、日米防衛協力指針(ガイドライン)の年内改定に行使容認を反映させるというのは、国民や国会の手が届かないところで話が進むということで、法案審議のときに引き返せなくなっている惧れがある。
安倍首相は訪問先のオーストラリアで語るところを聞くと、国内では歯止めを強調しながら、国外では他国と歩調を合わせるような発言をしている。
これもスムーズに納得の出来る指摘です。
西日本新聞は「集団的自衛権 もっと国会で徹底審議を」と題して、「武力行使の対象は一体どこまで広がるのか。不安と懸念は解消するどころか、深まる一方だ」として、以下のように述べています。(同 上)
首相はきのうの参院予算委で、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定を検討する考えも明らかにした。恒久法が制定されれば、内閣の判断と国会承認で派遣することが可能になる。集中審議だけでも憲法9条に抵触する恐れが強いことがあらためて浮き彫りになった。
以下に、沖縄タイムスと佐賀新聞の社説を紹介します。
西日本新聞の社説は紙面の関係で割愛しますので、下記にアクセスして下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説)[自衛権集中審議]すでに「歯止め」がない
沖縄タイムス 2014年7月16日
日本が攻撃もされていないのに他国の防衛のために集団的自衛権を行使することと、安倍晋三首相が強調する「受動的」「限定的」な範囲にとどめるというのは国際的には通用しない。歯止めとしている武力行使の新3要件もあいまいで、時の政権の裁量次第でいかようにでも解釈できる余地が残されている。
米国が攻撃されたり、中東のペルシャ湾・ホルムズ海峡に機雷が敷設され、石油供給が絶たれたりするなどの経済的な要因も集団的自衛権を行使するケースに当たるという。「専守防衛」を逸脱するのは明白で、武力行使が際限なく広がる懸念が拭えない。早くも、歯止めがなきに等しいことが浮き彫りになった。
衆参両院の予算委員会は14、15の両日、集団的自衛権に関する集中審議を行った。憲法解釈を変更した閣議決定から初めての国会論戦だ。
日本に輸入される原油の8割が通過する中東のホルムズ海峡における機雷掃海について安倍首相は「石油の供給不足が生じて国民生活に死活的な影響が生じ、わが国の存立が脅かされる事態は生じ得る」と答弁した。経済的要因も集団的自衛権の行使に該当するとの認識を示したものだ。どれだけの経済的ダメージを受ければ集団的自衛権の行使に踏み切るか判然としない。
機雷掃海について安倍首相は受動的、限定的と強調したが、集団的自衛権を行使し、「敵国」が敷設した機雷を除去することは受動的、限定的などではない。戦争における能動的な戦闘行為である。逆にいえば日本は敵国の攻撃の対象になるのである。
■ ■
ホルムズ海峡での機雷掃海では、沿岸国の領海に入らざるを得ない。岸田文雄外相は「他国の領海内でも許容される」と明言した。「海外派兵はしない」と繰り返す安倍首相の見解との齟齬(そご)ではないか。
日米同盟が大きな影響を受ける場合も武力行使の3要件に該当する可能性が高い、と安倍首相は答弁した。米国が主導する戦争に日本が巻き込まれる危険性が高まる。閣議決定の内容に地理的制約は明記されておらず、日本が米国の世界戦略に深く組み込まれることは間違いない。
集中審議における安倍政権の前のめりの姿勢はそれだけではない。安倍首相は新3要件を満たせば、米艦防護など政府が提示しながら与党でも議論が尽くされていない8事例、当初は否定していた国連決議に基づき団結して武力制裁を科す集団安全保障への参加もできると踏み込んだ。もうすでに閣議決定を飛び越えたなし崩し的な拡大である。
■ ■
安倍首相は集団的自衛権の行使に、どういうリスクが伴うかについては固く口をつぐむ。集中審議でも「自衛隊のリスクが高まるのを認めた上で、国民に説明すべきだ」と何度も迫られたが、真っ正面から答えることがなかった。
集団的自衛権は他国の戦争に参戦することである。他国を守るために自衛隊員に戦死者が出る。自衛隊員が敵国の兵士を殺す。安倍首相は聞き心地の良い言葉だけを並べ、戦争のリアリティーを隠しているというほかない。
(社説)自衛権集中審議
佐賀新聞 2014年7月16日
集団的自衛権の行使を可能にする閣議決定を受け、初めてとなる国会の集中審議が衆参両院の予算委員会で2日間開かれた。安倍晋三首相は新たな「武力行使の3要件」が「厳格な歯止めとなる」と説明するが、むしろ際限なく広がる可能性さえ感じた。
新3要件は、他国への攻撃でも日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、必要最小限度の実力行使を認めるとした。しかし国民にはどんな事態を指すのか判然としない。
首相は審議で新たに「明白な危険」の判断基準として、「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、わが国に戦禍が及ぶ蓋然(がいぜん)性、国民が被る犠牲の深刻性、重大性」を挙げたが、これも抽象的である。
具体例として、中東のホルムズ海峡に機雷が敷設されて石油供給が絶たれた場合や、同盟国の米国が攻撃を受けた場合は、3要件に当てはまる可能性に言及した。これで日本の存立を脅かされると判断するのであれば、限定しているとは言い難い。
審議では他国の領域での武力行使もあり得るとした。岸田文雄外相が「3要件を満たす場合には他国の領海内でも機雷掃海は許容される」と踏み込んだ。機雷掃海を「受動的、限定的」として武力行使との質の違いを強調したが、機雷を敷設した国が戦闘行為と見なし、反撃することもあり得る。
国会での集中審議は本来であれば、閣議決定前に開かれるべきだった。2日間で疑念が解消されることはないが、「容認ありき」の与党協議と違い、野党との論議は国民の不安がぶつけられ、政府の考えを引き出すことにはなった。
今回の集中審議はそのスタートにすぎない。政府は国民に説明する機会を増やし、不安や疑問に答えなければならないが、その意識は薄そうだ。
政府は行使を可能とするために必要な安全保障関連の具体的な法整備を来春以降に先延ばしするとしている。法案づくりに時間がかかるのは理解できるが、その一方で、自衛隊と米軍の軍事協力の強化を目指す日米防衛協力指針(ガイドライン)の年内改定に行使容認を反映させる考えだ。
米国とのすり合わせが先なのはいかがなものか。国民や国会の手が届かないところで再び話が進む恐れがある。審議で岸田外相は「米国に対する武力攻撃は、わが国の国民の命や暮らしを守るための活動に対する攻撃になる」と述べた。こうした姿勢では米軍の要望に応え、武力行使の一体化が進む可能性がある。既成事実が積み上げられ、法案審議のときに引き返せなくなっていないかと今から心配する。
先日、訪問したオーストラリアで安倍首相はこう語っている。
「日本とオーストラリアには、それぞれの同盟相手である米国とも力を合わせ、一緒にやれることがたくさんある。なるべくたくさんのことを諸外国と共同してできるように、日本は安全保障の法的基盤を一新しようとしている」。
国内では歯止めを強調しながら、国外では他国と歩調を合わせるような発言をしている。どちらが本心なのか。国民と正面から向き合ってほしい。(宮崎勝)