暮れの総選挙は、安倍政権が余力を持っているうちに再選を果たして、以後4年間の政権の座を確保したうえで、その期間中に念願の憲法9条の改正を行うというのが真の狙いであったといわれています。選挙の結果与党としてほぼ現状維持を果たした安倍政権は、いよいよ改憲の動きを本格化させます。
1月に召集される通常国会の会期中に、護憲を主張する共産、社民両党を除く民主、維新、公明以下の6党に参加を呼び掛けて、超党派の改憲プロジェクトチーム(PT)を設置して、16年年夏の参院選までに改憲案を作り、参院選で改憲の是非を問うというシナリオです。
しかし安倍政権の意気込みとは裏腹に、国民は憲法9条の改正などは望んでいません。
共同通信が先月末に行った世論調査では、第三次安倍内閣が最優先で取り組むべき課題(二つまで回答)に「憲法改正」を挙げた回答は5・8%に過ぎませんでした。
仮に憲法改正を発議できたとしても、国民投票で否決されれば「改憲の機運は一気にしぼむ」ことは安倍首相もよく承知していて、先月の会見でも「大切なことは国民投票で過半数の支持を得ることだ。ここがまさに正念場だ」と強調しています。
それで「まずはできるところから」改憲を実現させたい考えで、環境権や緊急事態権、財政規律に関する規定の新設などを提起し、9条の改憲はその後に行うという2段の構想ということで、その点はそれなりに周到です。
そういえば第二次安倍内閣時代には、やはり前段でまず「改憲の発議要件の緩和」を行うという構想で、「僅か3分の1の反対で改憲が阻止されていいのか」という得意のセリフを繰り返していましたが、それは国民によって拒否されたために今では口にしなくなりました。
しかし今度提起されている「緊急事態権」は非常時大権とも呼ぶべきもので、自民党改憲草案の第9章 緊急事態 第99条には、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」として、内閣が事実上の法律制定権まで持つとされています。
これこそはヒトラーを生んだ当時のワイマール憲法が認めていた「危機に際して国家元首の権限を拡大する『緊急命令発布権』」に相当するもので、ヒトラーがあの恐るべき絶対的権力を掌握した憲法上の根拠になったものでした※。
※ 2013年8月3日 ワイマール憲法下でなぜナチス独裁が実現したのか
そうした歴史的事実を振り返れば、非常時と称すれば独裁体制が敷けるという条文を国民が納得する筈もありません。
これまで安倍政権とネオナチズム(新ナチス主義)との親和性がインターネット上で語られてきましたが、ここでもやはりその類似性が確認されます。
一体何故そんなものを持ち込む憲法改正が必要なのでしょうか。改憲に血道をあげている自民党ですが、もういい加減に自分たちが国民の意識から遊離した感覚に基いていることを自覚すべきです。
それに早晩アベノミクスが破綻して惨憺たる状態が起きる惧れがあるのに、安倍首相がこの先4年間も政権の座に居座れると考えているというのも不思議なことです。
改憲の国会発議などは絶対に許すべきでありませんが、その前に国民が力を併せて退陣に追い込みたいものです。.
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国民の支持、低い中… 自民、改憲へ準備本格化
東京新聞 2015年1月3日
自民党は今年、改憲に向けた準備を本格化させる構えだ。公明、民主など与野党六党に改憲案作りを呼び掛けるほか、改憲の必要性を訴える漫画の配布も予定している。昨年十二月の衆院選で勝利した勢いで思惑通りに進めば、二〇一六年夏の参院選で改憲の是非を問うことを視野に入れるが、国民は改憲を積極的に求めておらず、支持を得られるとは限らない。(大杉はるか)
自民党の谷垣禎一幹事長は年頭の所感で「憲法改正実現に向けた議論を国民の理解を得ながら進める」と表明した。同党の憲法改正推進本部の礒崎陽輔事務局長は「参院選までに改憲案を作りたい」と意欲を示している。
改憲案の内容は、一月下旬に召集される通常国会の会期中に、超党派のプロジェクトチーム(PT)を設置して議論する方針。護憲を主張する共産、社民両党を除く民主、維新、公明、次世代、生活、改革の六党に参加を呼び掛ける。
自民党は、武力攻撃や大災害発生時の首相の権限を定めた国家緊急権の新設、改憲要件緩和の実現をまずは盛り込みたい考え。「自衛権の発動」や「国防軍の保持」を九条に明記する変更は、最初の改憲後にあらためて目指す想定だ。
だが、参院選前に超党派の改憲案がまとまる見通しは立っていない。国家緊急権の新設では、首相の権限を強化したい自民党と制限したい民主党の間に隔たりがある。改憲要件の緩和にも民主党は反対している。
政党間の協議と並んで改憲論議のカギを握るのは世論だ。安倍晋三首相は先月二十四日の記者会見で「どういう条文から国民投票を行うのか、その必要性について国民的理解を深める努力をしたい」と述べた。
共同通信の先月末の世論調査では、第三次安倍内閣が最優先で取り組むべき課題(二つまで回答)に「憲法改正」を挙げた回答は5・8%にとどまった。50%前後だった「経済対策」や「社会保障」に比べ、国民の支持は低い。このため自民党は「憲法は改正すべきだが、国民が変えようと思わないと難しい」(稲田朋美政調会長)として、改憲に理解を得る活動を始めることにした。
具体的には、すでに始めている地方各地でのシンポジウムを続けるほか、若い主婦層を主な対象にした漫画のパンフレットも作成している。三月の党大会を皮切りに広く国民に配布する予定だ。
自民、改憲に本腰 与野党試案へ3月にも協議
-慎重派取り込み実績狙う
時事通信 2015年1月3日
自民党は今年、安倍晋三首相(党総裁)の悲願である憲法改正に向けた取り組みを本格化させる。手始めとして与野党共通の改憲試案策定を目指しており、3月にも協議をスタートさせたい考え。改憲に一定の理解を示しながらも自民党の「本丸」である9条改正には慎重な公明党や、民主党、維新の党など野党勢力を取り込み、改憲の実績を作るのが狙いだ。
首相は先月24日、第3次内閣発足を受けた記者会見で、憲法改正について「歴史的なチャレンジだ」と強い意欲を表明。「まず3分の2の多数を衆参両院でそれぞれ構成する必要がある。その努力を進める」と述べた。
先の衆院選で自民党は291議席を得たが、憲法改正発議に必要な定数の3分の2(317議席)に届かなかった。しかも、9条改正に同調する次世代の党は2議席に激減。参院では、両党は議長を含め122議席と定数の半数程度にすぎない。2016年の次期参院選で改憲発議ラインの162議席を得るには、次世代が改選2議席を維持したとしても、自民党は改選議席を50から90まで増やさなければならず、ハードルは極めて高い。
◇「できるところから」実現
自民党が公明党や野党との合意形成を重視するのはこのためだ。協議の相手となりそうなのは、「護憲」を掲げる共産、社民両党を除く全党・会派。自民党幹部は「まずはできるところから」改憲を実現させたい考えで、「環境権」や緊急事態への対応、財政規律に関する規定の新設などを想定。16年の参院選前に第1弾の共通試案を取りまとめ、同年中にも国民投票に付す日程を描く。
自民党は12年、9条に「国防軍を保持する」と明記することを柱とする憲法改正草案を発表。最終的に、草案に沿った改憲を目指す方針は変えていない。ただ、与野党協議で共通試案で合意し、改憲を実現させたとしても、9条改正につなげる道筋が描けているわけではない。
政権復帰に当たり、自民党は改憲手続きを定める96条を改正し、発議要件を衆参両院の過半数に緩和するよう主張していた。だが、国民の理解は深まらず、最近は事実上封印している。
一方、各党の事情はさまざまだ。民主党は党内に改憲派と護憲派が混在し、明確な方向性は打ち出せていない。維新は道州制導入など統治機構分野の改正には積極的だが、9条改正への態度は曖昧だ。公明党は平和憲法の基本理念をはじめ現行の条文は維持し、時代の変化に合わせ新たな条項を加える「加憲」の立場を取っている。
◇世論醸成にも腐心
首相は国会での改憲勢力拡大だけでなく、国民的な理解を得る作業も重視する。憲法改正を発議できても、国民投票で否決されれば「改憲の機運は一気にしぼむ」(周辺)とみているためで、先月の会見でも「大切なことは国民投票で過半数の支持を得ることだ。ここがまさに正念場だ」と強調した。
このため、自民党は衆参両院の憲法審査会で地方公聴会を積極的に行っていくほか、改憲に向け世論を醸成するための対話集会を各地で開くことを検討している。
◇憲法改正をめぐる各党の立場
自民党 改憲草案に「国防軍」保持を明記
民主党 護憲派と改憲派が混在
公明党 平和憲法の理念堅持する「加憲」
維新の党 道州制導入を主張、9条は不明確
共産党 反対
次世代の党 自主憲法の制定主張
社民党 . 反対
生活の党 . 平和主義の理念重視
新党改革 . 改憲へ国民的議論喚起