沖縄タイムスが「病める大国・貧困大国」アメリカの年頭の一般教書を取り上げました。
オバマ大統領は今年「僅かな人だけが得をする経済」を否定して、富裕層への増税を財源とし、最低賃金の引き上げや勤労家庭の減税などの中間層支援策を打ち出すと述べました。
ご存知のとおり、アメリカでは株式など金融資産を持つ富裕層が一層富んでいくなかで労働者の賃金は上がらずに、経済格差が留まることなく進行しています。
「我々は99%の側(We are the 99%)」を合言葉にした「ウォール街占拠運動」が始まったのが2011年9月17日であることを思えば、あまりにも遅きに失しましたが、やっと正しい方向に向かおうとしています。
アメリカの現在は日本の近未来にほかなりません。
安倍首相にはそういう自覚はあるのでしょうか?
安倍政権が主張する「トリクルダウン」は、名前だけはあるもののかつて一度も実現されたことのないものです。「強欲資本主義」という言葉があるくらいです。識者が明確に否定しているものを、いかにもいずれ起きるかのように述べるというのは、国民をたぶらかす虚妄にほかなりません。
昨年4月には消費税が5%から8%へと相対比で6割もアップしたので、いまその納付に向けて中小企業や一般商店などでは塗炭の苦しみが始まっています。
「異次元の金融緩和」も、軟着陸のしようのない施策を苦し紛れに糊塗する呼び方です。いつまでも続けることが出来ない以上何処かで止めざるを得ないのですが、そのときには一体どのようなショックが襲うのか、国民は何も聞かされていません。
経済格差はいま日本でも急速に拡大しています。
格差が拡大すると貧困層では大学への進学が困難になるなどして世代を超えて固定されていくために、結局社会全体の活力が失われるとされています。安倍氏が渇望するGDPの増大も中間層が消失してしまえば決して達成されません。
アメリカの言うことには何でも従う安倍首相ですが、とりわけ今度のオバマ政権の施策こそは是非とも最優先で取り入れて欲しいものです。
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(社説)[米富裕層増税案] 富の偏り是正が急務だ
沖縄タイムス 2015年1月22日
オバマ米大統領は、年頭の一般教書演説を行った。演説時間の多くを割いたのは、国内の格差是正に向けた「中間層支援策」だった。
富裕層への増税を財源とし、最低賃金の引き上げや勤労家庭の減税、短期大学の授業料無償化など、中間層の生活を向上させる施策の実現を訴えた。
米国では経済や雇用は順調に回復しているが、労働者の賃金は上がらず、国民の多くが景気改善を実感していない。株式など金融資産を持つ富裕層と低・中所得者層の格差は深刻化している。
2011年9月には、ウォール街で経済格差の解消や富裕層への課税強化を求めるオキュパイ(占拠)運動も起きるなど、格差拡大に対する国民の不満が高まっている。
オバマ氏は演説で「わずかな人だけが得をする経済を受け入れるか、努力すれば収入が増え、機会が広がる経済を追求するのか」と述べ、国内の格差という現実に向き合う強い姿勢をみせた。
格差の拡大は、米国だけの問題にとどまらない。
国際NGOが、19日に発表した推計は驚きだ。世界の人口のわずか1%にあたる富裕層が、16年までに世界の富の半分以上を独占する見通しだ。NGO幹部は、各国首脳に対し格差問題への対応を呼び掛けるという。
今回のオバマ氏の富裕層への増税案が成功すれば、格差問題に悩む他の先進国にも影響を与えるだろう。新たな経済政策のきっかけになることを期待したい。
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格差の問題に対する人びとの関心は高まっている。フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が、膨大なデータを分析して格差問題を論じた著書「21世紀の資本」が、米国をはじめ、世界的ベストセラーになっている。
資本主義のもとでは、資産を持つ人と持たない人との格差が広がり続け、富も貧困も世襲されていく-。ピケティ氏の指摘が多くの支持を集めている背景には、社会のさまざまな分野にひずみが出ている現実がある。
富の偏りと貧困は、機会や教育の不平等を招き、社会不安を引き起こす。努力や才能を生かす機会を奪われた若者は、不満のはけ口を求める。欧州で起きている移民排斥の動きや極右政党の台頭、イスラム過激派などテロの温床になっているとの指摘は、その現れだろう。
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翻って日本はどうか。
安倍政権下で進んだ株高で、金融資産を持つ富裕層には恩恵が及んだ。一方で、過去最悪の子どもの貧困率や非正規労働者の比率が4割近くに達するなど、格差の拡大が進み、社会的な課題になっている。
大企業と富裕層を優遇するアベノミクスが目指すのは、富める者がさらに潤えば、富はしたたり落ちるように浸透していくという「トリクルダウン」効果である。
しかし、地方や家計に、その効果が及んでいるとは言えない。低所得者層への再分配策と働く人たちの賃金を引き上げ、消費を拡大することが求められる。