東京新聞神奈川版は、新年から <平和って> と題する連載で、平和への取り組みを行っている人たちを紹介しています。
8日号は、昨年のノーベル平和賞候補に「憲法九条を保持している日本国民」を推薦し、「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会の共同代表をしている主婦鷹巣直美さんを取り上げました。
鷹巣さんは、「平和活動をやっているとは思っていない。自分が(戦争に加担する)共犯者にならないよう最低限のところで踏みとどまっているだけ」、「軍事でつくる『平和』はもろく、ガラスの上で暮らすようなもの。本当の『平和』は人と人のつながりで生まれ、そこではしっかりと地に足を着けることができる」と語っています。
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<平和って>人のつながりが生む
「9条にノーベル平和賞を」と活動 鷹巣直美さん(38)
東京新聞 2015年1月8日
「憲法九条を守ることは難しいことではない。人を殺す戦争は犯罪だから、せめてそれだけはやめようということ。他人の悪口を言わないことのほうがよほど難しい」。昨年のノーベル平和賞候補に「憲法九条を保持している日本国民」を推薦した「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会の共同代表で、取り組みを発案した主婦鷹巣直美さん(38)=座間市=は語る。
二十歳からオーストラリアに滞在し、スーダン出身の男性と出会った。幼少期、内戦の影響で武装グループに襲撃され、家族離れ離れのまま難民キャンプで育ったという。自分の置かれた環境との違いに大きな衝撃を受けた。祖母が語ってくれた戦争体験が現実味を帯び、戦争の罪深さを真に受け止めるようになった。
帰国後、戦争を経験した牧師の勧めで、それまで読んだことのなかった憲法九条に目を通すと、戦争放棄の理念が掲げられていた。「戦争をしないことは誰にとってもいいことに違いない」と素直に思った。子どもが生まれると、一人の母親として、世界中の子どもが安心して暮らせるよう願うようになった。
若い世代は「平和」に無関心と言われることが多いが、鷹巣さんは違うと言う。「友人たちも『戦争は嫌だよね』と自然に口にする。これってすごいこと」と。海外では戦争が「正義」と同義語で語られることがある中、「戦争は嫌だ」という言葉が自然に出てくることは、名もない一般の人たちが七十年間、「間違いを繰り返すな」と言い続けてきてくれたおかげと考える。
九条の条文を変えようとする人もいるが、結果として、九条を保持してきた日本国民はノーベル平和賞受賞に値すると思った。受賞すれば、反戦の理念を世界に伝えることもできる。大きな挑戦だった。「何事もまず自分で試し、一人でできないことは他人に勧めない」というインド独立の父ガンジーの言葉を思い出し、誰でも気軽に参加できることから始めようと、ネットで賛同の署名を集めることから始めた。
昨年十月、受賞者の発表日。多数の報道陣が集まり、フラッシュライトに照らされた会見場で発表を見守った。受賞を逃した後、マイクを両手でしっかり握り締めた。「一歩でも二歩でも戦争がなくなるよう、世界中の人がそれぞれの立場で考え、平和を願う大きな力にしてもらいたい」。自分がやってきたことは大したことないのに、という思いが交錯した。「平和活動をやっているとは思っていない。自分が(戦争に加担する)共犯者にならないよう最低限のところで踏みとどまっているだけ」と。
昨年、集団的自衛権の行使が容認され、特定秘密保護法が施行された。「人が人として大事にされないような空気を感じる。ギスギスし、とげとげしい」。肌感覚として受け止めた上で、こう言う。「軍事でつくる『平和』はもろく、ガラスの上で暮らすようなもの。本当の『平和』は人と人のつながりで生まれ、そこではしっかりと地に足を着けることができる」。九条の理念を広めるため、今年は活動の幅を広げるつもりだ。 (寺岡秀樹)
<たかす・なおみ> 「憲法9条にノーベル平和賞を」と、2013年1月にノーベル賞委員会にメールを送り始める。同8月に実行委員会が発足し、主にネットで署名活動を開始。候補の「憲法九条を保持している日本国民」は昨年10月に受賞を逃したが、先月初めまでに署名47万筆以上が集まった。
「軍事でつくる『平和』はもろい」と語る鷹巣さん
=座間市で