安倍首相はIS(イスラム国)から脅迫され、予定を切り上げて急遽帰国しましたが、その夕刻に官邸で開かれた緊急会議はたった12分で終了しました。一体何を相談したのでしょうか。そんな短時間の会議で二人の救出策が相談されたとは思えません。マスコミ対策のために慌てて戻ってきたのでは と見られています。
首相が、「二人が拘束されていたことは知らなかったことにしてくれ」と言っているというツィートも流れています。
菅官房長官は22日の記者会見で、「政府はISと接触できていない」ことを明らかにしました。政府はISと交渉するパイプを持っていないということです。
中東問題の専門家たちがISと交渉ができる人物としてまず名前を挙げるのがイスラム法学者の中田考氏(元同志社大客員教授)です。8月に湯川氏が拘束されたときに、中田氏は解放交渉への協力を申し出ましたが、外務省は「自己責任だ、協力はいらない」と断ったということです。
ISの動画で身代金の期限を切られた後も政府からの接触は一切ないということです。
またイスラム国の軍幹部とのルートを持っているジャーナリストの常岡浩介氏も、22日に記者会見をし、「ISとの対話窓口になることを呼びかけたが、外務省や警察からは何の連絡もない」と語りました。
要するに政府はISとの交渉ルートを持っていないし、在野の確実なルートを活用しようという意志もないということです。それでは拘束されている二人は救い出せません。
元外交官でレバノン駐在大使であった天木直人氏が、ブログに「日本政府が中田考氏を活用しない理由」を書きました。
それによると一つは外務省のプライドだということですが、より決定的なのがまたしても「アメリカの意向」だということです。
また毎日新聞が、海外紙は今度の事件を「世界の舞台で存在感を高めようとする安倍首相の試みが引き起こしたもの」と見ていることを報じていますので、併せて紹介します。
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日本政府が中田考氏を活用しない理由
天木直人 2015年1月24日
今度の人質解放で、なぜ政府は中田考氏を活用しないのか、という問いが寄せられる。
確かにその通りだ。私も活用すべきだと思う。
安倍・菅政権もあらゆる手段を尽くすと言っているのだから活用しないほうがおかしい。
しかし、少なくとも現時点では、中田氏がみずからメディアに語っているように、政府からの直接の依頼はないという。
その理由は次の二つにつきる。
一つは外務官僚のプライドだ。
常日頃から活用して来た御用学者や有識者ならいざ知らず、見知らぬ民間人に重要な外交の一端をまかせるなどということはあり得ないことだ。
あの金正日総書記の料理人であった藤本氏の時もそうだ。
金正恩総書記とあそこまで緊密な関係にある藤本氏を外務省はまったく活用しようとしなかった。
もう一つの理由は、もっと重要だ。
そしてこれこそがおそらく政府・外務省が中田氏を使わない、使えない、理由であるに違いない。
その理由は米国との関係だ。
米国では、少しでもイスラム国と関係を持った国民はすぐに逮捕され刑を科される。
なぜならば、彼らこそホームグローンテロリストの危険性があるからだ。
それは当然と言えば当然だ。
なにしろ、国内の自爆テロに何度もさらされ、しかもますますその危険性が高まっているからだ。
ところが日本は幸いにもそのようなテロに遭遇した事は一度もなく、従ってまたテロに対する実感としての脅威はまるでない。
そのことと関連して、私には次のような実体験がある。
かつて私がレバノンに勤務して来た時の話だ。
反米イスラム抵抗組織であるヒズボラの親分であるハッサン・ナスララーという人物に接触することを外務省は許していた。
だから私もナスララーと直接会って話すことが出来た。
ところが米国にとってヒズボラは最も警戒すべきテロ集団だ。
その組織の親分と接触する事自体が国益に反することだ。
だから米国では政府の方針としてナスララーへの接触が禁じられていた。
おそらくある時点で米国からねじ込まれたのだろう。
その時を境に、ナスララーと接触する事が禁じられ、以来私は一度もナスララーに会うことなくレバノンを去った。
おそらく今も日本の大使はナスララーに会えないはずだ。
イスラム国と直接のパイプがあり、実際のところシリアを往復してイスラム国と交流があり、日本の若者をシリアに渡航させようと手伝っていた実績のある田中氏は、米国にとってはれっきとしたイスラム国の同志であり、真っ先に逮捕・拘留される人物だ。
そのような人物に頼み込んで人質解放をはかるなどという事は、米国が聞いたら腰を抜かすほど危険な事なのである。
今度の人質事件で米国が中田氏を使うなと安倍首相に注文をつけたかどうか知らない。
しかし、たとえそのような干渉が無かったとしても、米国の意向を忖度して政府・外務省が中田氏を使わない方針を固めていたとしてもおかしくはない(了)
イスラム国拘束 安倍首相に伴うリスク 欧米メディア見方
毎日新聞 2015年01月23日
【ブリュッセル斎藤義彦】イスラム過激派組織「イスラム国」とみられるグループが人質2人の殺害を予告し、身代金を要求した事件について、欧米メディアは、安倍晋三首相が世界で存在感を高めようとする際に避けられないリスクだとの見方を示している。
英ガーディアン紙(電子版)は20日、事件が世界の舞台で存在感を高めようとする安倍首相の試みに必然的に伴うリスクを「劇的に示した」と分析した。
中国や北朝鮮の脅威に対抗するため、米国とより緊密な関係が必要と判断した首相が憲法解釈を変え、自衛隊が国際的により積極的な役割を果たせるように動いていると指摘。国際的存在感を高めようとする動きが、中東などで米英の外交に近づこうとしているとみなされたと記した。
米インターナショナル・ニューヨークタイムズ紙は21日付の1面で、人質殺害を予告したインターネット上のビデオが「世界で新しい役割に突き進む日本を試している」との見出しで事件を報道。
平和主義の根強い日本国民が、世界の安全保障でより積極的な役割を果たそうとする安倍首相に反対するようになり、首相を悩ませる可能性もあるとの見方を紹介した。
21日付の南ドイツ新聞は、今回の中東歴訪が「(テロリストを)挑発した面もある」との識者の見方を紹介。首相が事件を政治的に利用し、憲法の平和条項をさらに空洞化させようとする可能性もあると報じた。