IS(「イスラム国」)が、後藤健二氏と湯川遥菜氏を拘束して身代金を要求したことに対して、後藤健二氏が所属していると思われる日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(写真・ビデオ関連の報道人協会)が声明を出しました。
声明は、自分たちの報道は「けっしてアメリカやイスラエルの攻撃を肯定するものではありませんでした」とし、「現在の安倍政権の戦争を肯定するかのような政策を、報道を通して批判しています」とも述べて、二人を殺さないようにISの人たちに呼びかけています。
そして日本政府にも「あらゆる中東地域への軍事的な介入に日本政府が加担することなく、反対し、外交的手段によって解決する道を選ぶように」と訴えています。
この事件でははじめに湯川遥菜氏がISに拘束され、英語のできないという湯川氏を救出する目的で後藤氏が現地に向かい(以前にもシリアで湯川氏を救出したことがありました)、同じように拘束されました。湯川氏は「民間軍事会社」経営とされていますが、彼が拘束されたときには、彼のブログや公表されている写真などから官邸との関係が噂されました。
報道では、家族に連絡が入ったのは比較的最近で、いきなり全世界にオープンな形で身代金を要求されたというような論調ですが、湯川氏が拘束されたと「外務省」から父親に告げられたのは8月の中旬で、後藤氏が拘束されたのは10月下旬ですからそんな筈はなく、例によって官邸寄りの報道と思われます。
実際には拘束された直後からいわゆる水面下の交渉が始まったのですが、官邸が全く応じなかったため、業を煮やしたISがああいう挙に出たのではないかと言われています。
「テロに屈しない」というのは米英の言い方で、彼らとしては立場上そう言うしかないのでしょう。
安倍首相もTV報道で全く同じ言い方をしていました。しかしそのことは「人質を見捨てる」ことを意味しています。
官邸はひたすらアメリカの意向を慮っているようですが、これまで中東の何処とも敵対関係になかった日本としては独自の行き方はあった筈です。政府には他国から危害を加えられた「国民を救済する義務」もあります。命の重さに比べれば2億ドルは安いものですし、以前には2千万ドルの段階もあったようです。
いずれにしてもこの段階に至るまでの過程で政府には色々とやるべきことがあった筈で、小泉内閣が登場する以前とは異なる官邸の冷酷さが顕れた事件です。
(お詫び はじめの記事で「後藤氏が所属していると思われる」と書きましたのは当方の思い違いで、後藤氏は日本ビジュアル・ジャーナリスト協会には所属しておりませんでした。同協会に対してご迷惑をお掛けしました。お詫びして訂正いたします。)
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I S (イスラム国) による日本人人質事件に対する声明
日本ビジュアル・ジャーナリスト協会( JVJA )はフォトジャーナリストやビデオジャーナリストの団体です。
私たちは、イラク戦争とその後の占領下において、米英軍を中心とした有志連合軍による攻撃がイラク市民にどんな災禍をもたらされたかを取材、テレビや新聞などで報道してきました。また、イスラエルのパレスチナ・ガザ地区への無差別攻撃に晒された市民を取材し、テレビや新聞等で報道してきました。私たちの報道はけっしてアメリカやイスラエルの攻撃を肯定するものではありませんでした。
私たちジャーナリストが、現場での取材を通して理解した戦争下の住民の現実だったからです。同時に、報道を通して私たちはあらゆる暴力を批判してきました。日本政府の戦争政策に対しても批判してきました。イスラエルのガザ攻撃に対しても、私たちは強く批判してきました。私たちは現在の安倍政権の戦争を肯定するかのような政策を、報道を通して批判しています。
現在、IS(イスラム国)が拘束している後藤健二さんには、取材の現場で会ったことがあります。後藤健二さんもまた、イラクやシリアでの戦火に苦しむ市民の現状をテレビやインターネットで報道してきました数少ないジャーナリストです。湯川遥菜さんは、私たちと直接の接点はありませんでしたが、報道によると個人的な興味から「イスラム国」に入ったようです。
私たちは、暴力では問題の解決にならないというジャーナリズムの原則に立ちます。武力では何も解決されない現実を取材をとおして見てきたからです。「交渉」を含むコミュニケーションによって問題解決の道が見つかると信じます。
私たちは、IS(イスラム国)の皆さんに呼びかけます。日本人の後藤さんと湯川さんの2人を殺さないように呼びかけます。人の命は他の何ものにも代え難いものです。イスラムの教えは、何よりも平和を尊ぶことだと理解しています。
私たちは、同時に日本政府にも呼びかけます。あらゆる中東地域への軍事的な介入に日本政府が加担することなく、反対し、外交的手段によって解決する道を選ぶようにと。
2015年1月20日
日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)