2016年5月1日日曜日

緊急事態条項 不要 現場に権限を 東北被災3県で1町を除き

 毎日新聞が東日本大震災で被災した自治体に対して行った緊急事態条項についてのアンケートに、岩手、宮城、福島の3県17市町村が回答を寄せました。
 それによると、「財産の処分などは現行法で整理が可能」仙台市)、「条項は、震災対応には直接的には影響はないと思う」(岩手県野田村)「国は国益優先、混乱防止、秩序維持のためであれば一人一人の命は後回しになる」(福島県川内村)などと殆どは『不要』だとしています。
 「必要だと感じた」は宮城県女川町のみでした。
 
 この度の熊本大地震を見ても、国には震災の後始末をする対応能力などないことは一目瞭然なので、国は必要な予算処置を行って当該の自治体を支援することに徹するべきです。
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緊急事態条項 現場に権限を 国に強い不信感も
毎日新聞 2016年4月30日
東日本大震災 42自治体アンケート 
 災害時は国より自治体の権限強化を 。東日本大震災で被災した自治体の多くが、憲法改正の主要テーマである緊急事態条項の必要性に疑問を呈している。震災を契機に同条項を求める声が高まった経緯があり、自治体の声は憲法改正論議に影響を与えそうだ。【川崎桂吾、関谷俊介】 
 
 毎日新聞がアンケートで緊急事態条項について自由に意見を求めたところ、17市町村が意見を寄せた。 
 津波被災地ではがれきが救助を阻んだケースがあり、「私有財産が障害となり救助が遅れた」という主張が同条項必要論の根拠の一つとなっている。 
 だが、仙台市は「財産の処分などは現行法で整理が可能」(減災推進課)と回答した。「住民が何で困っているのか、地域において優先課題が何なのかを見ながら、現場が必要な予算や権限を持って行動に移せるようにすることが求められている」としている。 
 岩手県野田村も「条項は、震災対応には直接的には影響はないと思う」(総務課)。役場庁舎が津波被害を受けた同県大槌町は、条項があっても「大災害で情報手段が途絶した場合に果たして機能するのか疑問」(危機管理室)と回答した。 
 原発事故で避難を強いられている福島県川内村は、原発事故時に放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)を例に挙げた。原発事故直後、国が混乱を避けるためSPEEDIの公表を控えたことを巡り、同村は「国は国益優先、混乱防止、秩序維持のためであれば一人一人の命は後回しになる可能性が高く、正しい判断をするとは限らないことを学んだ」(住民課)と批判。「緊急事態条項よりも、災害救助の実施権限は市町村などの現場に下ろしてほしい」とした。 
 
 回答自治体で唯一、同条項が必要だとした宮城県女川町は、高台移転の際、権利が複雑化し土地取得が困難だったことなどを挙げ、「緊急時や震災復興などスピードが要求される局面で財産権のあり方が現行法制度に位置づけられていない」(企画課)と指摘した。 
 岩手県陸前高田市も復興過程で「超法規的対応が可能な制度が必要だ」(企画政策課)としたが、「国に権限を集中させるのではなく、逆に国の権限を都道府県に、都道府県の権限を市町村に移すことを求めたい」とした。 
以下質問事項・回答市町村名等 省略
 
 
緊急事態条項 被災3県で「必要」1町
毎日新聞 2016年4月30日
岩手、宮城、福島 初動「現行法で可能」大半 
 憲法改正の主要テーマである「緊急事態条項」を巡り、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の42自治体に初動対応について聞いたところ、回答した37自治体のうち「条項が必要だと感じた」という回答は1自治体にとどまった。震災を契機に条項新設を求める声が政府内外で高まっていたが、被災自治体の多くは現行の法律や制度で対応できると考えている。 
 
 憲法改正の是非が夏の参院選の争点に浮上し、緊急事態条項は安倍晋三首相が改憲のテーマと考えているとされる。5月3日の憲法記念日を前に毎日新聞は今月、岩手12市町村、宮城15市町、福島15市町村の担当部署にアンケートを送付。37自治体が回答した。 
 初動対応で「もっと適切に対処できたと感じる場面があったか」と聞いたところ、30自治体が「あった」と回答。この30自治体に対処が不十分だった原因を選択肢(複数回答可)で聞くと、(1)「震災の規模が事前の想定を超えていた」が26自治体と最も多く、(2)「法律制度に不備があった」が5自治体、(3)「憲法で保障された個人の権利(移動や経済活動の自由、財産権など)が障害になった」は2自治体、(4)「その他」は3自治体だった。 
 大半は(1)を選び、初動対応が不十分だった理由として「災害業務を把握していない職員が多く、指揮命令系統も不明確で、円滑な業務遂行に支障をきたした」(福島県いわき市危機管理課)など事前の準備や制度運用の課題を挙げた。 
 
 一方、緊急事態条項にかかわる(3)を選んだのは、宮城県女川町と岩手県岩泉町だった。東北電力の原発を抱える女川町は唯一、同条項を「必要だと感じた」と回答。「財産権が発災初動期・復旧復興期に大きなハードルとなっている」(企画課)とした。岩泉町は初動対応ではなく復興過程で財産権に絡む問題があったとしたが、「特例法で対応できた」(総務課)と同条項の必要性は否定した。 
 (2)は原発事故で避難を強いられた福島県の浪江町や双葉町などが選び、役場機能の喪失や長期避難にかかわる支援の必要性を訴えた。(4)は岩手県大船渡市などで、被害想定などにかかわる理由を挙げた。 
 
 緊急事態条項を巡っては2013年5月の衆院憲法審査会で、自民党の中谷元(げん)議員(現防衛相)が「車とか家屋などが散乱していても所有者を確認しないと勝手に動かせないので、人の命を救うのに時間的なロスがある」と、震災に絡めて必要性を説いた。これに対し、災害に詳しい弁護士らは「災害対策基本法や災害救助法は緊急時の首長らの権限強化を定め、個人の権利は障害にならないはずだ」と反論している。【川崎桂吾、関谷俊介】 
 
緊急事態条項 
 大規模な災害や有事などで国が緊急事態を宣言し、人権保障や権力分立などの憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限(国家緊急権)を定めた条項。緊急事態が宣言されると政府に権限が集中され、個人の権利の強い制約が可能となる。2012年の自民党第2次憲法改正草案に盛り込まれた。