政府は、重大犯罪の計画を話し合うだけで罪に問えるようにする「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を、9月召集の臨時国会に提出する検討を始めました。
共謀罪は、犯罪の行為ではなく合意するだけで処罰するというもので、警察・検察側が拡大解釈・乱用する可能性が高く、犯罪行為があって初めて罰する現行の刑法原則から大きく逸脱しています。このため03~05年に3回に渡って国会に提出されましたが、国民の強い反発で廃案となりました。
今回安倍政権がまとめた政府案は、共謀罪を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称変更し、「テロ対策」が目的であることを強調し、多少の「準備行為」を伴うことをその犯罪要件に加えました。しかし「準備行為」などという曖昧なものが歯止めになるとするのは無理な話です。
どんなものが共謀罪とされる可能性があるかについては、東京新聞が「4度目の不安」として、身近に起こり得る多くの事例を挙げています。
また共謀罪は国際組織犯罪防止条約を批准するために立法化する必要がある、というのが政府のこれまでの説明でした。今回も当然同条約の批准に絡めてくると思われますが、海渡雄一弁護士によれば、そもそも同条約はテロリズム対策のものではなく、条約第2条の立法ガイドにおいて、「政治的,宗教的なテロリズムを除外する」ことが明記されているということです。そして共謀罪なしに同条約を批准することは可能なので、批准のために共謀罪の成立を要求することは出来ないとしています。
なお、海渡氏の論文は長文のためごく一部を抜粋しました。原文には記載のURLでアクセスしてください。
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共謀罪 名称変え提出検討 テロを口実 法案策定
対象・要件 解釈次第で拡大
しんぶん赤旗 2016年8月27日
実際の犯罪行為がなくても相談し合意しただけで犯罪とされる共謀罪について、政府は、名前を変えた新たな法改定案を策定したことが26日までに分かりました。2020年の東京五輪や「テロ対策」を口実としたもので、9月召集の臨時国会への提出を検討しているとみられます。国民の強い反対で過去に3回も廃案になった最悪の国民弾圧法を執拗(しつよう)に狙う姿勢に強い批判と懸念の声があがっています。
今回まとめられた政府案は、組織犯罪処罰法を改訂し、そのなかに盛り込まれた共謀罪の罪名に「テロ」を冠して「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変更。「テロ対策」が目的であることを強調しています。
過去に廃案となった法案では、適用対象を「団体」としており、労働組合や市民団体に適用される恐れがあると批判されました。それを意識して今回は「組織的犯罪集団」が対象と変更しています。
また、「相づちを打っただけで犯罪になる」といった懸念を打ち消すため、犯罪の計画に資金の提供などの具体的な「準備行為」を行うことを犯罪の構成要件に加えました。
しかし、「組織的犯罪集団」や「準備行為」といった言葉の定義は極めてあいまいです。捜査当局の解釈次第でいくらでも拡大され、市民への弾圧に悪用される恐れが十分にあります。
共謀罪が適用される罪は過去に廃案となった法案と同様で「法定刑が4年以上の懲役・禁錮の罪」です。その範囲は、道路交通法や公職選挙法なども含まれ600を超えるとみられます。
そもそも共謀罪は、犯罪の行為ではなく合意するだけで処罰するというもので、犯罪行為があって初めて罰する現行の刑法原則から大きく逸脱しています。
共謀罪の捜査も日常的な会話やメールの内容から「合意」を判断することになります。そのため改悪され対象が広げられた盗聴法を根拠に通信傍受などの市民監視もさらに強まります。
「共謀罪」新設案 市民監視 4度目の不安
東京新聞 2016年8月27日
計画を実行しなくても、犯罪を行うことを話し合い合意しただけで処罰される「共謀罪」。「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を変え、組織犯罪処罰法に趣旨を盛り込む形の政府案が来月、国会に提出される可能性が出てきた。共謀罪の導入を目指す関連法案は過去にも三度提出されたが、批判や不安が噴出して廃案になった。「四度目」への動きが判明した二十六日も、市民団体などは「活動を監視する恐怖政治」「テロ対策や東京五輪を口実にして姑息(こそく)」と強く反発した。 (大平樹、北川成史、辻渕智之)
「私たちの日々の抗議行動が対象になりうると怖さを感じる」。沖縄平和運動センターの岸本喬(たかし)事務局次長(53)は恐怖感を語る。
沖縄県では米軍の新基地やヘリコプター離着陸帯の建設に反対し、資材搬入車両を止めようと県民らが座り込みのデモも辞さない。「今でも道路交通法違反だからと強制排除される。(組織的)威力業務妨害罪の恐れがあると警察から言われたこともある。計画しただけで、すぐに適用されかねない」
今回の政府案は適用対象を「組織的犯罪集団」と定め、「準備行為」を犯罪の構成要件に追加。罪名も対テロを前面に出す。岸本さんは「たとえば(米軍の)武器についてネットで調べただけで、武器調達の準備行為と認定されることだってありうる」と危ぶむ。「テロ対策や東京五輪に名を借り、安倍政権が姑息な方法で物言わぬ民をつくろうとしているようだ」とため息をつく。
二〇〇五年に三度目の法案が提出された際、反対の署名運動で市民団体の呼び掛け人になった山脇晢子(せいこ)弁護士は「『組織的犯罪集団』も『準備行為』も『テロ』も定義があいまいで、捜査機関の解釈次第。一般の人が『われわれは大丈夫』と感じるように見せ掛けているだけ」と批判する。
経済産業省前から二十一日に撤去された「脱原発テント」運営メンバーの木村雅英(まさひで)さん(68)=東京都八王子市=によると、今後の活動内容を話し合っている際、冗談で「これって共謀罪に当たるよね」と話題になったこともある。「共謀」の立証には、監視や盗聴の強化が欠かせない。「安倍政権は原発や安保法制など、多くの国民が疑問に思っていることを強引に進めている。反発する人たちを共謀罪で押さえ付けるなら恐怖政治だ」と訴える。
米軍横田基地(東京都福生市など)に反対する「横田基地問題を考える会」代表世話人の島田清作(せいさく)さん(78)は「最近の市民運動は、自分の意志を示そうと穏やかに考える人たちの集まり。刑事罰があるというだけで、参加を思いとどまらせ、運動を萎縮させるのでは」と懸念する。
◆徹夜の団交決定、抗議の座り込みでも…?
過去三回廃案になった関連法案に盛り込まれた共謀罪について、政府による三回目の国会提出直後の二〇〇六年、日弁連は共謀罪が導入されると具体的にどのような行為に適用される可能性があるのか、事例を挙げて問題点を指摘した。
それによると、倒産情報のある会社の労働組合の執行委員会が、退職金の保証を求めて社長と長時間に及ぶ徹夜団交も辞さないと決定した場合は「組織的監禁罪の共謀罪」、マンション建設に反対する住民団体が、資材搬入を止めるため現場に座り込むことを決定した場合は「組織的威力業務妨害罪の共謀罪」、会社の経理課職員が決算時、利益を隠すため経費を水増しし、売り上げを過少計上することなどに合意した場合は「法人税法違反の共謀罪」がそれぞれ適用される恐れがあった。
2 組織犯罪条約はテロ対策とは無関係
テロ対策を名目とする共謀罪法案に反対する!
http://nohimituho.exblog.jp/26141286/
海渡 雄一 2016年8月26日
(弁護士・秘密保護法対策弁護団共同代表)
(前 略)2 組織犯罪条約はテロ対策とは無関係
テロ対策を口実として共謀罪法案を国会に提案することに、次の点から反対する。
① テロ対策のための法制度は完備しており、新たな対策は必要ないし、単独犯によるテロについては、共謀罪は有効性がない
② 国連越境組織犯罪防止条約は経済目的の組織犯罪を適用対象としており、宗教的・政治的目的のテロ対策は条約の目的となっていない。
③ 共謀罪なしに国連越境組織犯罪防止条約を批准することは可能であり、国会の承認は完了しているので、すみやかに共謀罪を制定することなく、条約の批准手続を進めるべきである。
3 国連越境組織犯罪防止条約はテロ対策と無関係である
(1)条約の目的は経済的な組織犯罪の取り締まりに限定されている
自民党小委員会案と最近の自民党・政府の共謀罪制定に関する議論の第1の根本問題は,正面から「テロ対策」を根拠にしたことである。
そもそも国連越境組織犯罪防止条約が規制の対象としている「越境組織犯罪」とは国境を越えて活動しているマフィアや麻薬の密輸,人身売買などを繰り返している集団の行う経済犯罪である。このような越境組織犯罪に国際社会が立ち向かうために準備されたのが,同条約である。同条約はテロリズム対策のものではない。
国連越境組織犯罪防止条約第2条は「組織的犯罪集団」の定義として,「金銭的利益その他の物質的利益」を得ることを目的として重大犯罪を行うことを目的とした団体であるとされ,立法ガイドにおいても政治的,宗教的なテロリズムを除外することが明記されている(パラグラフ59)。テロリズムは,組織犯罪ではないということが国連条約における重大な前提となっているのである。
(2)日本政府は国連のテロ対策条約を実施している
(後 略)