2016年8月5日金曜日

『あさイチ』で井ノ原、有働らが戦争への危機感を表明

『あさイチ』でイノッチ、有働由美子らが戦争への危機感を表明し
「叩かれても黙らない」とタブーに抵抗を宣言
NHK NEWS WEB 2016年8月4日
 広島への原爆投下から71年目を明後日に迎えるが、そうしたなかで、きょう放送されたNHK『あさイチ』が話題を集めている。というのも、放送中には画面右上に大きく「戦争はイヤだ」というテロップが躍り、憲法9条の改正が議論にあがるなかで現代の戦争を考えよう、という特集だったからだ。
 
 しかも、番組は戦渦から日本に逃れてきた外国人に話を聴くという趣旨だったが、それは日本の現状に警鐘を鳴らす内容でもあった。
 たとえば、司会のイノッチこと井ノ原快彦は、「きょうは何を話すべきかってことなんですよね、ぼくらが」と力強く語り、現在の日本のなかで感じる危機感をこのように口にした。
「いつ(戦争は)起きてもおかしくないっていうのを、もうちょっとリアルに想像できるかなって」
 「たとえば日本でひとつの流行が起こったときに、誰が止められるかっていえば、誰も止められないじゃないですか」
 「(大きい流れに)なっちゃったら誰にも止められない、治まるのを待つしかない」
 
 先の戦争がそうだったように、戦争への熱狂が扇動されれば、終わるまでは誰にも止められなくなってしまう。しかも、いまの日本では「積極的平和主義」という言葉のもとに武力攻撃を正当化している。そんななかで井ノ原は、戦争はすぐ身近なところにあり、大きな流れに乗ってしまうことの恐ろしさを訴えたのだ。
 さらに番組では、VTR出演したミャンマー人の女性が「銃を持って戦うことだけが戦争ではない。言いたいことを言えないことも戦争」と言い、ビルマにおける軍事政権の言論弾圧の実態を語ると、それを受けてNHK解説委員の柳澤秀夫はこんな話をはじめた。
 
「メディアで伝える立場にあるぼくらの仕事っていうのは一体何なのかなって、やっぱり考えなきゃいけない」
 「目の前にある現実が一体何なのかなって立ち止まって、そこから『本当なのかな? これひょっとしたら嘘かもしれないな』って、それをチェックしていくのがぼくらの仕事だと思うんだよね。で、右から左にきたものをそのまんま『こうですよ』って垂れ流すのは、ぼくらの仕事を果たしていないと思う」
 完全に安倍政権の広報放送局に成り下がったNHKの番組で、まさに自社の報道批判とも言える発言だが、他の出演者も、メディアの萎縮によって社会に醸成されつつある“空気”に、次々に疑問を投げかけた
 
 たとえば、井ノ原は「(政治の話題が)若干タブーな感じ」と言うと、ゲストのマキタスポーツも、「そうこうしているうちに、タブーがどんどんどんどん拡張していって広まっていくうちに、大事なことが進んでいっちゃってるような気もしますよね」と指摘した。
 また、司会の有働由美子も、“空気を読んで自分の言いたいことを封印することで、大きな空気に加担してしまうのが怖い”と感想を述べたのだが、ここで井ノ原は有働に「有働さんみたいな人、ぼくもそうだけど、バーって喋る人は、喋ったらいいと思うんですよね」と語りかけた。すると有働は「叩かれてもね」と返答し、井ノ原も「叩かれてもいい」と胸を張った。
 叩かれたとしても、大きな流れに与することなく言いたいことは言う。──こうした番組出演陣とスタッフの覚悟があるからこそ、『あさイチ』は弱腰のNHKにあって、弱者切り捨ての貧困や、他の情報番組では少しもクローズアップされない沖縄、戦争などの問題にも踏み込んでこられたのだろう。とくに、そうした覚悟が感じられたのは、井ノ原のこんな言葉だ。
  
 「まわりから『そんなこと言わないほうがいいんじゃない?』と言われるような、そういう人がいなくなるのがいちばん怖い」
 
 柳澤は、「戦争ってよくはじまるときに『正義のための戦争』って言うけど、ぼくは戦争っていうのは形容詞つかないと思うんですよ。戦争は戦争。戦争が一度はじまってしまったら、人が人を殺す現実しかないってつくづく思う」と戦争の本質を語れば、井ノ原は「毎日、朝ドラ観たいじゃないですか。で、観ながらああだこうだ言いたいし」と“ただ暮らしを守りたい”という生活者としての戦争に反対する素直な感想を口にした。──こうしたトークはとてもシンプルな、平和を考えるうえで当然のメッセージだ。しかし、この特集がはじまった際の、いつもより張り詰めた有働の表情からも“これくらいの内容”でさえ現在のNHKでは放送に緊張が伴うことが見てとれた。
 
 だからこそ、「叩かれても黙らない」とあらためて放送中に誓い合った井ノ原や有働には、大きなエールを送りたい。ふたりと柳澤にはこれからも、「戦争はイヤだ」という当たり前のことを当たり前のこととして、堂々と伝えつづけてほしい。そしてぜひ今度は、憲法改正に正面から切り込んでほしいと思う。 (水井多賀子)