稲田防衛相は24日、強行成立させた安保法制に基づく自衛隊の新任務、すなわち自衛隊から離れた場所で襲撃されている他国軍要員などのところへ加勢・支援に向かう「駆けつけ警護」や、宿営地の共同防護などを想定した訓練に全面的に着手していくと表明しました。
アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に11月から派兵予定の陸上自衛隊11次隊への最初の任務付与に向けた対応です。違憲が指摘されている安保法=戦争法は成立から一年足らずで自衛隊の新任務の訓練に入り、運用されることになります。
2004年、小泉内閣時代にPKO活動で自衛隊をイラクに派遣した際に、官房副長官補としてその要綱をまとめた柳沢協二さんは、東京新聞のインタビューに答えて「最悪の事態として反撃されて隊員に犠牲が出たとき、それでも活動を続けるのか。『死んだからもうやめます』とは言えない。現地の状況が変わらない限り、いつまでも関与していくことになる。駆け付け警護で命を懸けることの意味が問われている」、「国民は本当に納得しているのか」と語りました。
しんぶん赤旗と東京新聞の記事を紹介します。
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戦争法 危険な新段階 駆けつけ警護 PKO訓練開始
集団的自衛権 日米共同訓練で
しんぶん赤旗 2016年8月25日
稲田朋美防衛相は24日の記者会見で、昨年9月に成立を強行させた安保法制=戦争法に基づく自衛隊の新任務の訓練を全面的に着手していくと表明しました。治安情勢が悪化しているアフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に11月から派兵予定の陸上自衛隊11次隊へ最初の任務付与が狙われており、戦争法は本格的な運用に向けて新段階に入ります。
新任務 11月にも
安倍政権は今年3月の施行以来、7月の参院選での国民の審判を恐れ、新任務の付与や訓練をひたすら先送りし、選挙戦でも争点隠しを徹底してきました。9月に召集される臨時国会でも、政権の対応が重大な焦点となります。
新たな任務は、戦争法の一部である改定PKO法に基づいて、自衛隊から離れた場所で襲撃されている他国軍要員などのところへ加勢・支援に向かう「駆けつけ警護」や、宿営地の共同防護を想定。これまでの自己防護を超える、任務遂行のための武器使用が可能になることで、海外で「殺し殺される」違憲の武力行使に至る危険が高まります。
稲田防衛相はこれらの新任務を含む派兵準備訓練を、25日から順次、開始すると説明しました。
南スーダンPKOへの11次隊は、陸自東北方面隊の傘下にある第9師団を中心に編成される方針。同師団第5普通科連隊(青森駐屯地)の約40人は5月にモンゴルであった多国間共同訓練カーン・クエストの場で、新任務に近い訓練を実施・視察しており、同隊や、海外派兵を専門とする中央即応集団の各部隊が主力になるとみられます。
稲田氏は11次隊への新任務の付与については、「今後検討していくことになる」と述べるにとどめました。
また、集団的自衛権の行使などを想定した日米共同訓練も、10月以降に実施する方向で調整します。
日米両政府は10~11月、陸海空の各部隊による共同統合実動演習「キーン・ソード」を実施。11月には、共同指揮所演習「ヤマサクラ」を行います。
これまでは日本に対する武力攻撃を想定した訓練が行われてきましたが、今回は他国が攻撃を受けた「存立危機事態」「重要影響事態」などの事態も想定し、集団的自衛権の行使を含む米軍と自衛隊の連携を確認します。
「青森の青年 戦場に送るな」 会が声明
青森市の陸自第9師団第5普通科連隊が「駆けつけ警護」など戦争法の最初の新任務を担うとの発表を受け、青森県の「戦争いやだ、憲法まもれ!県民の会」(奥村榮代表)は24日、抗議声明を発表しました。
今年5月、青森の自衛隊が11月から南スーダンPKOへ派遣されることが地元紙で報道されてから、同会は宣伝や集会などで、「戦争法の最初の担い手が青森の青年・自衛隊員になってしまう。『戦争法廃止、自衛隊を戦場に送らせない』の声を広げよう」と訴え続けてきました。
この訴えに市民の反応も変化を見せました。宣伝に駆け寄り「息子が自衛隊員で心配だ。戦争は絶対だめだ」「娘は就職する所がなくて自衛隊に入隊した。戦争にいくためじゃない」など自衛官家族からも悲痛な声が寄せられていました。
声明では、戦争法を「発動させないたたかい」が求められている。自衛隊の派遣を許さず、「殺し、殺される」事態をくい止めるため、総力を結集したたかうことを宣言しています。
柳沢協二さんのウオッチ安保法制 犠牲出てもやめられない
東京新聞 2016年8月25日
安全保障関連法に基づく訓練開始の決定を受け、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への派遣部隊が二十五日から訓練を始める。駆け付け警護が新たな任務として付与された場合の安全性について、柳沢協二さんに聞いた。
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駆け付け警護は、自衛隊が武器を使って国連職員らを救出する場合、何が起きるのか誰にも想像できない。自衛隊はPKOの派遣先で、交戦状態に入った経験がないからだ。
最悪の事態も想定しなければならない。反撃されて隊員に犠牲が出たとき、それでも活動を続けるのか。「死んだからもうやめます」とは言えない。現地の状況が変わらない限り、永遠に関与していくことになる。
駆け付け警護で人に危害を加えることができるのは、自身の正当防衛や、警護対象の国連職員らが殺されようとしているのを防ぐ場合。実際問題として相手より先に攻撃することが必要だが、自衛隊は(本来的に)先制攻撃はできない。そういう部隊が駆け付け警護という任務をもって展開することが、現地の人や国連にとって迷惑でないのかも考えないといけない。
私が小泉内閣の官房副長官補だった二〇〇四年に始まった自衛隊のイラク派遣の際、官邸や与党の幹部は「隊員には何とか銃弾を撃たずに戻ってきてほしい」と思っていた。
駆け付け警護で命を懸けることの意味が問われている。「こういう国益がかかっている」という説明が政府からあり、それを国民が納得したのでなければ、犠牲者が出た場合に国民から大きな反応があると思う。 (聞き手・新開浩)