安全保障関連法が3月に施行され、今後は自衛隊員が海外で戦闘の場に立たされる可能性があります。
しかし自衛隊員は入隊時に戦闘の場での活動に服する宣誓などはしていません。それなのに今後は安保法によって海外で戦闘に巻き込まれることになるのであれば自衛隊員にとって契約違反となります。
今年3月、現役の自衛隊員が「安保法に基づく防衛出動は違憲」であるとして、国を相手に東京地裁に提訴しました。
戦後71年目の夏を迎え、中日新聞が、その問題について元自衛隊員や自衛隊の家族の思いを取材しました。
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<戦後71年 夏> 海外での戦闘、宣誓してない
中日新聞 2016年8月15日
◆安保関連法で岐路
自衛隊員は入隊時に「服務の宣誓」をする。「我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を順守し(中略)国民の負託にこたえることを誓います」。解釈改憲で集団的自衛権の行使が可能となり、安全保障関連法が3月に施行された。「守る」と誓った憲法の根幹が変わり、自衛隊もまた、岐路に立つ。
◆自衛隊員らに強い危機感
「だまされたと思った」。元自衛官の池田頼将さん(44)=名古屋市熱田区=が振り返る。イラク特措法でクウェートへ派遣中の二〇〇六年、米国の民間軍事会社の車両にはねられて大けがを負い、今も後遺症に悩まされる身だ。
派遣先の現実は、小泉純一郎首相(当時)が派遣の条件として語った「非戦闘地域」からは程遠かった。到着直後のバス移動では「隊員が乗っていると分かれば自爆攻撃をされる。カーテンを開けるな」と言われ、基地周辺にはイラク軍の侵攻時に敷設されたとみられる地雷が残っていた。
宣誓時に池田さんが想像した「国民の負託にこたえる」とは、災害支援を中心とした任務だ。海外の「歩くのも怖い場所」で活動するために宣誓したつもりはない。
元自衛官の水上学さん(42)=同区=も「所属し続けていたら、自分も海外に派遣されたかもしれない」と思う。
一九九二年から十年間所属した航空自衛隊で、輸送計画づくりや大型車の運転などに携わった。安保法に基づいて海外に派遣されれば、他国部隊や武器弾薬を運ぶ計画立案や、車両の運転に関わることになりかねない。「宣誓した時、隊員は海外で戦闘に巻き込まれることまでを受け入れたわけではない。安保法は契約違反です」
実際、現役隊員からも声が上がった。安保法に基づく防衛出動は違憲として今年三月、国を相手取り東京地裁に提訴した。原告の隊員は「入隊時に、集団的自衛権の行使となる命令に従うことには同意していない」と主張する。
池田さんを支援する秋田光治弁護士(67)は「現場から声が上がるのは、なかなかない。現役隊員にも危機感が出てきているのでは」と話す。
隊員家族の胸中も揺れる。岐阜基地に勤務経験がある空自隊員の妻は「自衛官だから命を危険にさらすのは仕方がないと納得する面と、本当に死んだらどうしようという心配が半々」。
隊員や家族の電話相談窓口を設けた北海道合同法律事務所の佐藤博文弁護士(62)は「上官から『弁護士に相談するな』『親が相談すれば昇進に影響する』と言われ、隊員らが外と遮断された状況になっている」。派遣で増えるリスクを正面から議論して、隊員や家族の不安に応える必要性を強調する。
戦後七十一年。平和国家の安保政策を大転換させた安倍政権は、自衛隊員のリスクを十分に語ることなく、本格的な改憲へ向けて走りだそうとしている。(竹田佳彦)