都知事選の評価に関する五十嵐仁氏と植草一秀氏のブログを紹介します。
五十嵐氏は都知事選はどのような視点から総括されるべきかについて、鳥越候補に加えられたネガティブキャンペーンに対してより効果的に反撃し、選挙への悪影響を最小限に抑えるためにどう対応すればよかったのか総括すべきとし、連合東京が自由投票ということで組織として動かなかったことについても、より効果的に総力を結集するためにはどうすれば良かったのかを考えるべきだとしました。
そして宇都宮氏の選挙後を含めた発言に関しては、今後の運動において宇都宮氏自身にとってもプラスになるとは思えないとしたものの後ろ向きの総括であってはいけないとし、一番の問題はもっと早くから準備をして「もっと頑丈な小屋を建てる」ことであった、いずれにしても選挙の総括において分裂を引き起こして後退するようなことになれば、選挙での敗北に加えてさらにもう一度敗北することになるとしました。
植草氏のブログは「野党共闘を成功させるための条件」と題したもので、大きな敵に立ち向かうには「小異を残して大同につく」対応が必要で、その「大同団結」を生み出すには、「正当なプロセス」が必要であるとしています。そしてその正当なプロセスを経るにはしかるべき時間が必要で、どたばたで候補者を決定しようとすれば、「正当なプロセス」が踏めなくなると述べています。
そしてもうひとつ見落としてならないことは「正当な理念」を掲げることで、平和主義堅持、原発稼働ゼロ、TPP不参加、米軍基地建設NO!、消費税増税中止の政策路線を明示し、この政策路線の下に「統一戦線」を構築することが必要であるとして、最大の焦点である衆議院総選挙に向けて、小選挙区の候補者一本化をいまから始動させるべきであると述べています。
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東京都知事選挙はどのような視点から総括されるべきか
五十嵐仁の転成仁語 2016年8月3日
都知事選挙の結果について、ネットなどで様々な意見や総括が飛び交っています。とりわけ野党共闘と市民が擁立した鳥越さんが直前の参院選で得た野党各党の合計票を大きく下回ったために、陣営内部での対立や紛糾が生じているように見えます。
選挙の総括をめぐって事実認識や見解の相違が生ずるのはやむを得ないことですが、それが対立や分裂を生むことになっては困ります。この点を憂慮しつつ、都知事選挙はどのような視点から総括されるべきかについて、私見を述べさせていただきます。
まず、基本的な視点です。今回の都知事選挙で有力3候補の1人を擁立して当選を目指し、カヤの外での独自の闘いを避けることができたことを評価したいと思います。
それが可能だったのは、第1に、鳥越俊太郎という知名度のある素晴らしいジャーナリストが立候補を決断したからであり、第2に、民進党を含む野党と市民との共闘が実現して協力体制を組むことができたからであり、第3に、宇都宮さんの苦渋の決断によって分裂選挙を避けることができたからです。この3つの条件が揃わなかったら、野党共闘を成立させて当選を争う有力候補の一角に食い込むことは難しかったかもしれません。
もちろん、選挙についてのきちんとした総括が必要であることは当然ですが、個人攻撃や誹謗・中傷にならないように十分に留意するべきです。あくまでも総括は団結を固めて前進するためになされるもので、団結を弱めて後退するような形になっては元も子もありません。
第1に、今回の野党共闘と市民の統一候補となった鳥越さんは良く立候補したと思います。私も八王子市長選挙に立候補し、候補者活動がいかに過酷なものであるか、身をもって体験しましたから、その決断と勇気を高く評価したいと思いますし、これによって与野党相乗りや民進党の共闘からの離脱を防ぐことができました。
惜しむらくは、年齢が高く健康面での不安を払しょくできなかったこと、出馬表明が遅かったために準備が不十分で、政策面で練られた対応を行えなかったことです。これらを含めてすさまじい個人攻撃の嵐が吹き荒れ、週刊誌による女性スキャンダルについての報道もありました。
これらについての事実確認や対応の仕方についての検証は必要だと思います。しかし、その場合でも、より効果的に反撃し、ネガティブキャンペーンの選挙への影響を最小限に抑えるために何が必要だったのか、どう対応すればよかったのかという視点から総括されるべきではないでしょうか。
第2に、野党と市民の共闘による知事選挙が実現したことの意義を高く評価しなければなりません。統一候補の擁立は1983年の社共統一候補だった松岡英夫さん以来のことでしたが、今回は民進党、日本共産党、社民党、生活の党と山本太郎となかまたちの国政4野党に、東京・生活者ネットワーク、新社会党、緑の党グリーンズジャパンを加えた7党の共闘で、しかもこれに市民も結集したものでした。
とりわけ、この共闘に民進党が加わり、国政レベルでの4野党共闘が維持されたことの意義は極めて大きなものがありました。それを実現するうえで発揮された岡田執行部のリーダーシップを高く評価したいと思います。
惜しむらくは、連合東京が自由投票ということで組織として動かなかったこともあり、野党の総力が結集される形にはなりませんでした。この点でも問題点や不十分な点を検証することが必要ですが、互いに相手を非難するような総括は避け、より効果的に総力を結集するために何が必要だったのか、どうすれば良かったのかという視点を貫くべきではないでしょうか。
第3に、宇都宮さんも立候補辞退を良く決断したと思います。立候補を表明したのは告示3日前というギリギリの時点で、その直後に鳥越さんの立候補表明をうけて辞退したために準備してきたポスターやビラなどすべてが無駄になり、多額の損失を出したにちがいありません。
それにもかかわらず分裂を回避するための苦渋の決断を行ったことを高く評価したいと思います。悔しい思いもあったでしょうし、支援者を説得するのも大変だっただろうと思います。
惜しむらくは、鳥越・宇都宮がタッグを組んで二人三脚で選挙を闘うことができず、宇都宮さんが最後まで鳥越さんの応援演説に立たなかったことであり、選挙が終わってから経過について微妙な発言を行っていることです。もちろん、すでに終わったことだから口をつぐめというわけではありませんし、宇都宮さんには当事者の一人として事実はどうであったのかを明らかにし、どこに問題があったのかを検証していただきたいと思います。
その場合でも、鳥越さんの擁立に至る経過を宇都宮さんが「独裁」と発言しているのは残念ですし、橋下さんの番組にまで出て批判することが今後の運動にとっても、宇都宮さん自身にとってもプラスになるとは思えません。支援者間の非難合戦にならないように配慮しつつ、宇都宮さんの決断を生かすためにはどうするべきだったのか、鳥越勝利に貢献するために何をするべきだったのかという視点からの総括が大切なのではないでしょうか。
これから事実を明らかにして問題点を検証する作業は本格化するでしょう。各方面から様々な意見が出されてくるに違いありません。
しかし、鳥越さんは立候補するべきではなかった、野党は共闘するべきではなかった、宇都宮さんは辞退するべきではなかったなどという後ろ向きの意見には賛成できません。そのどれ一つが欠けても有力候補の一角を占めることはできなかったでしょうし、当選できると信じて選挙戦を戦うことは難しかったでしょう。
革新都政の奪還は「夢」に終わりましたが、その「夢」を見せてくれたのは立候補を決断した鳥越さんであり、それを支援した野党と市民の共同であり、分裂を回避するための宇都宮さんの苦渋の決断でした。そのどれ一つが欠けても、「夢」を見ることは不可能だったのではないでしょうか。
先の参院選での野党共闘は急いで建てた「プレハブ」のようなものでした。今回の野党共闘は突然訪れた嵐から緊急に避難するために建てた「掘っ立て小屋」のようなものだったかもしれません。
それでも、暴風雨による雨露をしのぐことができました。それがなかったら、激しい雨に打たれて寒さに震え病気になっていたかもしれません。
急いで建てたことに問題はなかったのですが、結局、グリーン・ポピュリズムの嵐によって吹き飛ばされてしまいました。問題は、もっと早くから準備をしてもっと頑丈な小屋を建てることができなかったという点にあります。
選挙の総括によって教訓を引き出すことは必要ですが、それはあくまでも団結を強めて前進し勝利するためのものでなければなりません。分裂を引き起こして後退するようなことになれば、選挙での敗北に加えてさらにもう一度敗北することになります。
選挙が終わっても、都民の手によって都民の手にクリーンな都政を取り戻すための闘いは続きます。選挙の総括はこのような闘いの一環であり、次に勝つための条件を探りそれを生み出すための作業でもあるということを忘れないようにしたいものです。
野党共闘を成功させるための条件
植草一秀の「知られざる真実」 2016年8月 3日
2016年の最大の政治決戦となった参院選では野党共闘の効果が強く発揮されたが、安倍自公政権を大幅に後退させることができなかった。
7月31日に実施された東京都知事選では、与党サイドが候補者を2名擁立し、都政奪還の千載一遇のチャンスを得たが、このチャンスを生かし切れなかった。
安倍政権はメディアに対する統制を一段と強め、権力に迎合するメディアが大多数を占める現状の下で、既得権勢力と対峙して権力を奪還することは容易でない。
しかし、下を向いては未来は開けない。市民の力を糾合して、必ず日本政治刷新を実現しなければならない。大きな敵に立ち向かうには大同団結が必要である。「小異を残して大同につく」対応がなければ、大きな敵を打ち倒すことはできない。そして、その「大同団結」を生み出すには、「正当なプロセス」が必要である。そして、「大同団結」の「正当な理念」が必要だ。
さまざまな人々、さまざまなグループが、さまざまな活動を展開している。それぞれに、思いは強い。しかし、多数のグループがばらばらに行動したのでは大きな力にはなり得ない。政治を変えるには選挙に勝つことが必要である。そして、その選挙に勝つには「戦術」が必要だ。
参議院の1人区、衆議院の小選挙区、東京都知事などの首長選に共通するのは、当選者が1人であることだ。既得権勢力が候補者を1人に絞るなら、対峙する勢力も候補者を1人に絞り込まなければ当選させることは難しい。
このときに大事なことは「小異を残して大同につく」ことだが、その「大同団結」を実現するには「正当なプロセス」が必要だ。みんなが一つにまとまれるような「プロセス」が重要になる。このために考えなければならないのは「時間」だ。選挙が目の前に迫って、どたばたで候補者を決定しようとすれば、「正当なプロセス」を踏む時間を確保できない。あらかじめ、時間的な余裕を持って対応する必要がある。
もうひとつ見落としてならないことは「正当な理念」である。何を目指しての「大同団結」なのか。「正当な理念」がなければ「単なる野合」に堕してしまう。
私たちは、いま、安倍政治の暴走に異を唱えている。「安倍政治を許さない!」という旗の下に集結している。その「安倍政治」とは、「戦争と弱肉強食」の追求であり、これに対するアンチテーゼとして「平和と共生」の旗を掲げている。戦争推進、原発推進、TPP推進、米軍基地建設推進、消費税増税推進の「安倍政治」にNO!を突き付ける。
平和主義堅持、原発稼働ゼロ、TPP不参加、米軍基地建設NO!、消費税増税中止の政策路線を明示する。この政策路線の下に「統一戦線」を構築する。
最大の焦点は衆議院総選挙だ。衆議院の小選挙区の候補者一本化をいまから始動させる。野党共闘の効果は、参議院選挙の12激戦区で立証済みである。これをすべての小選挙区に広げれば、日本政治の一新は不可能ではない。主権者が日本政治を取り戻すために、連帯して行動しなければならない。
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